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恐怖の長い耳 4

「そうなんすか? でも冒険者だったんなら……」

「キライなんだってば!」

 その割にはマスター・リリィとやり合ってた時ってすっごい生き生きしてたっすけどねぇ? などと脳裏に浮かんだが、さすがに涙目で否定している女性を揶揄う趣味は良介には無かった。

 しかし、

「その割にはリリィとやり合ってた時、すっげぇ生き生きしてたがな。なァ、タンテイさん?」

ブルーノが代弁してくれよった。

「黙れぇ! 明日の朝から()てねぇようにすっぞコラァ!」 

 そう怒鳴り散らすと同時にシオンは、

ドカッ!

目にも留まらぬ速さで懐からダガーナイフを抜き出し、ブルーノに投げつけた。ナイフはカウンターで止まったものの、その位置はちょうどニヤついているブルーノの股間ど真ん中であった。

「ははは、嫁に浮気されても文句言えなくなるから、それは勘弁してくれ」

「ちょ、大丈夫っすか?」

「酔ってケンカする客もいるからな。このカウンター、そんじょそこらの剣やクロスボウじゃ抜けねぇ強度で備えてるぜ?」

 物騒なじゃれ合いではあるが、お互いを見切り、長年の信頼もあっての事であろう。ヘタに避けると却って危険、そんな感じだ。良介がこんな境地になれるのはいつの事やら。

「なんでそんなに嫌いなのかは……まあ、おれたちにも話しちゃくれねぇけどな」

「うるさい、うるさい、うるさ~い!」

「そんじゃあ……その辺の事、聞くのは遠慮するっす。でもシオンさんて……」

「……なによ?」

「あ、いや、やっぱ……」

「気になるじゃない、言ってよ」

「ん~。俺たちの世界には『ギャップ萌え』って言葉が有るんすけど……」

「ぎゃっぷ……え? なに?」

「その~、シオンさんの意外な一面見させてもらって……今のシオンさんがその……」

「だから、なによ?」

「……かわいいなって……」

 

 ボンッ!


 シオンの顔が一瞬で赤ピーマン以上に紅潮した。

「な! な、な、な!」

「ぶふ―――!」

 "かわいい"と言う、思わぬ褒め言葉に顔を真っ赤にして戸惑うシオン。それを見て、ブルーノは肺の中の空気全てを吐く勢いで噴き出した。それはもう、噴飯物ってレベルじゃねぇぞってなくらい激烈に。

「こりゃすげぇ! あのシオンの顔真っ赤にさせるとか、あんた何もんだよ! 催眠魔導士(ヒュプノシスト)だって宮廷魔導士級でもなきゃ無理だってばよ、はーははは!」

「ブルーノ、 てめぇ!」

「がははは! 兄さん、もうあんたの分もおごりにしとくわ! まったく今日はなんて日だ、全然商売にならねぇ。嫁にケツ、蹴っ飛ばされちまうぜ! はーっはっはっは!」

「うっせぇ、この野郎! そのケツの穴縫い合わせて口からクソ出す身体にしてやんぞ!」


         ♦


「へぇ。あのシオンさんがねぇ?」

「俺から聞いたってのは内密にお願いするっすよ? 口止めされたっても一応、後藤(ゴッ)さんにだけは通した方が、と思って話したんすから」

 翌朝。ヘレナ姉妹が同居してから事務所の両隣を住屋にしている平蔵と良介。

 二人は事務所の長椅子とテーブルで朝のパンを食しながら、昨夜の「クロッカス」での出来事を話し合っていた。

「いい判断だね。王女やエミリーちゃんはともかく、僕たち日本人はお互いのプライバシーに触れない限り、情報は共有すべきだよ」

 ヘレナ姉妹は、良介の部屋を宛がってもらって二人で寝起きしているので、階下の事務所での会話が聞かれる心配は無い……筈だが、とは言え相手は聴力に優れた狐族。出来る限り小声で話すように務めた。

「しかし僕も見てみたかったな~、シオンさんの豹変するとこ。良くんじゃないけど、ギャップ萌え感じちゃうかもな~」

「ま、それを見た時はお互いタダじゃ済みそうに無いっすけどね」

「肛門縫われて口から排泄とかゾッとしないねぇ。でもまあ、それよりも……」

 二人はニヤけた表情を引き締めて、話題を修正した。

「シオンさん……と言うか、J・Vは僕たちの監視を国から請け負っている可能性が大……て言うか確定の様だね」

「ウス。それが自然だと考えるべきっすね。安藤さんに開拓団入りを勧めたのもおそらくは……」

「田辺くんも王都内の工匠ギルドにいるし、もしも僕たちの魔法スキルが思わぬ覚醒を起こして化けた時の事も考えてはいたのかねぇ?」

「仮にも国家の中枢にある組織の連中っすからね。ラノベみたいに、『ちょっと考えりゃ分かるだろ?』な、おバカなオツムなワケ、無いっすよね」

「あの時点で、僕たちのスキルでは特戦隊の足並みが揃わないってのはまあ、その通りだろな。ただ、単純に追放してハイお仕舞い、にして逆恨み買って寝首掻かれるのもゾッとしないだろうし」

「実際、俺の魔法能力で作った銃……いきなり、ザーラの反撃を許さなかったあの顛末は……」

「トクアンさんも微妙な顔してたよねぇ~」

「ザーラに続いてソンニ村での討伐……いささか目立ち過ぎたっすかね?」

「そうは言っても、出し惜しみ出来るほど僕たちの経験値は高く無いからねぇ。全力で行かざるを得なかっただろ?」

「コウさんと由美さん、大丈夫っすかね?」

「大丈夫なんじゃない?」

 所長さん、ケロっと。

「幽霊騒ぎってとこらしいけど、まあ、そんなワケないし」

「でも魔法が普通にある世界っすよ、ここ?」

「霊が実在する世界だったら、霊現象に対する知識やマニュアルとかも有るはずだよ。本件を依頼してきた時のシオンさんの反応からして、幽霊に対する捉え方は僕らと変わりないんじゃないかな?」

「なるほど、それもそうっすね。科学が進歩していない分、俺らよりビビるってのも納得っす」

「野獣や魔獣辺りが原因なら、あの子たちじゃなくても対処できるんじゃないかな?」

「ウス。依頼は怪現象の解明だし、討伐は別件っすもんね」

「あの街は冒険者ギルドの支部もあるし、軍もある程度駐屯してるそうだから……まあ、そうなったら、討伐は連中に任せてもいいワケだしね」

 コンコン!

「おはようございまーす!」

「やあ。おはよう、エミリーちゃん、ヘレナくん。今日も時間通りだね」

「おはようございます所長さん。リョウスケさん、昨日は遅くまでお疲れ様です」

「うっす。おはようさんっす」

 ヘレナとエミリーが出勤してきた。これで異世界人(日本人)限定のお話はここまでだ。

「そういや夕べの尾行はどうだった?」

「ええ、やっぱり癒着は事実っすね。次の締め日に裏金(リベート)を受け取るみたいっすよ」

「場所は? やっぱクアットロ?」

「そこはちょっと……まあ締め日に尾行すれば……」

「ふむ。じゃあ、依頼人(クライアント)にはその時に同行してもらうか」

 探偵業も順調に慣れてきた平蔵たちであった。


         ♦


 馬車で揺られて疲弊した身体を温泉でリフレッシュし、用意された宿の寝心地の良いベッドでぐっすりと快眠を貪ろうとした光一と由美。だが、ここで難題が持ち上がってしまった。

「……なんで同部屋なの……?」

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