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恐怖の鉱山 2

「はい。例えば木がぶつかったような音は、坑内を支える坑木のそれとは違い、およそ鉱山内では似つかわしく無い、軽く、乾いた音であったりしたので……しかしそれも1~2回起きた程度なら幻聴だとかに(かず)けて無視も出来たのですが、これが何度も確認されております。呻き声にしても……大きな声で言う事ではありませんが、鉱山での作業は事故やケガなどは日常茶飯事です。重傷者の悲鳴や呻き声は自他ともに耳にする事は珍しくありませんが、そんな系統の声では無いという証言が多く……」

「動物や魔獣が忍び込んだとかの可能性は?」

「もちろん最初はその意見が多数でした。しかし、迷宮(ダンジョン)のように既に存在していた洞窟の奥なら魔獣や野獣が住み着いていてもおかしくありませんが、一から掘っていく鉱山内にそれらが住み着く訳も無く……」

「作業員が不在の時に入り込むなんてことは、ありえないかしら?」

「作業が終わると人員確認の上、入り口は封鎖されます。ヒト以外の何かが侵入すれば、足跡とかフンなど何らかの痕跡が残るはずですが、そういう事例も無いんですよね」

「風が撒いて共鳴したとかは?」

「それも考えられました。奥深い坑道には魔石による送風等が行われていたので、それが鳴っているのでは? と」

「……と言う事は、そちらも否定されましたか?」

「はい。その現象が起きた際、全ての送風を停止、観察員以外は撤収して様子を観測したのですが、停止後もしばらく聞こえていまして……」

「ずーっと続いてるわけじゃないのね」

「ええ。しばらく聞こえない、そんな日が続いたと思えば毎日のように、など、法則性も無く……」

「で……()()でもいるんじゃないか、て?」

 幽霊の一言で、メイスは肩をビクッと強張らせた。

「それで、鉱山で働く人たちが浮足だっているわけで?」

「は、はい。町長や鉱山開発部長も最初は気のせいだ、気にするな、と言い聞かせていましたし、作業員たちも『幽霊なんているワケない』と言い合っていたのですが、さすがにここまで続くと……」

「一カ月以上、でしたっけ?」

「そろそろ二カ月になります。そう言った事に気を取られると注意力が疎かになります。職場も職場だけに、ほんの少しの気の緩みが大事故に繋がりかねないのは言うまでもありません」

「鉱山で働く方々なら屈強なお身体をお持ちでしょ? それでもやっぱ、幽霊とか怖がるんですかぁ?」

 と由美が首を傾げながら。目の前のメイスもしっかりしたガタイながら、幽霊という言葉に肩が反応してしまうのは、ちょっとしたギャップである。

「ふ、普通はそうじゃありませんか? 霊魂だの亡霊だの……そんな訳の分からないモノ!」

「ん~。例えばそうですねぇ、教会なんかには相談は?」

「それはもちろん。しかし教会は『死者の魂は、我らがすべからく神の下へ送っている!』と言って」

「亡霊説は否定か。まあ、自分らの立場が無くなるもんなぁ」

「じゃあ、最初は鉱山の現地調査から始める? アズマ?」

「鉱山の入り口は、ここから遠いんですか?」

「この街の西門がそのまま鉱山地帯への入り口になっております」

「そっか。じゃあ現地へは明日行くとして、由美? 今日は宿で身辺と、これからの調査要綱を整理しようか?」

「そうね。あ、この街って温泉が有るんですよね?」

「はい、我が町自慢の温泉です。鉱山の作業員たちも仕事帰りに寄って、汚れと疲れを落としていますわ。お二方の宿舎も、その近くにご用意させて頂いてますので、どうぞ旅の疲れを癒してくださいませ。これからご案内させて頂きますわ」


 光一と由美に用意された宿所は、宿屋の中でもかなり大きな規模と言って良かった。

 メイスの説明によると、ここは温泉での慰労や湯治を兼ねてやってくる観光客向けの宿だそうで、浴場の広さは町中でも指折りなんだそうな。

 この町の主産業は鉱山による収益だが、温泉も重要な観光資源。また、泉源が豊富でもあり、浴場の軒数も多い。

 メイスの説明通り、肉体を酷使する鉱山労働者は疲労と粉塵等による汚れを落とすために温泉につかり、心身ともにリフレッシュしてから帰宅する者が多い。

 そのへんは日本の入浴事情に近い物もあるな、と光一は湯船に浸かりながら感じていた。

 鉱山作業員は使える浴場が限定されていて、専用の入り口・洗い場が設けられており、汚れをしっかり落としてから湯船に入るという段取りを取る。観光客はどちらの浴場も選べるがその逆はNGとの事。

 光一・由美も夕食前に、まずは旅の疲れを癒すべく浴場に直行、と相成った。同時に情報収集が出来れば、と敢えて作業員が使える浴場を選んで入ってみた。

 時刻としては、作業員も一日の仕事を終えた頃合いでもあり、そこそこの人数が集まっていた。

「兄さん、観光かい?」

 さっそく、鉱山労働で鍛えられた――と言うよりは鉱山で働くために必要とされて育った、光一の倍近くあるんじゃね? てなムキムキ上腕二頭筋の作業員らしき男が、湯瀬疲れを揉み解しながら声を掛けてきた。

「いや、仕事で」

「仕事? 兄さん、とても鉱山向きの身体には見えんが?」

 筋肉隆々とは正に彼らの事であろう。前回の仕事で一緒だったパーティ・ポテンタの重剣士アソートも斯くや、てな体格だ。

 多少は筋トレをかじり、学校のクラス内ではボチボチ筋肉質な体躯を持っていた光一だったが、まるで別次元だなと、早々に白旗モノであった。

「あ、営業……買い付けか? それとも資材の売り込み?」

「いやいや、そっちでもなくて。ええと、役場の要請で鉱山内の調査をね」

「役場からの? 調査?」

「調査……あ、もしや例の()()か!」

「おお、()()か!?」

 光一の答えに、作業員たちが何やら反応し始めた。

「鉱山内で聞こえる妙な音、アレの調査か!?」

「そうそう。それでJ・V(ギルド)から紹介されて、おれたちが……」

「そっか。役場の連中も、ちゃんと考えてくれてたんだな」

 光一らが調査に出張ってきたことを聞き、作業員たちは一様に肩の強張りを解いた。

「……やっぱ皆さん、気になってたのかな?」

 光一は聞いてみた。見た目だけでどうこう判断するのは如何なものかとは思いつつも、屈強な体躯を持つ彼ら鉱山作業員たちが「もしや幽霊?」なんて眉唾な噂で震えるとかギャップを感じざるを得ない。

「や、やっぱり、気を取られちまうからなぁ」

「ここ一番、全力入れる時にそんなんが起こってスカタンこいたら、マジ大ケガだからよぉ」

 まぁ確かに、気合いタップリで力んだところに不意に邪魔が入れば、それが怪現象では無くても事故に直結しかねない。不要・不確定な要因は排除すべきだろう。

 とはいえ、果たしてそれだけであろうか?

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