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探偵っぽい 1

 今日の井戸端には東の地回り、ボンズも参加していた。日課の見回りの最中らしい。


「ラフロ町じゃアンデッド300体皆殺しにした! ってみんなで『ウッソだろぉ』って驚いてたんだよ?」

「マジでウソだから! おばちゃん、それ流してるヤツに言っといて! アンデッドの数は200! ほとんど派遣隊や防衛団、それに坑夫のみんながやっつけて、あたしは1割も倒してないって!」 

「1割でも大したもんやがな。ギルドでもファミリーでも、ユミ()()はこれから一目置かれるで?」

「う~、最悪~!」

 ガシッ! 

 募るストレスを叩きつけるように、由美は渡されたリンゴを力み一杯で齧った。


「いいじゃん、二つ名なんて勲章みたいなもんだろ?」

「なに他人事みたいに言ってんだい、コーさん? あんたにも二つ名、出て来てんだよ?」

「は? お、おれにも?」


 思わず人差し指で自分の顔を指す光一。


「な、なんて?」

「リザードマン・コウ」

「はあ!?」


 ブ―――! 

 剥いてもらったリンゴを頬張っていた由美と真鈴が噴き出した。咀嚼したリンゴも一緒に飛ばしてしまい、嫁入り前の乙女としては些か恥ずかしいシチュではあったが、殊のほかツボッてしまったようだ。


「な、なんでおれがトカゲ魔族……あ……」

「服……置いて、ぷ! ……逃げ……る、から……ぷぷ! けほ、けほ! ぷぷぷ!」


 笑いながら(むせ)る真鈴。しばらく収まりそうにない。


「それがモロ、トカゲの尻尾切りだってなぁ。アローザんとこのガキンチョが吹いてるらしいんだがや」

「ロゼとマイロか!? あんにゃろー!」

「あははは~! あたしってば、まだ恵まれてたのねぇ~。あっはっは!」

「くっそ~。じゃあ、真鈴は?」

「いや、今んとこ、あんたら二人だけだね~」

「……セーフ……」

 真鈴ニヤリ。

「よし! なら、おれが付けてやる! そうだ、人呼んで隠れBLのま……ぎえ!」

 ぎゅううう~っ

「ふがががぁ~!」

 脇腹を真鈴に思いっきり(つね)られ、光一は呻き声以外出せなかった。


「びぃ? なんやね、それ?」

「なんでも、ない! ……ボンズ、さん……忘れて」

「お、おう……」


 相変わらずのボソボソ声ではあるが、なんとも言えぬ凄みを帯びた真鈴の声に、ボンズは己の好奇心を引っ込めた。

 噂になるほど目立った戦果を挙げてはいない真鈴だが、そこはそれ、光一らと連んでいる事から彼女も如何ほどのキャパを秘めているか? それを考えるとボンズは真鈴にも一目置かざるを得ない。



「で、明日からまた遠出かい?」

「うん、今度は東のキュウビィに近いラマントって町に行くんだけど」

「今日は……その、必要物資の……買い込み……」

「そうかい。まあ気をつけてな。また土産話、聞かせとくれ!」

「ん! じゃあね、また来るわ~!」

 光一らは、遠征の買い出しを終えて、事務所に戻って行った。


          ♦


 翌朝、光一らラマント出張組の見送りを終えて事務所に戻ってきた平蔵は、留守番のヘレナからザーラ――トマーゾの使いが来ていたことを報告された。先だっての慰謝料の回収が完了したので、事務所とアニタの取り分を届けてくれたのである。


「ああ、行き違いになっちゃったか。初のコラボだし、〆の挨拶はしておきたかったな」

「若衆の方も、くれぐれもよろしく、と仰ってましたわ」

「そっか。いや、ヘレナくん。所長代理ご苦労さま」


 平蔵は羽織っていたマントルを脱ぎながらヘレナを労うと、所長席の椅子に座った。まもなく、エミリーが「どうぞ」と淹れ立ての茶を差し出した。


「お、エミリーちゃん、ありがとう」


 ススーッ 平蔵は軽く茶を啜り、ふ~っと一息ついた。


「それじゃあヘレナくん。そこからウチの費用分を差し引いて、分けておいてくれるかな? 依頼人への慰謝料分は、僕が午後から届けてくるよ」

「承知いたしました。それにしても……」

「ん? なにかな?」


 ヘレナは報酬の仕分けを始めつつ、平蔵に問いかけた。


「こちらにお世話になって3カ月。事務所設立間も無くから、ずっと見て参りましたが……」

「うん」

「話には耳にしておりましたが、市井でも男女のトラブルがこうも多いとは……いささか、戸惑いを感じる次第でして」

「ああ、そうだねぇ。ウチに来る仕事も半数がソレ絡みだもんねぇ」

「信じられません。未婚者ならともかく、既婚者でこんなにも不貞が行われているなんて!」

 他人事ながらエミリーちゃん、プンスカプンプン!


「だよねぇ。真鈴ちゃん達でもそうだけど、これからの人生で素敵な恋も訪れるだろうに、こんなドロドロとしたモノを見せたくは無いんだけどねぇ」

「神前で二人、誓い合ったというのに! 神罰が下ります!」

「そうね。エミリーの気持ちも分かるけど、今はお仕事の時間だからアツくなるのもほどほどにね」

「あ、すみません、つい……」

「ん、素直ね。あ、依頼人の分のお金を入れる袋が欲しいわ。エミリー? 作り置きの小袋、私のベッドの下に入れてあるから、取って来てくれないかしら?」

「はーい、すぐに!」

 元気に明るく返事するエミリー。事務所を出て、そそくさと三階に向かって行く。


「まだまだムクだねぇ」

「宮殿内は男女の愛憎はもちろん、様々な駆け引きや綱引きが絡み合っていますから……その点では外で育てられたおかげで、まっすぐな性格になったのは僥倖、と言えますでしょうか」

「て事はヘレナくんも?」

「そう言った空気には辟易していたところもありますので、今の状況は結構、気が楽だなって思ってたりしてます。こちらでのそう言った愛憎劇の火の粉は、自分や自分の親族に掛かってくる事も有りませんし」

「僕たちとは毛色の違った意味が擡げてくるのかねぇ?」

「とはいえ、多すぎる現実を見せられますと気が滅入る事も……」

「それに今、リョウくんたちが向かってる案件も正にそんな臭いだもんねぇ」

「不倫の末の心中事件……最初から気が重くなりそうなお話ですものね」

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