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恐怖の長い耳 2

 何とか、のらりくらりするシオン。対して今度はリリィの眉間にシワが寄り始める。

「あのなあ。あたしは頭に"闇"が付くっつーても一応ギルドの天辺なんだよ? 王室や王都府、軍とかがどう動くか分かってなきゃ、ギルドの泳ぎ方も決められないだろうが」

「口外しないって事?」

「それでウチの連中、揃って生き永らえるってんならともかくよ。承認欲求丸出しで、井戸端会議の拡声器(メガホン)ババァみたく吹聴したって自分の首絞めるだけって、ちょっと考えりゃ分かりそうなもんさね」

「……」

「ワケありってこた、ここに来る前から予想はしてたさ。無視しとこうかと思ったこともあるけど、どうにもケツの収まりが悪いまんまでよ。あたしだけでも知っておかなきゃならねぇ、そう思うんだ」

「……()()()のコト。チャラにしていいかい?」

「ふふ~ん、マウント取るエサが無くなるのは惜しいけど、いい頃合いかな?」

「言ってみりゃ、オレたちにとって命の恩人に変わりねぇからな。()()()ゃ、リリィたちは逃げる事も出来たのに、助っ人に来てくれたんだしな」

「そっちがプラスだって脳内の算盤が弾き出しただけだよ。随分と上から目線で楽しませてもらったしね、へへ」

「ふう……もう、ほんとにぃ! リリィ、ブルーノ、この先はヘタに踊ると冗談抜きで、あたしがあんたらの首を取らなきゃならなくなる。それくらいのつもりで聞いてよ?」

「……そこまで言われちゃ、もう手遅れじゃないかシオン。秘密が有るって知ってるだけでも要監視対象だ」

「全くだ。怖ェ顔してるぜ長耳? んじゃ、本題に入って貰うかね?」

 リリィの眼が些か真面目になった。茶化しも脅しも無く、冷静で真剣な眼差しだ。


 シオンは、もう一口エールを煽ると、小声ながらも今までの経緯を話し始めた。

 今までの召喚儀式のこと。足並みが乱れかねない落ちこぼれ異世界人の現在の処遇と傾向等、知る限りのことを誤解されないように言葉を選びつつ、じっくり説明した。

 エールのジョッキは空になり、次いでリリィとシオンはウイスキーをロックで注文した。ブルーノがグラスギリギリの丸い氷塊を作り出し、ウイスキーを注ぐ。

 チーズ等、軽いつまみを出してもらい、ブルーノも交えてシオンからの情報と共に、じっくりと噛みしめ始める。

「異世界人……勇者の召喚……お伽噺の世界だねぇ」

「元老院も知らない、内府や軍の中でも更に限定された範囲での計画か。実際、それに見合ってんのか?」

「あるんじゃないか? 落ちこぼれの連中ですらあれもんだよ? その特戦隊ってな、マジで一騎当千なんじゃないかねぇ?」

「特戦隊の今の状況は、さすがにあたしらでは分かんないけどさ。ただ、今のタンテイ(彼ら)の働きはトクアンも注視はしているんだ」

「特務部の副部長だったな? 素性も素性だし追い出してハイお仕舞い、って訳にゃいかんわな。レベルの上がり方によっては呼び戻しもあるのか?」

「どうかな? 本隊は彼ら以上に伸びてる可能性もあるし。もしそうなら、やっぱり足並みは揃わないだろうね」

「独立した遊撃隊として使うのはアリかもね~。なあ、長耳? 場合によっちゃ連中に仕事、頼んでもいいんだろ? 表向き、フリーなんだからさ」

「は? あんたらの仕事を? 密輸の片棒でも担がせる気?」

「ウチだって御法に触れることばかりやってるワケじゃないさ。正規ギルドで受けてくれなかった客が流れて来るってな、さっきも言ったろ? それにさ」

「なに?」

「こないだウチの若いもんに幻麻草の運搬やらせたんだけどな。野営地で連中と出くわしちまったらしくてさあ」

「はあ? ガキにヤクの運び屋やらせるとか何考えてんだよ!」

「大丈夫だって。別に王都に運んだわけじゃなくて、ラフロ町の隣にあるデトラ村に持って行ったんだよ。鉱山の仕事はキツいからね、酒と女だけじゃ足りねぇのさ」

「村はともかく、ラフロは国防軍の派遣隊もいるんだぞ! もし捕まったら!」

「だから大丈夫なんだよ。だって元締めはラフロの町長だし?」

 ――が!

 シオンは思わず頭が痛かった。行政が反社もどきの延長ってのは地方あるあるだが、領主は何をやってるんだか。

「今、『領主は何やってんだか』とか思ってたろ? でもよ、それだって領民をちゃんと働かせて食わせていくためには、やむを得ねぇ台所事情抱えてるところもあんのさ。それに権力の有る奴が仕切らないと、それこそ乱用に歯止めがかからなくなるしね」

「言い訳にしか聞こえないね」

「まあ世の中、杓子定規にはいかねぇさ。それに連中、()()()は最終的に鉱山人夫あたりに回しちゃいるが、その上のお客さんはどこの誰だと思う? 聞いたら笑うぜ?」

「それこそ聞きたくねぇネタだな。それで? タンテイたちと出くわして、なんだって?」

「ああ、そんでな? 連中の一人に毒察知能力に長けた奴がいるんだろ? そいつ、おそらくその時も目眩まし用の茶葉の中に幻魔草が混じってたのは察知してたはずさ。でも奴らはチクったり(タカ)ったりはしないで無視を決め込んでくれた。そういう仁義切ってくる連中なら、ウチらの仕事とも相性いいんじゃないかと思ってさ?」

「……非合法な事はやらせるなよ。絶対やらせんなよ? 最低それだけは守れよ!」

「おう、承知! うちらだってわざわざ国の黒幕に睨まれることは御免だよ。警衛隊に渡す袖の下程度じゃ桁が追いつかんからね、へへへ。じゃ、今日の所はこれでフケるわ。いいネタ聞かせてくれてありがとよ。マスター、おあいそ!」

「今日はサービスしとくよ。おれも面白い話が聞けたしな」

「ふふ~ん? 久しぶりに血が騒いだかな~? なら遠慮なく。今度はウチのもんも連れて来るよ! ごっそさま~」

 カララーン。リリィは上機嫌でこの場を去って行った。

 ドアが閉まるのを見届けたシオンは同時に、これでもか! てな位の大きな溜め息をついた。

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