恐怖の襲撃 3
え?
出口方向からの大声。
救援隊か? 班長達の脳裏にそんな期待が走るが、耳を塞げ?
と班員たち、一瞬の躊躇の後、
ドガアァン!
「が!」
とつぜん、落雷のような爆音が坑内に木魂した。同時、
バッキャアァーン!
班長らと揉みあっているアンデッド後方の個体、その数体の首が、爆音と共に木っ端微塵に吹き飛んだ。
「うりゃ!」
後ろからの爆発の勢いに体勢を崩したアンデッドの隙を逃さず、班長とスタッキーは目前の個体を撃退、撤収の時間を作ることが出来た。
「後退しろ! 早く!」
爆音の元になった人物の声。言われるまでも無く、確保出来たこの時間を無駄にするわけにはいかない。
激しい耳鳴りが響く中、班長とスタッキーは得物を投げ捨て、ヂョロの両脚に取り付いた。
「いでぇ!」
「我慢だ! 脱出するぞ!」
痛がるヂョロの両手両足を抱えた班長らは、全速で出口に向かった。
ドガアァン! ドゴォォン!
再び響く爆発音。鼓膜が破れそうな大音響だ。
耳を塞げと言われたが、とてもそんな余裕は無かった。鼓膜を犠牲にしても、命を優先すべきと判断した班長は、
「助かった! ありがとよ!」
と礼を言いつつ、散弾銃M870でアンデッドの侵攻を抑える光一の横を通り過ぎて行った。
「調査班が戻って来たぞー!」
「誰か運ばれてる! ケガ人がいる!」
入り口付近で内部の様子を窺っていた鉱夫たち。
響いてきた聞き慣れない爆音の連発に、由美の言った通り、調査員たちが彼我不明の何等かの襲撃で何人かが負傷しているらしいことを確認した。
爆音の正体は、言わずと知れた光一による散弾銃の銃撃音である。
後詰めとして残った由美は、銃を使用しなければならない状況――おそらくは襲撃してきた何者かと戦闘に入っている可能性を鉱夫たちに説明していた。
襲撃って?
相手は何者だ? 魔獣? 野獣?
やっぱりアンデッド? いや、しかし……
鉱夫たちは各々に思い付いた事を口にしたが、その正体など二の次だ。まずは先行している仲間たちの無事が最優先である。
そして現れた調査班の姿。欠員無しの5名全員だ。
最悪の事態は避けられたようだ。だがその安堵もつかの間、そのうちの一人が他の4人全員に抱えられて運ばれているのが見えて来た。
「台車持ってこい! ケガ人を町へ運ぶぞ!」
事故か? 襲撃か? それは不明だが、まずは仲間の救出だ。資材を積んでいた手押し台車の荷が降ろされ、ヂョロの収容のため坑内に向かった。
「乗せろ!」
「相手はやはりアンデッドか? どこをやられた!? 齧られたか!?」
「アンデッドの傷は負ってねぇ! だが足首やっちまったらしい、立つ事も出来ねぇようだ!」
「急げ! 医者に見せるんだ!」
応援に来た鉱夫たちは、ヂョロを荷台に乗せると治療を受けさせるべく、町の病院施設に向かって走り出した。
「班長さん、アズマは!?」
全員生還、ヂョロを送り出して一息ついた班長に由美が聞いた。
「わしたちの退路を確保してくれていた! すぐに来るはず……」
バン! バンバン!
班長が言い終わる前、奥から銃声が響いてきた。
――散弾じゃない、拳銃の音だ
散弾を撃ち尽くした? それとも装填のヒマがない? などと由美が逡巡していると、
バンバンバン!
と、拳銃を乱射しながら駆けてくる、光一の姿が見えてきた。
「アズマ―! え?」
そしてその後ろからは……
ぼうええぇぇ……
気色の悪い呻き声の大合唱と共に、光一を追いかけて殺到するアンデッドの大軍が由美の視界に映ってきた。その数は、
「げ!」
すこぶる大量! 下手をすると3桁を突破しそうな勢いで迫って来る。由美、思わず絶句。
調査班が彼我不明物体――アンデッドに襲われた事は、由美も透視していた。
当然、救援に向かう事になるが、狭い坑内に大人数は却って身動きが取れなくなるとの判断から火器で武装した光一が単身、乗り込んだのだ。
だが、この数は想定外に過ぎた。
由美も、すぐに支援に向かえるように、入口付近まで進入して不測の事態に備えた。
そのせいで距離が詰まり、詳しい状況は透視できなくなっており、詳細な敵総数は掌握しきれていなかったのである。
「ユミの先生、外へ! アズマ先生が出られたら入口の扉、閉めますよって!」
「あたしはアズマを援護するわ! 人一人分の隙間だけ開けておいて! アズマが来たら一緒に出るから!」
バシィッ! バシィッ!
鉱夫に、そう指示した由美はM4で光一の援護射撃を始めた。
しかし、こちらに向かって来る光一の軸線から射線を逸らさなければならないため、彼の直後の個体が狙えない。効率はすこぶる悪かった。横から回り込もうとしている個体を止める程度であった。気付いた光一も左側――由美にとっての右側にコースを取って走り、M4の射線範囲を広げた。
ゾンビィやアンデッドと言うクリーチャーは動きや歩みが緩慢であるのが相場だった。
昨今の創作物では全力疾走してくる可愛げのないゾンビィが多くなったが、目の前に迫るアンデッドはそこまで迅速では無かった。
だが数が多すぎる。囲まれてしまえば強力な火器を携えていても、撃退・脱出できるとは限らない。
「アズマ! 早く、早くー!」
バシィッ、バシィッ!
「おう!」
由美の援護射撃を受けて、銃撃をやめて脱出に全振りする光一。まっしぐらに出口に向かう。
由美は背中を扉に預けて光一を援護し続けた。と、ほぼ同時に光一が出口を通過。光一の脱出を確認して、由美も即座に外へ出る。
「そりゃぁー!」
ガコオォーン!
鉱山入口の扉が閉じられた。
「アズマ! 大丈夫!?」
「ああ! なんとか!」
「ごめん、射線上にあんた入れるワケに行かないから真後ろ狙えなくて」
「え? 謝るこっちゃないだろ? とにかく、回り込まれるの阻んでくれただけでも。んぐ! んぐ! ぷはぁ~、焦ったぁ~」
光一は由美から水筒を受け取り、干上がった喉を潤して、やっと一息つくことが出来た。
取り敢えず、アンデッドの閉じ込めは成功した。が、
ドンドン! ギシッ! ビシッ!
奴らは次々と取り付き、扉を圧迫し始めた。扉が歪み、あちらこちらから軋む音が響いて来る。
「閂急げ―!」




