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恐怖の長い耳 1

 シオンの口調が変わった。目付きも凶的になってきた。

「ふふ、アレを知ってるのはオレたち以外じゃ()()()()の残党くらいだろうな」

「あたしはちゃんと受付嬢務めてるし、何の問題も起こしちゃいないんだ。この仕事、ずっと続けていたいんだよ」

「そっか……」

 パイプに火を入れるマスター。シオンに被らないように横を向いて静かに紫煙を吐き出す。

「みんな足が地に着いたんなら……やっぱり、いい潮時だったんだろうな」

「あれから三年かぁ……あたしたちのパーティ名、もうすっかり話題に上らなくなったなぁ」

「それだけ後進が伸びてるって事だろ? J・Vとしちゃ、いい事だと思うがね?」

「うん。若手のパーティがね、あたしのアドバイスで上手く行きましたぁ! とか言ってくれたりすると嬉しくてね。あたしたちの戦法や経験が受け継がれていくんだなぁって」

「おいおい、長命のエルフ族にしちゃ、ずいぶん黄昏たセリフじゃないか?」

「……そうね。そう言うのを寂しがる歳にはまだ早い……ん?」

 カララーン!

 激しいドアベルの音が響き渡り、シオンは思わず振り向いた。

 この静かな酒場に、こんな火の見櫓の半鐘かという勢いのベル音など似つかわしくはない。ほぼ騒音だ。

 そんなけたたましい音と同時に、

「いよぉ! 珍しいエルフ(長耳)見かけたと思って来てみりゃ、ぼっちかよ! シケた酒飲んでるみてぇだなぁ、お?」

見た目はシオンより若干年上風の、中年呼ばわりなどしたら鉄拳が飛んで来そうなガラの女がズカズカと入り込んできた。その女を見た途端、シオンの眉間にシワが寄った。

 ドカッ! 女はカウンターを背に両肘をついてシオンの横に座り込んだ。(しか)めっ面のシオンと真逆で目も口元も何かいやらしく笑っている。

 で、そのシオンは更に青筋を立てており、もう不機嫌丸出しだ。

「ああ? なに、人の酒にイチャモンつけてんだよ、このクソアマ。歳も考えねぇで、勘違いの色気振り撒いてウロツキやがって」

「はははぁ、ストレスマックスか長耳? ミケーレと切れてからまだ後釜決まんねーのかい? そりゃ酒かっ喰らうくらいしかストレス飛ばせねぇかぁ?」

「いきなりしゃしゃり出て来て好き勝手ほざきやがって、相変わらずいい度胸はその垂れ乳か? おう、色ボケの()()()()女! 表出ろ、いいから表出ろクソヴォケ!」

「あ~んマスタ~。男日照りのエロエルフが、あたしの事カツアゲする気なの~。怖ーい、助けて~?」

「表出ろっつってんだろが永久在庫品が! 垂れた乳、むしり取って犬に喰わすぞコラ!」

 額をくっつけ合ってメンチ切り合う二人。それを見て、

「おい、おまえら」

マスターが呆れながら。

「2人ともここがどこで、オレが何者か忘れてやしねぇか? 現役時代から、そういうところだけ成長しねぇ謎解き聞かせてほしいぜ、全く」

 マスターの皮肉たっぷりな諌言を受けて距離を置く二人。だがシオンの眉間のしわ、対して女のニヤ付き加減は変わらない。ふーっと一息ついたマスターは、本来の仕事に戻る。

「で、オレは何を出せばいいんだ、()()()()・リ()()()?」

「はは、あたしをマスター呼びしてくれるなんて、あんたくらいなもんだな、ブルーノ。とりあえずこいつと同じ、冷えたエールちょうだいな。一杯目は奢りなんだろ?」

「てめぇ、いつから聞き耳立ててやがったんだ? 闇堕ちして性根もドブネズミ並みか?」

「吹いてろ長耳。あたしらはあんたらに見捨てられた連中に手ェ伸ばしてやってるだけなんでね? これでも感謝されてるんだよぉ?」

「ファミリーの密輸や脱税の片棒担いでおいて、感謝もへったくれもあるかよ」

「つっても最近、J・V(おたくら)でも似たような連中引き入れてるじゃないか。うちもいきなり黒星喰らったしよぉ?」

 ピク! シオンの右の眼尻が反応してしまった。

「ほいよ、マスター・リリィ」

 どん。マスターはリリィの前にエールを置いた。その音で緊張がちょっと逸れるシオン。

「よ! 待ってました!」

 直ぐに手に取って、唇に纏わりつく氷の感触を楽しみながらグィーっと一口目を煽るリリィ。

「ぷはー! 蒸した夜は冷えたエールが一番だね~。で、今の話だけどさ?」

「そいつはオレにも聞こえてるぜ。ちょいと首、傾げてるんだけどな?」

「やっぱそう思うかい、ブルーノ?」

「何がさ? どこのギルドだって提携先や下請けは持ってるだろ? J・V(うち)だけが特別じゃ……」

「おいおい、あたしらの仲じゃないの。水くせぇなぁ?」

「虫 唾 が 走 る ん だ け ど ぉ !? ウチがいつ、てめぇのパーティなんぞと慣れ合ったよ! いっつもコバンザメみたいに張り付いてやがったクセによ!」

「そのおかげであの時ゃ、あんたら()()()()で済んだんだろ?」

「……」

 シオンの目付きに影が落ちた。マスター――ブルーノは小さく嘆息。

「結果論だけど、お互いあそこが分水嶺だったのさ」

「……」

「で?」

「あん?」

「とぼけんなよ。あの"タンテイ"のことだよ。何もんだ、あいつら?」

「……確かに彼らはウチの協力パーティよ。それ以上でも以下でも……」

「とぼけんなっつってんだろうが? どっから流れて来たのか知らねぇけどさ。旗揚げしていきなりザーラ・ファミリー手玉に取ってよ。こないだも、あんたんとこの正規メンバーがさっさと白旗上げた盗賊団相手に踏ん張って、いくつか首級もアゲたんだろ?」

「いや、だから……」

「実績も経験も無いからギルドには入れねぇ、これは分かるぜ? だけどさ、どん尻勢力つっても下部組織も色々抱える、腐っても三大ファミリーの一角相手に立ちまわって救い出したのが、妾腹とは言ってもキュウビィ王家の血を引く娘と来たもんだ。なのにその話がどこからも広まらねぇ。捨て置けって方が無理だろうがよ?」

「何のコト……」

 途中まで、尚もとぼけようとしたシオンであったが、

「なんだ? キュウビィの落とし胤? 初めて聞くな?」

旧知の仲間であるブルーノの耳に入った以上、それは困難となった。

「ザーラにしろ盗賊討伐にしろ、どちらか一方だけでも正規メンバー入りの実績としちゃ十分釣りがくるくらいだ。それでいて未だにフリーの下請けってどういうこった?」

「……どこまで、知ってる?」

「言った通りだよ。なあ長耳(シオン)? あたしはあんたらの立場を悪くする気は毛頭、無いんだ。だけど今、国と魔導王国がキナ臭ぇのは周知の事実だろ。そんな時に同盟国の実質的に王族である小娘を巡ってどっちの王族でも軍隊でも手ェ出せ無ぇのに、ぽっと出の奴らが出張って解決して、そいつらの正体は何故か藪の中って、怪しんでくれって言うようなもんだろ?」

「……知って、どうすんのさ?」

「どうもしねぇよ」

「え?」

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