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王都の夜 蠢く者たち 1

どうも三〇八でございます。ご覧いただきありがとうございます。


 今回より新章に入ります。臨むと望まざるとにかかわらず、この世界の住人になっていく探偵団のエピソード。

 少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


 トリアーノ王国王都イオタニア市。その市内の東地区は、アレッツォ・ドミノ率いるドミノファミリーの縄張りである。

 そこには西のザーラや南のイルハ両ファミリーと同様に、ドミノファミリーの一大資金源となる歓楽街――花街が存在している。

 週末でもあり、郭内は酒に賭博に、そして色事に。日頃のうっ憤を吹っ飛ばそうと、一時の快楽を求めて大勢の客が集まり、活気に満ちていた。


 そんな賑わいとは全く別の空気を纏う、一般庶民には中々縁の無い高級娼館アーニマ―。それは郭の一番奥まった場所で、厳かに門を構えていた。

 西の高級館で、イオタニアでも最上級とされるファーラほどでは無いが、政府高官や軍の高級将校が利用する、この街一番の館である。


 ファーラと同じ4階建て。その最上階で、とある高官が娼妓を交えずに、王都府認定の冒険者ギルド、(ジャック)(ヴァイス)のギルドマスター、ディット・フリットと(グラス)を傾け合っていた。


「そろそろ新酒の季節ですね」


 用意されたワインを味わいながら、ギルマスのディットは高官に話しかけた。


「ああ、もうそんな時分だな。今年もブドウの出来は良好だと便りが来ておる」

「副部長のお故郷(くに)は、ワインの一大産地ですからな。年末にはフレッシュなワインを楽しめそうですね」

「いや、今年はそうもいかん。例の計画は近々、次の段階に入るのでな」

「それは……『特戦隊』の事ですな?」

「ああ」


 相槌を打ちながら、国防軍特務部副部長トクアン・トロムはテーブルに杯を置いた。


「彼ら異世界人の持つ特殊魔力は、順調に成長を続けておる。基礎的な魔法学の習得から、一隊を率いる軍の運用法まで身に着けつつある」


 トクアンはワインで火照り始めた胃を鎮めるように、アミューズとして出された、チーズを乗せた一口サイズのクラッカーを口に放り込んだ。


「彼らの知的水準はおしなべて高いレベルにある。物覚えの早さは舌を巻かざるを得ない。おかげで当初の想定通り、いや、それ以上の成果も期待出来そうだ、とすら囁かれ始めてな」

「とりあえずは、順調ですな」


 ディットは空になったトクアンのグラスに、二杯目を注いだ。


「それなりに大所帯ではあるが、まあまあ足並みは揃っとる。()()()を取り除いたのは正解だったと嘯く奴も居るが……」

「……よほど、優秀なのですな、他の異世界人は。しかし件の連中とて、人並みならぬ能力を発揮しておりますがなぁ」

「らしいな。タンテイ……とか言う職種(ジョブ)を名乗っておるそうだな?」

「副部長からお話を頂いた時から、どう扱ったものかと思いましたが……」

「あの半端な能力をそれなりに活かして、まずまずの良い結果を出しておるようだな。しかし、あまり目立って貰ってものう」

「その辺あたりは……流れ者で且つ、反社もどきと言う評判になりつつあります。あまり表に出ないように、出来る限り王都外の仕事を廻すようにしております。王都内では……色恋沙汰の調査中心に、ザーラとの諍い程には成らないように割り振りを」

「自分で言っておきながらアレだが、目立たなければよいというのも考え物だな。変に隠そうとすると得てして真逆の結果を引き寄せる、なんて事例も珍しくはない」

「なるほど、目的は特戦隊の機密性保持ですからな。市井の話題を反対の方向に割く方法も場合によってはアリかもしれません。わかりました、その辺りは一層注意を図りましょう」

「これからも宜しく頼む。何かあったらその都度、連絡をくれたまえ。世話になるな」

「出来る限りの事はやらせて頂きますよ。しかし例の二人……王女姉妹に事が及びますと……」

「それこそ、こちらの案件だ。その時も迅速な対応を期待したい」

「心して。しかしキュウビィは彼女らをどうするつもりなんでしょうかね?」

「妹君の件……」


 トクアンは一度言葉を途切ると、もう一度チーズクラッカーを口に運んでから続けた。


「ザーラは利用されたに過ぎん、と言うのは確定だ。目はドレン商会に向けねばならんが、それさえ捨て駒の可能性もある。こちらも諜報部がキュウビィ側と内偵を進めてはおるが、鬱陶しい事になりそうでな」

「鬱陶しい?」

「まあ、その辺は時が来たら……に、しておこうか?」

「は、承知いたしました」

「タンテイたちの能力上昇の気配、それは最優先で注視してくれ」

「お任せを。では、そろそろ食事と行きましょうか?」


 リリリン……リリリン……

 ディットはテーブル横の呼び鈴を2回振った。


「……失礼いたします」


 扉が開かれ、呼び出しに応じて現れた女性は、ファーラのマダム・フローラに負けず劣らずの器量を持ったアーニマ―の遣り手――マティルダ・モライネンであった。


「今宵は当館を御贔屓いただき、まことにありがとうございます……」


 マティルダによる定番の挨拶。その後、若い女給たちによって、まずは前菜の配膳が始められた。

 見た目華やかで食欲をそそるオードブルを並べる少女たち。トクアンはその中の一人の娘の顔に見覚えがあり、ついと声を掛けた。


「ん? 君は確か……キャティ君、だったかね?」

「御心にお(とど)め頂きまして誠に光栄にございます、副部長様。今はシーナ()同様、こちらに籍を置いております」

「ああ、そうか。そうだったね。シーナ君は息災かな?」

「はい。ですが所用も多く、お座敷にはまだ上がれませんが、私は一足先に……」

「うむ。例の件では君たちに累が及んでしまったようで申し訳なかったね。詫びも兼て是非また語り合いたい。そうトロムが言っていたと、伝えておいてくれたまえ」

「ありがとうございます、(しか)とお伝え致しますわ」

 トレイを胸に抱え、キャティは深くお辞儀した。




「うーん、あのコウちゃんがねぇ……。さすがにこれは意外ね~」


 給仕の仕事が終り、部屋に戻ったキャティは、トクアンとディットとの会談内容をシーナに報告していた。


「あたしは何故お姉さまが、あんな男を気にかけるのか疑問でしたが……ちょっと得心が行きました」

「ふふ。血は薄いと言っても、犬族のクォーターだけあるわねキャティ、大した耳だわ。面白い情報も転がり込んできたし」

「魔力も使わないと、さすがに最上階の壁は()()ませんでしたが……お姉さまのお役に立てられたなら嬉しいです! でも、お姉さま?」

「ん? なあに?」

「例のタンテイたちとは……如何なされるおつもりなんですか?」

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