恐怖の教会 3
光一は話を戻した。
「鉱山は思ったより安全等にも気を使ってたし、坑道の補強とかも、しっかりと施されてたな」
「完ぺきとは言えないけど、魔石照明や送風とかも備えてたねぇ~。風穴とかの風鳴りの可能性も低いかな~?」
「とすりゃ幽霊説になっちまうんだけど、これはいくらなんでもなぁ」
「でも、あんなガチムチガタイの人夫さんたちがビクビクするなんて、裏を返せば幽霊とか亡霊とか祟りとか信じてるって事じゃないかしら~?」
「だよなぁ。メイスさんも、妙に強がってるみたいでなんだか笑えてくるって言うかさ。幽霊に対する印象はおれたちの、昔の世界と大差はないかな?」
「てか、みんな怖がりすぎじゃない~?」
「日本で言えば、いいとこ昭和――もしくはそれ以前の感覚ってところだよなぁ? ユミはどうだい? 夏場とか、TVで心霊スポットだのオカルト特集だのやってたけど、周りにああ言うの信じる奴って居た?」
「え~。あれって、笑いのネタで見るもんじゃ無いのぉ~」
「爺さんや婆さんの時代は心霊写真とか信じてた人、結構多かったみたいだけどな」
「写真って、昔は撮ってから写真になるまで、なんかいろいろ手間かけて時間かかってたんでしょ~? だから信憑性とかあったのかな~? 今じゃ画像ソフトで、ちょいちょい、だもんね~」
「こっちじゃその写真すら無いからな。だから、こないだの不倫案件でも現場を押えるしか無かった……ワケっし!」
どん!
「よぉーお!」
突然、後ろから叩かれる――と言うか、ど突かれるような勢いで肩を揺さぶられた光一。思わず、口に入れかけたパンを噴き出しそうになる。
「え? あんたって……」
いきなりの乱入者。一瞬、虚を突かれて硬直する由美。
「ヨミ……さん?」
「うぃーっす!」
乱入者は、今日の午後に訪れた反社教会の修道女、ヨミであった。
ただ彼女は修道服では無く、その辺の町民と変わらない普段着を纏っていた。
ベールで隠されていた銀に近い金髪は自由を満喫していて、シュルコとバルベットに押えられていた、決して小さくは無いお胸も解放感に揺れていた。
故に光一も、肩を叩かれた時は誰なのか一瞬わからなかった。が、その荒っぽい口調とワルっ気が抜けない目つきから、それがヨミであるという答えはすぐに出た。
「なに? あたしたちに何か用事でも?」
「いや~、そう言うわけでも無いんだけどね。あ、少しは有るかな?」
「なんだよ、思わせぶりだなぁ」
「あんたらさぁ。役所に戻ってから、あのオバハンに何か言ったんじゃね?」
「なにかって……あ……」
「ふふ~ん、身に覚え有りそうだね~。つい先さぁ、オバハンが随分な見幕で乗り込んで来ててねェ。あ~、こりゃ一波乱あるわって思って、ここにフケて来たってワケなんだけど、丁度あんたらがね~」
「言っちゃダメだった?」
「あのオバハンは体裁拘るからねぇ。しかも町のお客さんであるあんたらが、もしや王都で悪評判、言い触らしたりしないかとかさぁ」
「え~、そんなことしないよぉ~?」
「俺たちの稼業、個人情報は秘密厳守だぜ?」
「じゃあ、なんでオバハンがあのザマなのかな~?」
「う……く、口滑らせたのは……やっぱこちらの落ち度ね~。謝った方が……あ、でもどっちに謝れば……」
「あはは、いいよいいよ。あの二人、何かにつけて、ああやってジャレ合ってっから」
「え? なに、仲良いの? 恋人とか?」
「こい……びと? …………ぶ! ぶはははは!」
思いっきり噴き出すヨミ。まさに、噴飯を絵に描いたような笑い方だ。
翻って由美は、予測が外れたというのは自覚するものの、「そんな派手に笑わなくても!」と言いたげに唇を尖らせた。
「ああ、すまねぇすまねぇ。こっちの言葉が足りなかったよな。実はあの二人、兄妹なんだよ」
「兄妹!?」
「だから、あたしもオバハン呼ばわりしてるワケでね~」
なるほど得心。
と、一息ついたところで、
ドンッ!
ヨミの前に、エールが並々と注がれたジョッキが勢いよく置かれた。
「お、さんきゅー」
「夕飯も食べてくかい?」
「ん、おねが~い」
女給は相槌を打つと厨房へ戻って行った。
「ヨミさんは御飯、外で食べてるの? 教会で食べないの?」
「いつもは教会だよ。今日は、ほら、さっきも言ったように、さ?」
「でも、聖職者が街中で、いきなり酒かい?」
「ん~? メシの前には酒だろぉ? 仕事終わりにまず一杯、これだろ! んぐっ、んぐっ、んぐっ……ぷは~!」
いい飲みっぷりである。歳は若いが、平蔵や良介にも勝る勢いで喉にエールを流し込んでいる。
「あれ? あんたら果汁かい? 口ン中甘ったるくならねぇか?」
「食事が終ったら、今日聞き込んだ情報の分析と検討しなくちゃ、だからな。酔ってちゃ出来ないだろ?」
などと弁明するも、実は光一も由美も今までの試験的飲酒で、どうも酒に対する耐性が低いと感じている。
トリアーノ王国は地域によって多少の差は有るものの、飲酒・喫煙は15歳以上が主流であり、しかもその運用も緩い。聞いた話だと、新年のイベントや収穫祭など祭事の時は、量には気を付けられてはいるものの、子供の飲酒ですら目を瞑られているとか。
だから現在18歳である二人は飲酒しても別段問題は無いのだが日本での「飲酒は20歳になってから」という固定概念、加えて酒に対する興味自体も元より少ない。
おまけに、試飲してアルコールが体内を回り始めた時の心臓の踊り方が予想外に激しく、それが収まるにはアルコールが消化されるまでひたすら待つしか無い。結果、恐怖にも似た警戒心が印象に残り、飲酒は避けるようにしているのだ。
「へ~、日も暮れてんのに仕事熱心だねぇ、タンテイって職種は。んぐっ!」
一杯目を飲み干すヨミ。「もう一杯!」とお代わりを注文。
「んで? タンテイさんたちの見立ては?」
「ん? 例の件? まあ取り敢えず、幽霊だけは無いって事で」
「あはは~。ホント、図体ばかりデカくてノミの心臓だよねぇ、連中。全く、幽霊なんているワケないじゃん」
「やっぱりヨミさんも、そう思うの?」
「やっぱり、って?」
「ヨミさんたちが、ホトケさんをちゃんと成仏させてるって自負が有るからかな~って思って」
「成仏云々とかじゃなくてさぁ、人間、死んだらお仕舞いなんだって。死後も魂が彷徨うなんて有りっこないんだよ」
「断言したわね~。よほど自信ある~?」




