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じゃ、探偵らしく 2

 光一は、何かを思いついたように描いてもらった略図を見直した。画と現物の樹を交互に何度も見比べる。


「どうしたっすか?」

「……枝から、首までの長さが……」

 んん? と、良介も図を覗き込んだ。

「……これって……このまんまだったんすか? イメージじゃなくて?」


 良介が首に巻かれたロープを指さして、光一に確認した。比率が正しければ、枝から首までの長さは1mも無い。せいぜい60~70cm前後。


「夕べ言ったように、これは写しなんだ。報告用に現場を正確にスケッチした公文書から描いてくれたものだから……」

「……どう、やって……その、高さまで……」


 さっそく疑念が湧いてきた。

 だが自分達は、それほど場数を踏んでいるわけでも無いので即答は控えるべき、と全員がそれぞれの思考に制御を掛けていた。早合点は何の得にもならない。一同は、この資料に記された状況に至る工程を、様々な角度から仮定してみるように心がけた。が、()がすでに確定しているのでその選択肢も多くはない。

 片付けられた()()しれない踏み台で上がるか、二人して枝の上まで幹を伝って昇るか……


「二人で昇って、ロープをかけて飛び降りるってセン……」

「それだとロープは最低、座高以上の長さは必要になるっすよ? 最短でも枝に腰かけてから縛ることになるっす。現場資料のロープの長さからは矛盾するっす」

「それにヘンリーはともかく、ルーチェがあそこまで昇れたかしら? この幹、大した足場も無いし、あたしでも昇る自信、ないよ?」

「あたし……も」

「ちょ~っと、臭ってきたなぁ……」

「なに他人事みたいに言ってんの! なんでこんな簡単な事、昨日の段階で気が付かなかったのよ、アズマぁ!」


 由美さん、プンスカプンプン丸。


「い、いや、あくまで場所の確認だったから……」

「言い訳しない!」

「まあまあ由美さん、落ち着いて。今の段階では即断は禁物っす。警吏が言い忘れただけで踏み台か、それに類する物があったかもしれないっす。担当警吏に要確認すね」

「あ……うん、そうよね。冷静にならなきゃ」


 自殺に対する疑問点。由美としては思わず、エマたちに吉報を伝えられるかも? との思いが先走りかけていた。あの気の毒な未亡人たちの救いになるかも、と。

 しかし、それは色眼鏡だ。思考を偏らせてはいけない。

 冷静に……それは自分で自分に言い聞かせるべき言葉だと由美は自戒した。


「町に戻ったら、警吏に確認してみないとな」

「そうっすね。返答次第では……」

「なに?」

「遺体も調べたいっす」

「い!? 遺体をぉ!? おじさんマジぃ!? さすがにキモイんですけど!」

「アンデッド何十体も蹴散らした由美さんの言葉とも思えないっすね?」


 良介さんニヤニヤ。


「あれは魔獣よ、魔獣! 大体、科捜研じゃあるまいし、あたしたち素人が調べたところで何か分かるの?」

「確かにな。もう葬られて三週間ほど経ってるんだろ?」

「え、なに? マジでお墓暴くの? いくら捜査のためでもやり過ぎじゃない?」

「由美さん、千里眼で覗けないっすか?」

「えー! ちょ、まってよ~。確か、この国って土葬でしょぉ? 光が届かないし無理よぉ」

「ま、その辺も警衛所や役場で聞いてみるっすかね?」




 街に戻った探偵団は役場に直行、この町における死者の弔い方について聞いてみた。そこで聞いた話によると、以前、アンデッド事件で赴いたラフロ町の神父らが言った、アンデッド化防止処置を施した上で埋葬と言う点は同じだった。

 ただ、ラマントは墓地の敷地が狭く、個別に埋葬できる数は少ない。それが出来るのは領主やいわゆる町の名士などの裕福な上級民程度であり、庶民は百体ぐらいは収められる大穴が掘られていて、そこに並べられるらしい。遺族は用意された、ごく狭いスペースに遺髪や遺品を納めた墓標を立て、そこで供養・祈りを捧げるそうだがそれも金次第だそう。


「遺体が、ある程度溜まって来ると埋めて、また新しい穴を掘るみたいっすね」

「じゃあ、いつかは場所が無くなるんじゃねぇの?」

「その時は昔の古い穴を掘り返すらしいっす。その頃には、骨以外は土になってるそうっすよ。ね、サンディーニさん?」

「大昔は長老がどこに誰が埋まっとるか記憶しとって、個別に埋葬も出来とったそうなんやがな。町の人口が多くなってそうもいかなくのうて……火葬を主張する者も出て来たのう」

「ラフロ町のヨミさんも、火葬に移行するみたいなこと言ってたわねぇ~」

「ご遺体を燃やすなんてバチが当たりそうやが……墓地の敷地も限られとるでなぁ。そうなったらワシら管理人の仕事も変わるのぅ」


 案内してくれた墓地管理人の一人、中年から初老に差し掛かりの男がしみじみした口調で呟いた。フェレッチョ・サンディーニと名乗るこの男は、光一らの申し出た遺体確認にも然して嫌な顔をせず付き合ってくれた。


「ここやな」

 フェレッチョは今現在、引き受けた遺体を安置する穴を指差して言った。


「ほれ、その隅に二つ並んでおるご遺体があるやろ? それが、あんたらが気にしとる二人やわ」


 光一らはフェレッチョの指を差した延長線上に目を動かした。そこには説明通り、二つの遺体袋が寄り添うように横たわっていた。

 他の遺体は大した法則性も無く、そのまま放り込んだだけじゃね? てな具合で転がっていたのでその周りだけ、ある意味異質な雰囲気すら感じた。


「わざわざ、あんなふうに並べたんすか?」


 良介が遺体を見つめつつ、フェレッチョに質問。


「ああ。運んできた葬儀屋に話は聞いとってな。まあ、やった事は褒められたもんや無いけんどな、そこまで惚れ()うとるんなら、いつまでも一緒に居らせたってもええかな? そう思ってのう」


 エマたちからすれば、余計なお世話どころか、逆撫でになりかねない気配りだが、光一らにとっては有り難かった。

 調べるにしても、出来る限り他の遺体に近寄ったり触れたりするのは精神衛生上、出来る限り避けたいと想うところであるし。


「じゃあ、始めるっすか。真鈴ちゃん、よろしい?」

「うん……」


 促され、頷く真鈴。


「ゴメンね真鈴……」


 謝る由美。

 役場で、遺体はまだ完全埋葬はされていない事を聞かされた一行は、由美の千里眼による調査を思い立ったのだが、そこは由美が難色を示した。

 そりゃ、遺族の者でもない、他人の死体をまじまじと見分するなど気持ちの良いものでは当然、無い。そこで、

「大丈夫……由美さんが、謝る事……無い」

代わりに真鈴がスキャンを申し出たのだ。


 真鈴は毒成分を察知、分析できる特殊スキルを持っている。そこで遺体の損傷した部分と、していない部分の毒・有害な菌類、異質成分の濃度の違いで異常なところがあれば検知出来そうだというのだ。

 当初の毒成分の察知以上の分析力だがこれは、

「じゃ、由美さん……指輪、貸して?」

フォンの力を借りられることが判明したからでもある。


「フォンさん……聞こえる?」

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