恐怖の教会 2
「まあ、大昔はここも戦場になった事が有るからな。纏めて死体を埋めたってのも有るかもだが、そんなに深く――今、鉱山で採掘しているような深いところまで掘らねぇし」
「有るには有るんだ?」
「まあ身代金取れそうにない捕虜に穴掘らせて、ご遺体放り込んで、掘った捕虜も一緒に埋めちまうってのが相場だからな」
「……」
そりゃこの世界の、それも昔の世情的には、人権意識なんて乏しいだろうけど……そいつらが怨霊化するのはアリじゃね? とか思ってしまう光一・由美である。
「ま、そんな感じで。アホほど深くは掘らねぇよ」
「マジで霊魂とかはナシ~?」
「まったくさぁ~、んなもん居るかっつーのよ」
「幻聴だろうによぉ」
「だろねぇ……あの野郎ども、まさか仕事中にキメてんじゃないかしらね?」
「え?」
「決める? あ、キメ……」
「は? 知らねぇのか? オバハンから何も聞いて無いのん?」
いかにも、え? 常識なんだけど? みたいに意外そうな顔をするヨミ。
対して光一・由美は困惑する事しきり。だが不意に2人の脳裏に、前回遠征した時のロゼとマイロが運び屋をやっていた事例が過った。
「あちゃ~。ようタンテイさんよ、今のはここだけの話にしてくんな。街の外への持ち出しは厳禁で、な?」
「……やっぱ……麻薬?」
「幻魔草は、ヤクっつーほどのモンじゃねぇけどな。煙草よりちょっと飛べるって程度でよ」
「効果は10分くらいで消えるし、依存性も大した事、無いしさ」
「それでも麻薬の一種なんでしょ? 法律に違反してんじゃ?」
「まあ、表向きはな。でもよぉ、鉱山の仕事は狭くて息苦しい場所でよ。んでもって暗くて周りの状況も見づらくて、いつも神経使ってるからな。それなりにストレス溜まるんだわ」
「身体は温泉で癒せても頭ン中はね~。女遊びより安価なハッパでリフレッシュ、つーワケさね」
「いいのぉ~?」
「ちゃんと指導はしてるさ。仕事中や、馬とか馬車に乗ってる時とかは止めろってよ。ちゃんと安全な場所で他人に迷惑かけねぇようにってな」
「……なんか、神父たちがバラ撒いてるみたいに聞こえるんだけど?」
まさかね~。
「んにゃ。あたしたちは売人に降ろしてるだけだよ」
「買い手一人一人に指導してるヒマなんか無ぇぞ? 冠婚葬祭、礼拝に人生相談に懺悔と、これでも結構忙しいからな。その辺は売人任せだよ」
「ちょ! 教会が元締めー!」
「違う違う! 俺たちも卸しだ。指導するにも、俺たち聖職者の口からの方が言う事聞くからよぉ」
「元締めは町長だし? アガリは町のために使われてるし、ウィンウィンだし?」
んが!
光一と由美の顎が同時に落っこちた。悪い冗談――なんて言葉じゃ片付けられない現実だ。
「それに、頭がオシャカになるようなブツは、あたしたちが締め出してるしね」
「客、潰しちまっちゃぁ酒代出て来ねぇからよぉ」
「どぶろくでも作って飲んでろ! 稼ぎの半分、呑みやがって!」
「……」
本来の目的である、怪現象解明のための情報収集のハズが、出てくる話は町ぐるみのブラックな背景説明だらけ。光一も由美も、こんな時にはどんな顔して聞いてりゃいいのか全く分からなかった。
「お疲れ様です。あ、驚かれましたぁ?」
教会での聞き込みを終えて、役場に顔を出した光一たち。その顔は反社丸出し教会()のおかげで随分疲れた表情になっており、察したメイスは、ほぼほぼ悪びれずに聞いてきた。
「すみませんね~。あの教会については一言、お知らせするべきでしたわ」
「あたしたちの頭にある聖職者とは、かなり掛け離れてたわよ~」
「ええまあ……あの宗派は、元より堅苦しさの無い派閥なんですよね。で、ここは荒っぽい気性の鉱山関係者が多い街ですから、説教するにも本山の様に、お淑やかには行きませんもので」
――警察の捜査四課が、ヤクザと見分けがつかないってのと同様かなぁ……
「ホント、口悪かったなぁ。かかぁがどうの、ヒステリック・メ……あ……」
教会での呆れぶりのせいでボヤキが強く出た由美。思わずデミウルのメイス評が口に出た。
ピク!
メイスの眉毛が鋭く鳴動()する。
やば! 口滑らせた!? と思うも、時すでに御寿司。
「ん~、神父様が、な に か 仰 っ て ま し た ぁ ~?」
「あ! いえ! その~……」
「あの方にも困ったモノですわ~。お酒と、有る事無い事を口走るのさえ無ければ神父様としてご立派ですのに~。今晩お話しに行かなくちゃ~」
メイスの背景に煉獄の炎が見えたのは由美の気のせいであろうか?
取り敢えず今日の聞き込みを終えた光一は、由美と共に宿屋と隣接する酒場兼食堂で、ちょいと早い夕食を摂る事にした。
この街の一般的な繁忙時間とはズレているらしく、店内の客は自分達だけだ。
やがて仕事帰りの労働者たちが集まって来て、満席になるほどの賑わいを見せるらしい。
「なんか、あまり実の無い一日だったわね~」
細かく刻んだ肉や、キャベツに似た緑黄色野菜を出汁で和えて炒めた物を、薄いパン生地の上に乗せてチーズフォンデュで閉じた感じの料理を齧りながら、由美がボヤいた。
「聞いた証言も、前情報を裏付けただけってとこだな」
光一も、咀嚼したパンをオレンジに近い味の果汁で飲み込みながら答えた。日本のようにサンプルはもちろん画像も無いので注文には常に不安が付き纏うが、今回は当たりであった。オレンジに若干レモンのような風味が乗っており、飲み後がすっきりする味わい。
更にパンの方も、
「結構おいしいねコレ。パンも他に比べて食べやすいし。こういうの見ると、ピザとか食べたくなるよね~」
と、味の染みた具とサックリとしたパン生地の食感が由美の頬を緩ませる。
今晩のメニューは二人の口に合う、日本の店舗でも有りそうな馴染み深い味付けであった。
今回のような遠征時は、食の善し悪しが仕事のテンションに結構、響いて来る。
食の楽しみの比重が自分たちの世界よりも重い事も有り、それは体力的にも精神的にも重要なファクターだった。
「ああ。似たような料理とか無いもんかな~って、王都でも余所の街でも気を付けちゃいるけどなぁ。ま、それはさて置いて……」




