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王都の夜 蠢く者たち 2

「え? どうって?」

「いえ、だからその……コ、コウイチとやらに、お姉さまは何かその……」

「あらあら。あなたの目にはそんな風に見えているのかしら? 私が彼を特別に見てるんじゃないかって?」

「あ! いえ、そんな! 御不快に思われましたらお詫びします!」


 慌てて取り繕うキャティ。いかにも、お姉さまに嫌われないようにとの必死さを撒き散らしている。

 シーナは、そんなキャティをにっこりほっこり、微笑みながら眺めていた。


「ん~、そうねぇ。確かにあのコには、すごく……異質って言うのかな? 今まで感じたことの無い雰囲気って言うか、目線って言うか、それは感じてたのよね」

「そこはやはり、異世界人だからと言う事では?」

「その一言で片付けるのも……なんだか、それも違和感があるのよ。ん~、どう言えばいいんだろ?」

「まさか……」

「え?」

「……お付き合い、されるとか?」

「え~? 何言ってるのよ、それは、ちょ……っと……」

「……姉さま?」

「う~ん。でも、()絡み抜きで……このまま、嬢と客で割り切るのも抵抗って言うか、引っ掛るわねぇ」

「……我ら側に、引き……?」

「キャティ?」

「あ!」

「場所、選ぼ?」

「は、はい!」

「ま、先はどうなるか、分からないけどね。先、は……」

「?」

「……」

「……姉さま?」

「そっか、先かぁ」

「あ、あの、姉さま。わかりません、一体?」

「……ちょっと付き合い方、変えてみよっかな?」

「え? あ、あのコウイチとですか?」

「もうちょっと、近くに寄ってみたいわねぇ。あ、なんならあなたが寄ってみる? お兄ちゃ~んとか言って迫って」

「ちょ! 姉さま! 無体です!」

「冗談よ、冗談。もう、顔紅くしちゃってぇ」


 シーナは、再び暖かく微笑みながらキャティを抱き寄せ、おでこにチュっとキスをした。


「姉さま……」


 シーナに抱かれてトローンと安らぐキャティ。

 そんな少女をやさしく包むシーナの目は、右斜め上の宙をボンヤリ見つめていた。

 

         ♦


 この世は男と女と金で回っている――などと言う嘯きを耳にして久しい。

 話にはちょくちょく聞いてはいるが、若い者から老がつく年代にかけて、それはそれは様々な事情ながら男と女の色事に関する事象は枚挙に暇がない。


 アーリウム探偵事務所々長・後藤平蔵も、日本にいる時からそれはヒシヒシと感じてはいたが開所以来、依頼件数の半数が男女絡み――不倫・浮気関連である事には、深い溜め息をつくしか無かった。

 そして今回、平蔵が受けている案件もその類であった。部下の半分は男女経験値など、まだまだこれから重ねていくっていう若者であるというのに、彼らの先に暗い影を落とさねばいいが、と思わざるを得ない平蔵である。

 しかも今回の依頼人は、その後始末の要望に於いては一番過激であった。故に光一や由美などは噛ませず、平蔵一人でケリを付けに来たのだ。

 まあ探偵団から一人でと言う体であるが、他に現場の確認のために依頼人も同行しているし、この後始末(カチコミ)の助力のために第三者の()()()もいるのだが。


「な、なんだ! ア、アニタ、おまえ! こ、こんな他人と一緒に踏み込むとか、なんて事しやがるんだ!」

「なによ、こいつら! あ、あんた何考えてんのよ! 常識ってもんが無いの!?」


 常識のある人間なら、他人(ヒト)の亭主と(ねんご)ろになんか成らんだろう? と言いたいところだが、陽も暮れた静かな宵の口の中、しっぽりとした行為の真っ最中に表の戸を蹴り破られて、数人の男女に乗り込んで来られればパニクるのも已む無しであろう。


「……」


 そんな二人を、冷たく見降ろす男側の妻アニタ。今回の依頼人である。


「お、おまえ、俺の事、コソコソ後をつけ回したのか! 他人まで雇って!?」

「サイテー! そんな性格してるから浮気されるんじゃない!」

「……」


 アニタは眉一つ動かさず二人を見降ろしていた。

 平蔵の聴能力によって、両人が腰を振り始めたことを確認後に踏み込んだため、夫はまんまフルチンであり、女は何とかシーツで隠すものの、片乳はハミ出してしまっていた。

 そんな情けない格好で凄まれようが罵倒して来ようが、もう滑稽でしかない。


「所長さん?」

「はい、それでは……」


 依頼人であるアニタに促され、平蔵は一歩前に出た。


「え~、この度は奥さまの御依頼により、ご主人とそちらの愛人さんとの不貞行為、その事実確認を行わせて頂きました(わたくし)、アーリウム探偵事務所のヘイゾー・ゴトーと申します者でございます」

「タ、タンテ?」

「なによそれ! 聞いた事無いんだけど!」

「すでにお二方の、いわゆる不適切な関係は、わたくし共の調査で事実と確認されておりました。が、奥さまが問い詰めても私が証人だと申し出ても、すっと呆けるであろうとの推測からこのような現場を抑える手段を取らせて頂きました次第にございます」

「てめぇ、一体何の権限が有って、人んちの家庭壊してくれてんだ!?」

「これは異なコトを。奥様からの正式な依頼があったからと、先程も説明いたしましたよ? 更に家庭が壊れる原因はあなたの不貞行為に他なりませんし? もしや、黙っていれば何も問題は起こらなかった! バレなければ何も無かった事になるんだ、暴く方が悪い! なんて、稚拙な屁理屈でもコネられますかぁ?」

「クズよクズ! 人をコソコソ尾け回すなんてドブネズミ以下だわ!」

「言いたいこと言いよるのぅ」


 ガサ入れに同行して、一番後ろで顛末を眺めていた随分と目つきの悪い男が思わず呟いた。そんな強面(こわもて)の男も、身勝手な姦通男女に、すっかり呆れているようだった。


「だ、誰だよ、てめぇは!」

「オレが説明すんのか?」

「いえ、僕の方から」


 平蔵は同行の男を抑えて説明を始めた。


「今回の一件を以て、奥さまは御主人との平穏な婚姻生活を送る事はもはや不可能と判断され、ご主人とは縁を切る、つまり離婚に至る事を決意なされました。結婚式を挙げた教会には、明日にも申告に行かれるそうです。で、この婚姻関係の破綻を引き起こした御両名には、この責任を取って頂くべく相当額の慰謝料を請求させて頂きます。これは王都府発布の法度に基づく正当な権利であります。神前での誓いを破った者への当然の懲罰であると」

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