恐怖の鉱山 3
「でも、もう何か月か続いてんだろ? 慣れないもんなのかい?」
「時間とか曜日とか決まってりゃぁよ、備える事も出来るけど……そう言う、法則性っつーんか? そんなんがまるで無くてよ」
なるほど、後ろからいきなり「わっ!」ではないが、不意に何らかのファクターが加われば人によってはパニクる場合もあり得る話。
ただ、それだけかと言うと……
「んで、幽霊の仕業かもって話が出てきたり?」
「や!」
「いや、それは……」
光一の直球にギョッと目が反応する作業員たち。
科学が浸透している自分たちの世界観で言えば、霊疑惑・現象が次々に解明・否定されてきた中で育っただけに「幽霊? ねーわ」と考える光一。幽霊に対する恐怖感は全くのゼロではないにしても、ガチムチボディの作業員らが肩を竦める姿は滑稽にすら感じてしまう。
「お、俺も幽霊だの悪霊だのなんて信じてねぇけどよ。で、でも、そう言うのの体験談や目撃談って結構あるしな……」
「あるよな。聞いた話じゃ、残業終わって帰る道で、上下とも白い服を着た誰かが蹲っていたらしくてよ。気分でも悪いのか、と近寄ったら居たはずの者が消えていたって話……」
「オレも聞いた事あるぜ。近所の娘がいきなり奇声を上げて暴れ出したとか、よ。悪霊が取り付いたんだって大騒ぎでなぁ」
「……」
光一はツッコミを入れようと思ったがやめた。
彼らの霊に対する意識は、近代日本で言えばかなり昔のそれと似ていた。
光一ら探偵団の知識であれば、それらに合致する理由付けなど説明等できないわけでは無いが、おそらく理解はされにくいのではないか? と判断したのだ。ベースとなる知識、科学VS魔法の質の差が大きすぎる。
「まあ、とにかくさ。しっかり調べてくれよな。ノルマも滞りがちだし、何より事故やケガの頻度が増えててなぁ。近隣鉱山に、遅れ取っちまってるし」
「ここの山とか台地周辺の村や町は基本、鉱山収入が柱なんだっけ?」
「ああ、デトラ村やカルネ町とかも別方向から掘ってるんだ」
「他の街からはそう言うのは?」
「無い。ウチの街だけなんだ」
由美では無いが、幽霊騒ぎなど所詮は枯れ尾花辺りだろうと思ってはいるが、鉱山の連中はとにかく思いの外、気にしているようだ。
由美の方も女風呂でこんな風に地元民と話して、また違った情報でも耳にすればある程度の参考にはなるかもだ。
「やっぱ、みんな例の怪現象にはビビってるみたいね~」
入浴を終えて、宿屋の酒場兼食堂で夕食を取りつつ、光一と由美は浴場で仕入れた情報を共有し合った。由美も女湯で声を掛けられたようで、光一と同じく案件の解決に期待されたとの事。
「やっぱ、女の人たちも怖がってるのか」
「彼女たちはあまり奥には行かずに、入り口に近いところで道具の洗浄やら鉱石の仕分けやら、搬出の手伝いとかが仕事らしいけど、やっぱ例の音には悩まされてるみたい」
「外でも聞こえる?」
「ううん。聞こえるのは内部だけなんだって~。補充の道具や差し入れ持って行った時に聞いた人もいるみたいね~」
「と、なると……やっぱり中に入ってみるしかないか」
「アズマも怖い?」
「え? いや、まあ、俺は幽霊は否定派だからなぁ」
「ビビってたり~?」
「煽るな! そりゃまあ、いないとはハッキリ証明できないし、不気味さを感じるところも有るにはあるけど……実際、生ける屍とかの方はマジで存在するんだろ? そっちの方がおっかねぇと思うけどな」
「筋肉ムキムキの連中が、そんな曖昧なモノに怖がって震えるとかギャップよね~」
「ははは~、それは言えるな。でもお前はどうなんだ? 幽霊とかホラーとか?」
「あたし、ホラー映画好きだよ~。じゃあ明日は早速、鉱山入ってみる?」
「だな。来て早々にその現象が起こるかは分からないけど、まずは現場だよな」
♦ ♦ ♦
時刻は、光一と由美が明日の調査に備えて床に着こうとしていたと同じ頃。
王都イオタニアの西方。
その露店・商店街と、倉庫街の境辺りに看板を上げている酒場が一軒。
この酒場の名は「クアットロ」
夜になれば一日の仕事疲れを癒すために、商店街と倉庫街の双方から客が集まる店だ。
とは言え、若くきれいな女の子が酒を注いでくれる訳でも、愛想の良い聞き上手なママさんがいるわけでも無い。店の者は一見、人生に疲れ始めた年代のマスターがカウンターにいるだけ。
テーブル席こそ4つほどあるが、それが満席になるのは休日前夜でもめったにない。誰の干渉も受けずに静かに酒を味わいたい者や、誰もが無関心ゆえ色々な商談とかの話をする手合いが来る程度の店である。
そのテーブル席に陣取っていた2人組が店を出るのと入れ替わりに入って来た、冒険者ギルドJ・Vの受付嬢シオンはカウンター席ど真ん中に直行、「まずはエール、氷落として~」とマスターにオーダーした。
「珍しいな。お前さんがここまで足伸ばすなんてな」
シオンの注文に応じ、マスターはエールを注いだジョッキに手をかざし、念を込めて魔法で製氷した小粒の氷を浮かべた。
「今度のギルド協会定例会のことでさ、こっちの『パラモ』のギルマスと打ち合わせしてたんだけど長引いてね。やっと終わって外に出たけど、今夜はやたら蒸してるじゃない? 冷たいもの欲しいな~って思って。で、あんたの顔が思い浮かんだって訳でね、寄らせてもらった」
「そりゃ光栄だね。じゃ、この一杯目は俺のおごりにしとこうか?」
マスターはエールをシオンの前に置きながら眼尻を下げた。
「いいの~? 景気良さそうには、とても見えないけどな~?」
「ギルド職員としてよろしくやってるようだな、安心したよ。ミケーレやアルベルドは息災かい?」
「アルベルドは去年の暮れに故郷へ帰ったよ。親父さんが倒れたってんで、そのまま牧場継ぐみたいでさ? ミケーレは、ドミノでよろしくやってるよ、んぐ!」
ぐ、ぐ、ぐ~、ぷはー。シオンは冷えたエールのジョッキ半分ほどを、一気に喉に流し込んだ。
「ファミリー入りするなら、お前さんの方がよっぽど適役なのにな」
「あ?」
「よりにもよってギルドの受付嬢とか、何の冗談かと思ったもんだ。でもまあ、ギルドでのお前さんの猫かぶりは舌がどれだけ長くても撒ききれなかったからな」
嘲笑にも似た笑みを浮かべながらマスターは、パイプに煙草葉を詰めながらシオンの過去を揶揄った。
「……吹いてねぇだろうな?」




