恐怖の教会 1
いつまでも仕事の手を止めてもらうのも御迷惑、と光一・由美は坑道の内壁の様子や空気の流れ・送風等の設備の説明を受けた後、今度は教会に向かった。
メイスも役場の仕事が有るだろうし、場所を教えてもらい、紹介状だけ預かって2人だけで赴くことに。
教会は街の中心街から、ちょいと離れたところに建っていた。住人達も気軽に訪れることが出来そうな立地である。
「……」
その教会の扉に書かれていた文言。それを見て、光一と由美の目は若干、ジトってしまった。
全ての迷える子羊も、迷える子猫も、迷えるスライムも神はお救い下される。この扉を開く勇気をあなたに。
「スライム……居るんだな」
「スライムが何に迷うのかしらね~?」
ところ変われば……では無いが異世界で、しかも宗教に関しては教義も何もまだ、ほぼほぼ知識の無い2人にとってはどう捉えればいいのか?
これから話を聞こうとする相手は、自分たちが経験してきた宗教家とは一線を隔すと考えなければならず、接し方においても悩み所だ。
ゴコン……
そうは言っても言質を取らないと事は進まない。光一は教会の扉を開けた。
「あ……」
中の礼拝堂には修道女らしい女性が1人、椅子の埃を叩いていた。由美よりちょっと歳上と言ったところか? 頭髪はベールで被われ、口元も隠されており、済んだ碧色の瞳だけが光一らに優しく微笑んでいる。
「ようこそ我が教会へ。入信ですか? ご寄付ですか?」
「え? えっと、あの……」
「祈祷ですか? 寄進ですか?」
「いや、そうじゃなく……」
「あ、懺悔ですね? それともお布施?」
「……」
何故か最後がゼニ絡みなのは、偶然だろうか? 慣習だろうか?
「いえ、あのう。役場のメイスさんの紹介でこちらに……」
由美がメイスからの紹介状を見せながら。
「こちらでの御意見もお伺いしたい、そう思いまして」
で、その紹介状を見た修道女は徐に目線をひん曲げて、
「あ? あのオバハンの? 何だ、シノギじゃ無いのかよぉ? そういやあんたら、あんま見ねぇ顔だな?」
思いっ切り態度を崩し始めた。
「すんませんねぇ。鉱山での怪現象の調査で王都から来た者なんすけど、お話を伺いたくて」
「ああ、おとついだっけか? オバハン何か言ってたなぁ。よう、オヤジィ! 客だよー!」
――口、荒いなぁ……
なんだか、聖職者のイメージとはどんどん掛け離れていく修道女。戸惑い度上昇中の光一と由美を尻目にオヤジさまを呼び出し始める。
「オヤジィ! おい、いねぇのかぁ! 客だってばよ!」
修道女は何度も呼ぶが、そのオヤジさまの返事が返ってこない。
「出かける用事も無ぇはずだがなぁ。てぇことは……」
奥へ進み、礼拝堂の更に端っこへ歩む修道女。そこにある小部屋の窓を覗き込む。
「やっぱ、ここか! おいオヤジ! さっきから呼んでんだろが!」
「うっせー! 聞こえとるわ!」
小部屋から怒声が返ってきた。
バガン!
扉が蹴り飛ばされるように開いた。いや、開いた扉から足が突き出ていたから実際に蹴り開けたらしい。
そこから僧衣だけは一応それなりに纏っている40代と思しき男が酒瓶片手に顔を出してきた。
「昼飯終わったばっかで町民どもは仕事の真っ最中じゃろ! 礼拝に来る奴なんか居らんやろがい!」
「だからって昼間っから、しかも懺悔室で酒喰らってんじゃねぇよ! 酒の匂いが部屋ン中、染みつくやろがい!」
「ち、全くよぉ。歳食うごとに言う事やる事、かかぁに似て来やがって!」
「父親はどうか知れねぇけど、あたしゃママンの股から生まれて来たんは間違いないかんな、そら似るわ!」
――いや、まんま親子だろ、あんたら……
とても教会と言う場で、とても聖職者同士とは思えない会話にどうツッコんだもんか? またも人生経験の少なさを噛みしめる光一くんであった。
「で、そいつらがなんだって? 覚えの無ぇツラだな。余所もんか?」
「ほれ、メイスおばはんの紹介状だよ。おとつい、王都から調査が入るって言ってただろ? 例の鉱山でのオカルトだよ」
「あ? ヒステリック・メイスの? おうおう、人夫連中がビビッてるってアレか? なんだ、マジで調査すんのかよ?」
「王都認定冒険者ギルド、J・Vから派遣された、アーリウム探偵事務所の探偵、コウイチ・アズマと申します」
「同じく、ユミ・キタガワと言います。宜しく~」
「タンテイ? 聞かねぇ職種やのぅ……まあ、ええか。俺ァこの教会の神父、デミウル・ガスカルだ。お宅らはウチの宗派じゃ無さそうだが、特別に俺の事をファーザーと呼ぶ栄誉をくれてやろう」
「町の客人に、何を高いとこから偉そうにモノ言ってやがんだ、この飲んだくれの破戒坊主が! ああ、あたしはヨミ。ここの修道女で、残念ながらコレの娘だよ」
「親に向かって、コレとはなんじゃい!」
「うっせぇわ! 子は親を選んで出てくるワケじゃ無ぇんだよ!」
マジでここが、教会と言う施設内と言う事を忘れてしまいそうな光一くんと由美さんでありました。
「んで? 例の人夫どもがビビッてるって、あの話だよな?」
「皆、口では否定してるけど、幽霊の類じゃないかって、随分怖がってるみたいなんすけど?」
「ったくよぉ。成りだきゃバカでっけぇくせに、肝っ玉は小せぇんだからなァ。幽霊なんぞ居るかどうかも分からんモン、ビビるようなもんかぁ?」
「て、ことは神父? やっぱ幽霊とかそんなモノ、居ないってことぉ?」
「全部見てるわけじゃねぇけどな。先々代の頃から三代分の指の数、合わせた何倍もの御遺体葬ってきたけどよぉ。戻ってきた奴ぁ、ついぞお目にかかったこたぁ無ぇな」
「アンデッドとか居るって聞いたけど? あれは魔獣扱いだっけ?」
「ありゃぁ人に限らず、野獣とかの死体に魔素が変に集積されて魔獣化する現象だよ。見たこと無ぇか? あ、王都じゃ遺体なんか放置してねぇわな」
「魔素? 魔素が遺体を活性化しちゃうのかな?」
「そ。食欲だけが特化して魔獣化したのがアンデッドでね。だから怨恨だの呪いだのとかは無縁よ。意思だの自我だの魂だの、そんなもん持ち合わせちゃいないわさ。んで、他でもそうだけど、ウチもご遺体の頭には魔素除けの布を被せてから埋葬すんのよ。アンデッド化しないようにね」
「余所じゃ火葬するのが多くなってきてるな。ウチの本山も近々、正式に火葬主流になるかもな」
「じゃあアンデッドの線は消えるなぁ」
「元になる死体が無いんじゃね~」




