恐怖の新人 2
「ん? どうだ? 好機だぞ?」
「出来るか、んなの!」
「そうか? ふ~む。若い男女が連れ立って、色事が皆無とは首を傾げるのぅ?」
「お前の首がどこに有るのか、説明してもらおうか!?」
「結構、息の合ったコンビかと思ったが? 背中を預け合っての警戒・索敵もサマになっとったしの……そういや、宿でも同衾しておらなんだな。お主、女子には興味が無いんか? 衆道の方か?」
「そう言うこっちゃねぇよ!」
「そうよのう。年相応に興味が有りそうであるし……む? もしや胸の大きさが物足りんか?」
「ああ、確かに由美はちっぱい……いや、だ・か・ら!」
「なるほど、確かに生前の我より二周りくらいは小さいのう。だが、中々どうして捨てたものでは無いぞ? 小さな胸は小さいなりの柔らかさと言うものがあってな? これに執着する男も、それなりの数が……」
「いっしょにすな! てか、お前、女だったのかよ!?」
「そこの亡骸見ればわかろうが? 劣化はしておるが、衣服・装飾はそのままだからの」
言われて光一は遺体に目を移した。よく見直すと、荒れているとは言え、髪の毛は長いし、朽ちかけた服も女性向けに見える。そして指や首周りの装飾品……
「なるほど、言われてみれば……」
「な? 借り物とは言え、これで我は身も心も一端の女性よ。孕ませると後々何かと問題だが、接吻や乳揉み程度は証拠も残らん。ほれ、掛かってこんかい」
「アホ言ってんじゃねぇ!」
「いや~、我もこんな状態ゆえに、ずいぶんご無沙汰でのう。どや?」
由美の手が光一の首に廻ってきた。まるで光一の頭を包み込むように。光一くん、貞操の危機()
「やめろって! バレたら由美にM4でハチの巣にされちまうよ!」
そんなん出来るんならシーナ姉さんで……いや、ダメだ、そんな相手の気持ちを無視してイタズラするなど黒歴史確定だ!
と、面目を保ちながらも、実はちょっと期待している情けない自分と脳内で鬩ぎ合っていると……
ジャリ……
――ハッ!
空洞中心側にヒトの気配! これはもしか……しなくても、
「よぉ、こっち、どうだい?」
「すみません、手間取りまして。実は、あちらで有望な鉱脈が次々と……あら?」
当然、ヨミとメイスである。んでもって、光一の首に由美の手が回っている状況を見るなり、
「あらあら、まあまあ。あらまあ、あらまあ」
と、お約束の早とちりである。まあ、それも已む無しなシチュではあるが。
「いや~、こりゃお邪魔しちまったか? いやいや、先に言うか、合図くらいくれよな~。こっちだってそれほどヤボじゃねぇし」
「申し訳ありませんねぇ、気が利きませんで。しかしながら、こんなところでい《・》たされるとは御二方、なかなかの達人ですわね!」
――何の達人―!?
(ほれ見よ。もたもたしとるから邪魔が入りよった)
(それはいいから! 憑依の能力も分かったから、とにかく由美を解放しろ!)
(そうか? じゃあ、しっかりと検討してくれよ?)
フォンとの念話が終ると同時、再び由美の身体から力が抜けた。首に回していた両手も、だらん、と下がる。
「わ! あれ? あたしなんでしゃがんでんの? え? ヨミさんたち来てたの? いつの間に?」
「ふふふ~、照れ隠ししなくていいよぉ~。誰にも漏らさないって」
「え? え?」
状況を把握しきれずキョトキョトする由美。
後で説明を求められるであろう光一は、フォンの茶目っ気をどう説明したものか、今から頭が痛かった。
「あら? ここにもご遺体?」
メイスがフォンの亡骸を見つけた。
「でも、原形留めてるわね。どうしてアンデッド化しなかったのかしら?」
「ん~」
ヨミが両手を遺体に向けて眼を閉じ、念を込め始めた。
「魔族だね、これ。それに、かなり高位の魔族だよ。潜在魔力のレベルも高いっぽいし、アンデッド化しなかったのはその辺かな?」
さらさらとフォンの素性を分析するヨミ。さすが、痩せても枯れても聖職者の端くれと言ったところか?
「妙ねぇ。そんな上級魔族が何でこんなところに……」
「人間だとしても妙さ。大体どうやって迷い込んだんだか……お!」
何かに気付いたのか、ヨミが遺体の汚れを払い始めた。腰回りや首周りだ。
「ヨ! この飾り金じゃね!? ベルトとか!」
「あらあら、ホントに上流と言うか、いいとこの魔族なのかしらね」
「ラッキー! 弔い前に頂いとこうぜ!」
そう言うと二人は、フォンの装飾を上機嫌で剥ぎ取り始めた。
「ちょ! 亡くなった人のモノ、ガメちゃうの!?」
と思わず由美。
だが、ヨミとメイスは意に介さず、と言うかキョトンとした目をくれてきた。
「は? 当たり前だろ? こんな値打ちもん、死体と埋めるなんて、もったい無いじゃねぇの」
「損壊した鉱山の扉とかの補修にもお金がかかりますからね。無駄には出来ませんわ……え? 普通、そうですよね?」
絶句。光一と由美は文字通り言葉を無くした。
だが、彼女らを責めるのは、やはりお門違いだとも思う。あくまでこれがこの世界の、この国の、この地方の常識なのだ。よそ者の光一らがどうこう言える事では無いのだ。
(おい)
「え?」
フォンが念話で話してきた。
(娘、済まんが頼みがある)
(……由美よ)
(そうか。ではユミ、我の遺体の右手に指輪が残っているはずだ。あれだけでも回収してもらえまいか?)
(指輪? どうすんのよ、そんなの。あんたには実体も無いのに)
(あれは、母上の形見でな……)
「……」
(遺体を弔ってもらえるなら、他の装飾はくれてやっても良い。ただ、あの指輪だけは……)
(……わかったわ……)
フォンの依頼を受け、由美はヨミたちに仕掛けることにした。
「ま、もっともな話よね~。死人はなんも文句言わないもんね~」
由美は二人に同意する振りをして近づいた。
「だろ? まあ、棺に花や思い出の品を入れたがる奴もいるけど、死人はそれを喜びもしねぇし、嫌がりもしねぇよ。ありゃぁ、残された遺族の心が安らかになるための通過儀式よ。葬式も供養も墓も、むしろ遺族のためにあるのさ」
「シスターが言うと説得力あるわね~。じゃ、協力したあたしたちにも分け前、有っていいよね~?」
などと、由美は出来る限り、さりげなぁ~くを心掛けて仕掛け始めた。




