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恐怖の坑道 2

 ――ダンジョン……ぽいかと思ったが、そうでも無いな……

 奥に進むにつれて光一はそんな風に呟きかけた。

 入り口からの通洞では、あちこちの支坑が集まって来るので幅も高さも余裕があったが、深まって来ると、さすがに窮屈に感じてくる。とは言え、常に頭を屈めるというほどでは無いが。

「この辺りから、例の音が聞こえると言われているエリアです」

「ここだけ?」

「いえ、周辺にも有るには有るのですが、この辺りが一番多く聞こえるらしくて」

 風属性の魔石による送風はされているが、送風音は余り際立ってはおらず、なるほど怪音の正体が風鳴りだという仮説は、結構な条件が必要となって来そうだ。

 ぱん、ぱん!

「はい、みんな! ちょいと作業を止めてくれないかい? 王都のタンテイさんが謎解きに来てくれたからね、詳しい説明して差し上げて!」

 メイスは手を鳴らして注目を集めると、作業員たちに光一たちを紹介した。

「お? 例の調査か? ようやく腰を上げてくれたか~」

「気になって手が遅れるもんなぁ。早いとこ解決してほしいもんだ」

「頼んまっせ、先生!」

 ――せ、先生?

 見るからに若造である自分たちなのに先生? 光一も由美も、これはさすがにビックラこ。こないだまで、教師を現役で先生呼びしていた側だったのに、今は先生さまに昇格。

 ――いや~、出世したもんだな~、じゃねぇよ……

 相手を持ち上げる、ヨイショする時に「先生」呼びするのは良く見られる常套手段。社交辞令の範疇に入る類だ。

 とは言え、仮にも自分らみたいな青二才に当てるのは、些かわざとらしくも思うが、好意的に見れば、例の現象が彼らにとってそれなりに負担となっているのだろうとも思える。期待の意思表示とも取れる。

 いずれにせよ、気を引き締めて取り掛からねば。

 今のところ探偵事務所開所以来、業績は徐々に積み上がって来ており、信用構築は順調と言って良い。が、まだまだ序盤の段階であるわけで、自信が付きかけの所で躓きたくもない。

「先生だってさ?」

 由美が苦笑交じりの笑顔を向けてきた。彼女もやはり、こそばゆいのだろう。

「はは、期待に応えられるように張り切るか。まずは証言を集めようぜ」

 光一たちは作業員からの聞き取りに入った。



「一番直近で起こった日は?」

「一昨日だよ。ここ4~5日くらいは無かったんだけどな、久しぶりに聞こえて来て、また浮き足立っちまってなぁ」

「何度も聞かれてるでしょうけど、どんな音――声だったのかしら?」

「いや~、あれは何と言えばいいのか……ホント声なんだか音なんだか……」

「う~ん。しかし、ありゃ人間の出せる声じゃねぇし、野獣とも……なんか違うんだよなぁ」

「坑内に響く感じ? 反響してるみたいな?」

「そんな感じもある。どこから聞こえるかは、聞くヤツ次第でなぁ」

「で、目には見えない、と?」

「見えてりゃ退治なり排除なり対処できるさ」

 なるほど、ごもっとも。

「風穴の鳴りも、否定されたのよね?」

「この界隈の山地は、火山の成れの果てだって学者が言ってたし、風穴はそれなりに有るんだけど……」

 ――火山帯? まあ温泉も出るし?

「やっぱ、風の成る音とは違っててよぉ」

「その手の音じゃ無いなら、やっぱり声?」

「ん~、どうにも説明しにくくて……」 

「それなら、え~。ちょっと、模写とか出来ません?」

「え、モシャ? ああ、真似るって事かい? う~ん……」

 作業員Aは眉を歪めて、戸惑いながらも「スー、フー……」と息を整え、

「ご、ごああああぁ……ぐおぁあああ~……」

出来得る限り低音を響かせ、喉を鳴らして再現を試みてくれた。だが、

「そうか? むしろ……ぶぉえああああ……ぼぇあああああ……て感じじゃねぇか?」

などと割り込んでくる作業員B。

「いやいや、なんかこう……ごぶぉおぉおお……ぶぼぉぉおおおぉ……」

 と、更に作業員C。

「バラバラねぇ~」

「坑内で反射音も混じると、感じる個人差はあるかな? オーディオだって同じ条件下でも人によって感じ方は違うしなぁ」

 思わずAV知識から掘り出す光一くん。オーディオなんて聞き慣れない言葉に、首を傾げる作業員も。

「同じ音でも~?」

「ネットでも結構言い合ってたんだ。同じ劇場で同じ映画なのに人によって感じ方が違ってたし」

「あ~、音響とか拘ってたよね、あんた~。で、オタとしては何か閃いた事でも~?」

「今の段階じゃ何とも」

「いろんな本とか映画とか見てんでしょ? 似たようなシチュとか無いの~?」

「フィクションとリアルをごっちゃにすんなって。ホラーみたいに幽霊とか亡霊のせいにするわけにもいかないだろ?」

「ゆ、幽霊!」

「そ、そんなこと!」

 幽霊という単語に、昨日の連中と同じ反応を示す作業員。

 ――おっと、こちらでもか。マジ霊現象とか怖がってんな~

「せ、先生よぉ。幽霊なんて、そんなの有り得るのかよぉ?」

「ウチの職場は、呪われたり祟られたりするような奴ぁ居ないぞ?」

 何か泣きそうな顔してっけど、そこまでビビるもんかね? と光一はさすがに引き気味だ。

 科学技術が発達していない分、迷信や伝承の信憑性は光一や由美たちよりも高い位置にあるのかもしれないが……

「自分もそんなの信じてないですよ。でも、信じる信じないに関わらず、あらゆる可能性を並べて一つ々々消していかないとね」

 ほお!

 さすが先生!

 などと光一の弁に感嘆する作業員たち。

 いや、この程度で? と更に引いてしまいそうな光一くんである。

「で、鉱山内での事故とか、未練残して亡くなった方とか――悲劇的な亡くなり方した人って居たりするかしら?」

「まあ、落盤事故とかで命落とすなんて事例は無い訳じゃないけど……」

「領主さまも町も俺たちの安全確保には力入れてくれてるし、祟ったり呪ったりしそうな事は……」

「例えば、トラブルでケンカになって殺されちゃったとか?」

「ケンカはそれなりに有るけど、仕事中は持ち込まねぇのが現場の鉄則だよ。それで事故でも起こったら結局自分の首絞めるだけだからな」

「中にはしつっけぇ奴もいるけどよ。そう言うのは頭が冷えるまで、中には入らせねぇよ」

「事故死自体は有るのね?」

「その辺はどうしても……でも頻繁に起こる訳じゃありませんわ。数年に一回くらいでしょうか?」

「なるほどねぇ。遺恨や怨嗟とかは低そう……あ、その辺りは教会にも相談したんでしたっけ?」

「ええ。先だってお話した通り」

「『ちゃんと弔っているのだから、妙な噂に惑わされず、すべき業務に励みなさい』と神父さま(ファーザー)に言われたよ」

「ふ~ん。どう、アズマ?」

「ま、その通りなんだろうけどな。その辺の可能性を潰すためにも、教会の話も聞いておくかな?」

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