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探偵っぽい 5

 ヴィータのいきなりの錯乱に、そしてエマの口から出た不可解な言葉に、どう反応していいか分からず呆然と見つめるしかない由美と良介。やがてカーラが奥から薬と水を持って駆けつけてきた。


「ママ、これ飲んで! ゆっくりね」

「あ、あ、あ……カーラ、エマ……んぐ!」


 エマはカーラから薬を受け取ると、ヴィータの震える口に半ば強引に含ませて、水と共に飲み込ませた。


「エマ、カーラ。ヘンリー、ヘンリーを……」

「うんうん。今から呼んで来るから、カーラとお部屋で待っててちょうだいね。直ぐに行ってくるから!」


 そう言うとエマはカーラに目配せした。

 それを受けて、カーラは「さあ、こっちよ」とヴィータを部屋に誘導する。


「じゃあ、行って来るわね! さ、皆さんもご一緒に!」


 まるでエマに追い出されるように押され、未だ戸惑う由美であったが、

「由美さん、ここは……」

良介にも引っ張られて外に出た。



「うつ病の類っすね。見たこと有るっす」


 エマらの部屋を後にして宿屋へ戻る途中、由美たちの話題はヴィータの豹変について、だった。


「あたしは初めて。ビックリしたわ、死んだ旦那さんを呼んで来いとか、声の質? 思いっきり低音のガラガラ声って言うか。同じ人の声とは思えなかったわ~」

「症状の個人差は激しいらしいっすけど、言ってしまえば脳が誤作動起こしてる状態っすからね。まともな理屈やら道理なんて聞き入れてはくれないっす」

「だから、エマさんたち『今から呼んで来る』なんて言ったのかな~?」

「多分、そうっすね。あそこで『旦那さんはもう死んだ』って言い聞かせても無駄っす。とにかく頭を休ませるしかないっす。この世界の薬が精神疾患に、どれだけ効くかは分からないっすけど、エマさんの話によればあの薬、睡眠薬の類だと思われるっすね」

「でも目が覚めたら、また……」

「頭が落ち着けば錯乱していたころの事は忘れてるっす。と言うか、記憶に残らないんすよ」

「ホントに、脳がまともに動いてくれないのね……ヴィータさん、最初は優しい声だと思ってたのに、豹変した後はまるで別人、いえ、女性の声とすら思えなかったよ~」

「これは俺の妄想っすけど日本でも昔は、ああ言うのは狐憑きとか先祖の祟りだとか言われてたんじゃないっすかねぇ?」

集合住宅(アパート)の他の住民も『悪霊が憑りついた』なんて(うそぶ)いてたわねぇ~」

「あまりの変化ぶりに、霊現象並みに扱われるってのはこの世界でも有りそうっす。マジで霊現象のフォンさんの方が愛嬌があるって皮肉っすね」

「これで、調査結果がマジで不倫の果ての心中だったら……」


 正に気が重いなんてものでは無い。調査を進めるのが重荷になっていく由美。しかし、

「例えそうでも……」

良介が呟く。


「俺たちは真実を探るしか無いっす。依頼人が納得するかどうかは依頼人の問題っす」

「そうねぇ~。他の浮気調査でも、浮気してないのに『いや、やってるはずだ!』とか、逆に不倫の証拠掴んだって言っても『そんなの信じられない!』とか喚くヒトいるじゃん? いやあんたら、自分の望む答え捜せとか無茶ぶりっしょ、知りたいのは真実ちゃうの? とか思ったけどね~」

「同じっすよ。今回、依頼料は全額前金でJ・Vの支部に預かって貰ってるっすから、いつも通りの調査と、その報告っす。そのあと、その報酬を受け取って王都へ帰還。そう、いつも通りっすよ」

「そうね……」


 由美も当然、頭では分かっているつもりだ。

 だが、それですっきり割り切れるほど人間が出来ている訳でもない。それに至るにはまだまだ由美や光一は、探偵としての経験値も人生経験も、まるで足りてはいないのだ。

 とは言え、日本でも成長途中真っ盛りであったのに、あろうことか魔族やら魔獣やらがうろついて、中世宜しく仰々しい鎧を着込んだ兵士や冒険者が、剣や弓矢のみならず魔法などと言う怪現象まで操る異世界に放り込まれると言ったこの有り得ない現状。

 こんな非現実的且つファンタスティックな世界で通用する生活力など、闇ギルドアローザのロゼやマイロの様なガキンチョにも後れを取っていると言われても反論しきれない。最近ようやく、この世界の勝手が分かってきた程度だ。


 ――やれる事、やるべき事をやるだけよね~

 由美は軽く頭を振って、エマの家族への感情を振り払って探偵としてあるべき心情に戻した。

 取り敢えず今は、宿屋へ戻って光一たちと合流して得られた情報を交換・共有し、これからの方針を検討する事に全振りである。



 それぞれの調査を終えて合流した光一や由美たちは、街の食堂で夕食を取りながら雑談交じりで今日の出来事を語り合った。

 近辺で取れる小麦がデュラム小麦的な品種であるせいか、パスタのような料理が多く、お薦めで出されたミレリーゲほどのマカロニ形のパスタとクリームソースで煮込まれた豚肉を和えた品は、光一らの舌にも馴染みの味であり、何か懐かしさを感じながら日本よりかは若干堅めな茹で具合のパスタの食感と味わいを堪能していた。


「なんか、ホッとするような味よね~」

「だよな~。他だとダシとか味付けとか、やっぱりこちら風味だし。でもここの料理は慣れた味って感じだよな」

「水も、良いみたい……不純物、少ない……」

「真鈴ちゃんのお墨付きっすか?」

「毒察知スキルが成分分析に転換できるって良く気付いたわね~」

「た、大した事じゃ……ない……有毒成分、比率を……割り出してる……だけ」

「でも、おかげで食材の傷み具合も分かって助かるっす。氷と塩の冷蔵庫しか無いから完全冷凍とか出来ないっすからね」

「そういや、おじさんて料理上手よねぇ。唐揚げとか、よく再現できたよね?」

「親が死んでから、ずっと一人暮らしっすから。それに模型作りの趣味もあって、何かを作るってのが性に合ってるのかもしれないっす」

「良さんに掛かると、料理も模型と同じレベルかぁ?」

 光一が軽く噴き出しながら。


「まあ言ってしまえば……素材を用意して、ベースを整えて積み上げていくって点では通じるものがあるっすね」

「おじさんが料理するとエミリーちゃん、お休み取れるから喜んでたね~」

「仕事が終ったら乾燥パスタや小麦粉買っていきたいっすね」


 食事中は、ほぼほぼ雑談に終始した探偵団。だが、やがて全員が皿を空にすると、

「さて……」

食後の茶を飲みつつ、本件の検討に入った。

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