恐怖の坑道 1
役場が手配した宿屋に案内された部屋は、ツインの一室のみであった。
J・Vからの宿に対する通達は、「派遣されるのは二名」と言う事だけで性別等の情報は無かったそうな。
更に町として気を使ったのか、宿は一番上等ってワケでも無いが、そこそこに上級宿で人気もあり、お約束のように他の空き部屋は一室も無かった。
だがツインであったのは不幸中の幸いだったとも言える。
もしも男女二名と知らされていれば、妙な気を使ってダブルの部屋が用意されていたかもしれない。
そうなっていたら男女平等精神など、どこ吹く風。男女雇用機会均等法? 男女共同参画? なにそれマズいの美味しいの? てな塩梅で光一の床就寝は確定である。
で、ツインならば受け入れられるとかと言うと、
「アズマ! フロント行って来て!」
「ほえ?」
「フロントで衝立用意して貰って来て!」
これもまた、お約束な反応である。
一室とは言っても、町もそれなりの気配りか部屋はそれなりに広く、ソンニ村の宿のようにベッドの間が人一人やっと……と言う事も無く、ベッドは両側の壁沿いに設置されており、距離も一般的な宿屋に比べても有る方なのだが。
「え~? 要るのか? そんなもん」
「当たり前でしょ! 着替えの時どうすんの!」
「着替えって……風呂は温泉で済ませたし、あとは寝る時にチュニック脱ぐくらいだろ? こっちの肌着って結構厚いし、そのままベッド潜り込むだけだし?」
「あ、あたしは違うモン!」
モン! と来ましたか?
てか、いきなりっつーか思い出したように、そ~んな乙女な言葉使いされましても、光一としてはキョトンである。
若干、頬が紅潮気味なのは温泉の所為なのか恥じらいなのか……? しかし恥じらいと言われても普段、ことある毎にオタオタとサゲられている光一としては今さら感もあるが……。
とは言え「だったら廊下で寝ろ!」などと、理不尽この上ない要求まではして来ないのは彼女なりの気遣いか?
まあ取り敢えず続き。
「違うって何がだよ? こっちの肌着の生地は男女差少ないなって真鈴とも言ってたろ?」
「だから、新調したのよ! 薄くて軽くて柔らかいモノを!」
――薄くて軽く……?
「あんたも知ってるでしょ。シーナさんだっけ? あの人、そんなの着てたって、あんたが言ってたじゃん」
「ああ、あれ。え?」
光一に過る、アーリウム探偵団初陣の記憶。エミリーが拉致されている容疑が濃い高級娼館に潜入した時の事だ。
今なお脳裏に焼き付く、薄い襦袢のシーナ姉さんの艶姿。マジで夢に出て来て股間が夢暴発しかけた事もチラホラ。
今ですら、思い起こしただけで下半身に血液が集中しそうなほど妖艶な……
――……て、あれと同系の肌着を着る? 由美が~?
「何よ! あたしが着たってシーナさんほどの色気なんか出ないだろって思ってそうな目ェして!」
「おおい! 人の心象見透かしてるような決めつけすんなよ!」
まあ半分がところ、思ってましたけど……
「フンだ! どうせあたしは逆立ちしたって、あんな爆弾おっぱい生えて来ませんよ~っだ! フンフン!」
由美さん激おこプンプン丸。もう、口でどうこう言っても収まりそうに無さそう。こちらの意地を張るのも別段不条理では無いのだが、考えられるその後の結果予想と天秤にかけると、それも如何なものか?
なにはともあれ、由美だってレッキとした年頃の女の子なワケだし。
「もう~。わかったよ、行って来るよ」
「え、あ……」
「でもそんなの無いって言われたら諦めろよ? そうなったら着替えの時はおれ、外出てるからさ」
半ば呆れ気味に言って、光一は立ち上がった。とぼとぼと扉に向かう。
と、
「……ごめん」
扉を開けると同じくらい、由美が小さな声で謝ってきた。首だけ振りむいて由美を見る光一。
「あんたに、シーナさんの話聞いて……シオンさんに店、紹介してもらって……受け取れたのが、こっち出発する前日でさ。帰るまで我慢できなくて……その……個室だと思ってたから……着てみたくって……」
恥ずかしそうに目を合わさず、呟くように吐露する由美。
そんな由美を見て、光一は小さく嘆息すると、
「そう……思えばそう、だよな」
と返した。
「最近、仕事も軌道に乗って来たけど。いきなりこんな世界に放り込まれちまって、最初は手探りでおっかなびっくりだったもんな」
「……」
「ようやく落ち着いてきたんだし、お洒落したって……バチ当たらんよな?」
「アズマ……」
「いい事だよな、これってさ」
歪みかけていた光一の眉間から力が抜けた。
由美の我儘とも言える(女の子としては当然な)言い分にストレスが噴き出しそうであったが、根幹にあるのがお洒落であったことが光一自身、不思議なくらいに納得――と言うか微笑ましく感じる由美の仕草に、ストレスが霧散してしまった。自分でも、不思議に思うくらいに。
――仲間だから気を使う事は無い……も、ほどほどだよな。気を使う方がいいことだってあるわなぁ……
なぜか今の光一は、由美のお洒落を手伝えることに、嬉しさに近い感情が浮き上がって来ていた。
「……んじゃ、行って来るわ」
「アズマ!」
「ん?」
「あ、あの……」
「……」
「ありがと……」
ホント消え入るような声だった。だがその声は、光一のわだかまりを払拭し、フロントに向かう彼の口元に笑みを呼び込んでいた。
翌朝。
衝立を隔てた部屋で着替えを済ませた二人は、装備を整えて一階に降りた。
宿内の食堂で朝食を済ませると、2人はさっそく件の鉱山に向かった。
入り口周辺まで辿り着くと、既に作業員たちは準備を終えて鉱山内へ次々と入って行く最中であった。
入場に当たり、防護のためにヘルメット――では無いが、革製のヘッドギアと手袋を支給された。2人は同行したメイスに促されて受け取った装備を装着。
世情自体が地球の数百年前的な雰囲気であるので人命も軽んじられているかとも思ったが、なかなかどうして安全対策にも気配りされているようだ。
「大昔は人夫を、それこそ消耗品のように扱う、ほぼ奴隷の如き扱いだった時代もあったんですけどねぇ」
「あ、やっぱりぃ~?」
「ありがちだよなぁ」
「でもそれでは人的損耗が激しく、員数の確保も行き詰ります。で、やがてコツを掴んで効率よく作業する者を厚遇して、作業員同士で競争させ、やる気を出させた方が収益面でもプラスになる、という方面に舵が切られる様になりまして。経験豊富な熟練者はいきなりのアクシデントにも対応する術を持っておりますし、後進の手本にもなりますので技術の停滞が少ないですからね」
「ちゃんと気配りしてんのね~」
「ま、それでおれたちも呼ばれたわけだしな」
「よろしくお願いします。じゃ、参りましょうか」
自らも防具を身に着けたメイスは光一・由美を鉱山内に誘導し始めた。




