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探偵っぽい 3

「そりゃ聞き取りくらいはやったようだけどな。兄――ヘンリー・フリージンはドレン商会の倉庫支配人だったんだけどね。担当倉庫の雑役女中、ルーチェとか言ったかな? 彼女との不倫を副支店長に目撃されて、支店長に報告されて、最悪クビだって言われたらしくてなぁ」

「不倫くらいでクビ~? そりゃ確かに褒められたことじゃないけどぉ~」

「ダメに決まってるさ。社内で、しかも同じ持ち場でそういう関係になると依怙贔屓(えこひいき)や派閥の元になるし、派閥は結託しての横領・汚職の温床になりかねないからね。経営側としちゃ見過ごせんよ」

「ふ~ん、そっかぁ~」

「で、女中は農村からの出稼ぎ組なんだけど、仕送りは出来なくなるし、こんな不祥事が伝わると家族は村で肩身の狭い思いをする。そしてヘンリーは妻帯者。妹も厄介になっているのに、不倫が嫁に知られたら……で、思い詰めて心中を選んだ、と。遺書も並んでたし、他の事件性は無いって、警吏の結論だよ」

「なるほど、筋は通ってるよなぁ」

「でも……エマさん、信じられ、ない……と?」

「夫婦仲もすごく良好だった、自分を気遣ってくれた優しい兄。そんな兄が不倫で、しかも心中なんて! ってとこさ。そりゃまあ、信じたくない気持ちは分からんでも無いがねェ。で、こりゃ本来ウチで受けるような仕事じゃないって断ろうと思ったんだが、本部からあんたらの事でお触れが来てたしな。話してみるけど期待すんなよって依頼人には言っておいたんだ」

「モロにウチ向きではあるわね~」

「で、詳しくはここじゃなくて本人の家で……っすね?」

「まあウチの部屋、使ってくれても良かったんだが事情も事情だし、あんまり人目に付きたく無ぇだろうし。何より、奥さんもかなりメンタルやられててな」

「むしろ、奥さんの方が納得いかない?」

「聞いた話だが、近所じゃおしどり夫婦で有名だったそうだしな。近隣の住民も『人は見かけによらないね~』とか噂されるほどには意外だったようだし」

「なるほど、承知したっす。それじゃ依頼人宅には、明日にでも伺うとするっす」

「了解だ。ああ、そうだ。役場や警吏のとこへ行くなら事前に声、掛けてくれ。ウチのもんに案内させるよ。あと、依頼人ちの略図も渡しておくな」


         ♦


 依頼人エマ・フリージンの自宅は町の中心街に近めの集合住宅だった。

 間取りは3DKで、こちらの世情としては比較的広い部屋である。ヘンリーは商会の倉庫支配人と言う役職でもあったため、給金も平均より上だそうだ。


「いつか郊外に一軒家を……それが兄夫婦や、あたしたちの夢でした……」


 ダイニングのテーブルに案内された由美と良介は、エマからの説明に耳を傾けていた。

 口頭で詳細を聞くだけでもあるし、探偵団全員4人もゾロゾロ押し掛ける事も無いだろうと言う事で、こちらは良介・由美だけが訪問した。

 光一と真鈴は別行動を取っていた。「現場百回」では無いが、関連した場所は洗い直しておこうと考えて今現在、二人が心中した現場に向かっている。


「だからと言ってケチケチして、とにかく貯金に精を出して、と言うワケでもありません。義姉ヴィータや、姪のカーラとの時間も大切にする人でした。バカンスの時は家族で遠出したりと、夫も生前は、兄夫婦が目標だなと、いつも……」

「そんなお兄さんが、不倫した挙句に心中なんて?」

「とても信じられるような事じゃありません!」


 由美の気遣う様な問いに、若干声を荒げて答えるエマ。こんな反応アリだな~とは思いつつ、由美はちょっと引いてしまった。


「お気持ちは、もっともだと思うっす。しかし警吏の方は、心中と結論付けたんすよね?」

「遺書とかは有ったのよね?」

「一応それぞれの家族あてに。双方の家族への謝罪と、愛し合ってしまった悔恨のような短めの文が。それを傍らに置いて二人並んで、手首を縛り合った状態で首を吊っていたのを発見……されまし、て……」

「なるほど……」

「あたしも義姉もそのルーチェさんとは面識も無かったし、兄も話題にすらしてませんでした。なのに……」

「まあ、ホントに不倫なら敢えて話題にしないように努めていたかもしれないっすねぇ」

「警吏の一人にも、そんな風に言われました。なにより、副支店長が不倫現場を目撃して、支店長から叱責されていたという証言が出てきてしまって……」

「ドレン商会のラマント支店……すよね? ウラは取ったんすかね?」

「支店長が、副支店長の報告を受けて兄に解雇を言い渡した……そう証言したそうです」

「ふむ~……」

「でもさぁ。これが自殺じゃないとしたら、他殺って事になるワケでしょ? 誰か怪しいのが居るのかしら?」

「いえ、それは……」


 エマは言葉を詰まらせた。もし、それらしい人物がいるのなら聞いておきたいところではあるが、この反応からして「誰が」とは思い浮かばないらしい。そうなると……


「他殺と決めつけるのも尚早っすね。例えば、ヘンリーさんかルーチェさんか、そのどちらかが別れようと言い出し、イヤだ別れたくないと問答のあげく無理心中……てのも有り得るっす」

「ル、ルーチェさんがそんな事を強いた、としたならまだ……」

「納得できるの?」

「……」

「ま、それもあくまで可能性の内の一つに過ぎないっすけどね。で、お二人が逝かれたのは、その何日後っすか?」

「当日です」

「は?」

「いきなりっすか?」


 解雇通知――その日のうちに心中。

 早すぎんじゃ? 由美も良介も思わず首を傾げた。

 不倫発覚による決断だとしても、拙速に過ぎるのではないか? 並の感覚ならば、もう少し思い悩む時間も有りそうなものだと。しかも下した判断が心中。

 由美も良介も、さすがにこれには違和感を感じた。遺族なら尚更であろう。


「なるほど。話を聞いただけでも引っ掛かり、感じるっすね」

「そこまで愛し合っている仲なら、駆け落ちって選択もあるもんねぇ~?」

「そんなこと! 兄はそんな人じゃ!」


 エマの見幕に、またしても引いてしまう由美。あくまで仮定の話で言ってみただけなのにな~っと言いたげに、良介をチラ見宜しくアイコンタクト。


「落ち着いてほしいっす、エマさん」

「あ……失礼しました、つい……」


 良介に言われて、頭を下げるエマ。


「一応、最初に言っておきたいっすけど……」

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