探偵っぽい 4
良介は続けた。
「本来、俺たち探偵の仕事は真実を追求する事っす。エマさんのお兄さんに対する想いは十分に伝わって来てるっすけど、真実が判明した時、それがエマさんやご家族の意にそぐわない結果となっても……そこは覚悟してほしいっす」
「そんな。でも、兄は……」
「お兄さんの名誉を回復できるとしたら、それは真実だけっす。俺たちがエマさんに忖度して事実を捻じ曲げた結果を出して、それが巷に広まったら……」
「……」
「お兄さんはもう一度、尊厳を損なうことになるっす」
「あ……」
正論を持って来られ、エマは知らずアツくなっている自分を自覚したようだ。深めに呼吸し、落ち着こうとしている。
さらに良介は続ける。
「聞けば、職場や巷の噂話もお兄さんに対して結構キツ目の、批判的な色になっているそうっすね? そう言う人たちは、この町での立場もあるから世情に流される事も有るでしょうけど、俺らはそう言うのは無縁っす。どちらの立場にも立たずに、全くの第三者の立場で見られるっす」
「は、はい……」
「その上で、お兄さんに有利な事実だけを集めてくれと仰られれば、その要望に応えるのはやぶさかでは無いっす。けど、本来の目的からすれば良い結果は出て来ない――と、その辺りは心得て頂きたいっす」
「はい……はい……」
「如何されるっすか?」
良介は静かにエマに尋ねてみた。
「し……真実、を……」
「……」
「真実を、突き止めて……下さい……」
「……承知しましたっす」
「よろしく、お願い……します」
「ええ。それでは、さっそく情報を集め始めたいと思いますんで、今日はこの辺で。あ、一応念を押しますが、これから俺たちは、あちこちで聞き込むとか調査とかするつもりっすけど、依頼人は誰か? などは一切答えない方向で行くっす。エマさんも俺たちに依頼した事は口外しないで頂きたいっす」
「はぁ……でも、それは、なぜ?」
「依頼人の回し者みたく、色眼鏡を掛けて吹聴する者も居るんすよ。エマさんが勘繰ってる、心中以外の何らかな疑惑が出てきたりすると、そう結論付けた連中がメンツのために妨害してくるってのも有り得るっすからね」
「じ、じゃあ、兄は不倫などしていないと、信じて頂けるんですね?」
「いやいや。あらゆる可能性を考慮するって事っす。それこそ、あなたや警吏方も気付かない見方をする事もアリっすよ。その辺りで妙な妨害は受けたくないっす」
「そう、ですか……わ、わかりました。もし聞かれても、身に覚えはない、と言えばいいんですね?」
「うす。調査が終了するまでは、それでお願いするっす」
「肝に銘じます」
「じゃあ、今日の所はこれで」
今のところの、エマからの情報は概ね聞き取れたと判断した良介は、聴取を切り上げようと由美に目配せ。由美もそれに応じ、共に立ち上がった。
と、ほぼ同時、
ガチャ
隣の部屋のドアが開いた。
――ん?
そこからは母子が現れた。おそらくはヘンリーの妻ヴィータと娘のカーラだろう。
「義姉さん。どうしたの?」
「ごめん叔母さん。自分からも、よくお願いしたいってママが……」
カーラがヴィータの代わりに答えた。歳の頃は10~12歳程度だろうか?
対してヴィータは、まだ30代の前半と聞いていたが肌の艶といい、髪の毛の荒れ具合といい、由美の目には10歳は老けて見えた。
――いかにも、窶れてるって感じね……
ヴィータの目は非常に虚ろであった。カーラは、そんなヴィータを支えるように付き添っている。
「タンテイ……さんと仰られましたね?」
「は、はあ……」
「どうか……どうかヘンリー……夫の汚名を晴らしていただきたく……なにとぞ、なにとぞ……」
事件が起きてから三週間ほど経っているとの事だが、やはりその程度では癒えるような事では無い……由美も良介も目の前の、打ちのめされた未亡人の姿には得も言われぬ哀れさ、悲しさを感じざるを得ない。
――でも……
だが自分たちは探偵である。この依頼で究明するのは、事件の全容であり真実である。例えそれが、悲しみに暮れる未亡人にとって受け入れがたい現実であったとしても、だ。
「義姉さん。大丈夫よ、真実は一つだもの」
「そう、そうよ。ヘンリーはあんな事する人じゃない。それはあたしが一番良く、分かって……」
ヴィータはヘンリーの無実を疑っていないようだ。いや、無理にでも信じようとしているのかな、とさえ由美は感じた。が、
――奥さんの、思い通りの結果が出るとは……限らない……
もしもそうなったら、居た堪れない事この上ない。由美は、亡き夫を信じて自分らに縋って来る彼女を前に、今から気が重くなる思いであった。
「ん、タンテイさんに任せておけば大丈夫だからね? 気を楽にして、吉報を待ちましょうね」
「そうよ。あの人があたしやカーラを裏切るはずが無い。ヘンリーに聞けばわかる事だわ……」
――え? 旦那に?
由美の胸内に強烈な違和感。聞き間違え?
「ママ、休みましょ! さ、ママ」
次いで、口調は柔ら気ながら焦燥感を感じるカーラの言葉。
先ほどの違和感が強まり、由美はヴィータとエマを交互に見た。エマもカーラと同じく目に若干の強張りが走っていた。
「へ、ヘンリー……」
「義姉さん! お部屋に戻りましょう!」
「ヘンリー……ヘンリー!」
――ちょ、なに!?
いきなり夫の名を叫ぶヴィータ。その声は、さっきの弱々しいが高い声色とは明らかに違っていた。
「居ない! ヘンリーが居ない!」
未亡人から出た声は思いっきり低い、呻き声のような声であった。
「ママ、落ち着いて!」
「ヘンリぃー! カーラ! ヘンリーを呼んで来て!」
「義姉さん、しっかり! しっかり気を持って! カーラ、お薬!」
叫びながら震え出すヴィータ。声は相変わらずの呻き声。女性の声と言うより、先だって対峙したアンデッドの呻きに近い。
「お願いカーラ! ヘンリーを連れて来て! 倉庫に居る筈よ! 倉庫の支配人なんだから倉庫に!」
「わかったわ、あたしが呼びに行ってくるから、義姉さんはお部屋で待っててね?」
――え? え? 呼びに行くって……な、なに?




