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恐怖の長い耳 3

「やれやれ。こんな熱い夜は久しぶりだぜ」

「なに? あいつの言ったように()()()?」

 リリィが去り、シオンとブルーノは改めて飲み直しとしゃれ込んだ。溜め息と共に険の取れたシオンはブルーノの言葉にクスッと笑った。

「だが、箱を開けてみりゃあ予想以上に大事だ。最初は跳ねっかえりな流れ者の台頭って線も考えたが、そんな生易しいもんじゃ無かった。ことにこんな話、魔族に嗅ぎつかれたりした日にゃケツに火が付くどころじゃねぇ」

「リリィは何だか燥いでるみたいだけどさぁ。ヘタ打つと魔族からは情報目当てに首狩り、国からは口封じにマジで首狩り。尻の火傷程度じゃ済まないよ」

「オレの氷魔法でも冷やし切れねぇな。おっかねぇ」

J・V(あたしら)はもう首突っ込んじゃったから、本計画とは一蓮托生だけど。言いたくなかったな」

「リターンも有るんだろ? ウチ……いや、J・Vのギルマスが最終的に爵位狙ってるの諦めたってな話は聞いてねぇしな」

「連中のお守だけでそれは無いっしょ? いずれにしてもあんたは引退の身だし『口外はナシ』だけ守ってりゃいいさ。奥さんや娘さんのためにもね」

「痛み入るぜシオン。ま、火がこっち狙い始める前にバックレる準備だけはしておくさ」

「言っちゃなんだけど、この店が閑古鳥鳴いてんのがデフォで良かったよ。他に耳が有ったらリリィを煙に巻くのも一苦労だったし」

「大きなお世話、と言いたいが今日ばかりは言い返せねぇな」


「俺は居るっすけどね?」


「……」

 シオンはブルーノの顔を見た。

「……」

 ブルーノはシオンの顔を見ていた。

「「……」」 

 二人は同時に声のした方を見た。

「「……」」

 もう一度、目を合わせ合うシオンとブルーノ。更に再び声の主に目を向ける。

「「……」」

「……うっす」

「リ! リョウスケ! さん!」

 シオンは眼ン玉がでんぐり返るかと思った。長い耳がすっぽ抜けて天井に向かって飛んで行ってしまうか位のショックを受けた。

 なんと、一番奥のテーブルに探偵団の一員、良介が座っているではないか。

「い、いつからそこにー!?」

「え? やあ、シオンさんと入れ替わりに出てった2人組いたっしょ? 実は仕事で、あの内の一人を追ってて……誰と会うか知りたかったんすけど、ウラは取ったから今日はアガろうかと思ってて」

「み、見てたの!? 全部!?」

「こ、こいつが例のタンテイとか言う? そ、そういや水割り出したな……全然気付かなかった。てっきりあの二人と一緒に出てったと」

「まあ、前の世界でも『影が薄い』って言われてましたっすから。いやぁ、シオンさんの意外な一面が見れてちょっと戸惑ってて……ふぉ!」

「忘れて!」

 シオンはカウンターからダッシュすると、音速の壁(ソニックバリア)を突破するかの勢いで良介に詰め寄った。胸ぐらを掴み、息が掛からんほどの距離まで顔を近づけて来て懇願。

「忘れてリョウスケさん!」

「ほ?」

 マジで息が掛かってきた。シオン本来の吐息と酒やつまみの匂いが少し混ざってビミョーな香気が良介の鼻に刺さって来る。

「今のは夢よ! あなたは飲み過ぎて眠り込んで夢を見たの! いいわね!? 夢よ! 夢なのよ!」

「おいおいシオン、そいつは無理が……」

「黙れぇ! 口出すんじゃねぇ!」

「今のも夢っすか?」

「あ! あ、あ……いや~~~~!」

 シオンさん、ほぼ錯乱状態。

 対して良介は、こんな時どんな顔していいか分からないっす状態。

「お願い! 何でも言う事聞くからこの事は黙ってて! 誰にも言わないで!」

「あ、ああ、分かったっす。そこまで言うんなら……」

「なら条件言って! あたしは何をすればいい? どうすれば黙っててくれる!? 今夜一晩お付き合いすればいい? そこで脱げばいいの!?」

「ちょ! いきなり何を言い出すんすか! そんなことしなくても喋らないっすよ!」

「嘘よ! 対価も交換条件も無しで他人信用するとかあり得ないでしょ! さあ言って! どんな恥かしいことでも我慢するから! 首輪付けられて四つん這いでもするから! 手足縛られて無理矢理凌辱でも耐えるから!」

「俺の性嗜好なんだと思ってるんすか! ホント言わないっす! マジで言わないっすよ!」

「あたしの弱み握ってんだから、あなたの弱みも握らせてよ! それでイーブンでしょ!」

「マスター! こっちの世界ってこれがデフォっすか!? みんな、弱み握り合ってんすか!?」

「おい、シオン。正気戻せって。仕舞いにゃ猫かぶりに命かける事になるぞ?」

「だって……だってぇ!」

 シオンさんもうすっかり涙目。つか零れる寸前ですわ。

「落ち着くっす!!」

 良介はシオンの両肩を掴むと、

ダンッ!

と、押し付けるように椅子に座らせた。

「シオンさんが誰にも言って欲しく無いなら、俺はホントに言わないっす。シオンさんにはずっと世話になってるんすから、いい恩返しっす」

「でも……そっちは、仕事で……対価を……ひくっ、ひぐっ」

「それでもっすよ。俺……いやアーリウム探偵事務所一同、シオンさんには感謝してるっす。誓って口外しないっすよ」

「それって、タンテイの皆さんには話すって事ですか!? いやー!」

 シオンの声量が再び上がってきた。よほど――と言うか度を越して知られたくない裏の顔なのだろう……どっちが裏か表かは一考を要しそうだが。

「いやです! お願いだからリョウスケさんの胸の内だけに!」

「は、はぁ……」

 良介はマスターの顔を窺った。何か事情でもあるっすか? 的な目つきで。

「まあ、大体予想は付くと思うが……さっきのリリィとのやり取り、そっちの方がシオンの地でな」

「ううう……」

「パーティ内ではそれで行ってたし、商売柄それぐらいが丁度いいとみんなとも話してたんだけどな。冒険者なんて稼業は品良くなぞ、やってらんねぇ。ちょっとした油断が命に係わる生業(ジョブ)だ。気が荒っぽくなるのは仕方ねぇんだが」

「わかるっす。俺たちもソンニ村で実戦やりましたっす。一歩、いや半歩間違えただけで

あの世行きっすよね」

「だから、いつもそれで良いじゃねぇかってパーティ全員言ってたんだけどな」

「キライなのよ! 自分のそういうトコ!」

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