王都へ還れ 3 <第二章完結>
「先輩? 見たところ年上みたいっすけどフランクさん、ロゼさんたちの後輩っすか?」
「あは。あたしみたいな小娘を、さん付けで呼ぶなんてオジサン変わってるね~。まあ見ての通り、フランクはあたしより歳上だけど入って来たばかりでね」
「なるほど? いや、そんなところかなって思ったっすけど。だったらこの業界、ロゼさんの方が俺より先輩かもしれないなって思っただけっすよ」
「ふふふ~ん。タンテイ、なんて聞き慣れない職種名乗ってるけど、あんたらもザーラをさらっと手玉に取ってたし、カタギじゃ無さそうだもんねぇ?」
「今後、もしかすると同じ方向向いての仕事も有り得えるかも、っすね?」
「ゾッとしないねぇ。ま、マスター・リリィがそうしろって言うなら、あたしたちはやるだけよ、ね」
とマイロに向けるロゼ。それを受けてマイロもうんうんと、深く頷いた。
「じゃあ、そん時はよろしくっす。フランクさんも。そういやフランクさんは王都出身すか?」
「ちがうよおじさん。フランクはロニって村の出だよ。僕とおねえちゃんは西の……」
「マイロ、おしゃべりだよ?」
「ご、ごめん、おねえちゃん」
「いや、俺が無神経だったっす。お互い出自がどうのなんて、言うだけヤボな業界っすよね? あ、……」
言葉を止め、良介は雑嚢から乳白色の塊を取り出し、
「今度の仕事の村で美味いチーズ貰ったんすけど、少しいかがっすか?」
とソンニ村産のチーズを勧めてきた。
「え、いいの? いや~、実は持ってきたパンの出来が最悪でさ~。チーズ乗せて炙れば食べやすそう」
「んじゃ、これどうぞ」
光一は、喜ぶマイロたちにチーズを振る舞う良介を見ながら、ちょっと舌を巻いた。
相手は確かにまだ子供だ。しかし自分達より経験があると見ていい。そこから必要な情報だけを引き出し、相手にとっては警戒されつつも、只の雑談に落とし込んだ。やはり短期間でも社会人としての経験がものを言うのだろうか?
まだまだ学ぶべきところが多いな……光一は良介が今見せた手管も、しかと脳裏に刻み込んだ。
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「へ~。それは瓢箪からコマだねぇ」
三日後、事務所に戻ってきた光一たちはソンニ村での顛末と、帰路で出会ったロゼたちの事について報告した。
「その場で押えた方が良かったかな?」
光一が聞いた。あの翌朝、あわよくばそのままフランクの身柄を確保できるかと思って馬車に誘ったが、彼らは「途中で寄るところが有る」と言って、さり気なく断ってきたのだ。
それが本当に寄り道なのか? それとも探偵団を警戒、若しくは過剰に借りを作る事を避けたのか? 両方が考えられた。
「いや、依頼内容はあくまで『息子の居場所を探してくれ』だ。連れ戻してくれって訳じゃない。そのアローザって闇ギルドに入っているなら、そこにいる事と拠点の場所を報告すれば我々の仕事は終了さ」
「所長が聞き込みをして、西地区の倉庫街での目撃証言は現地でも得られたのですが、最近は顔を見ないと言う事で手詰まりの状態だったんですよね……」
ヘレナが、光一らが不在時の捜査状況を補足説明した。
「彼がアローザに入ったのも最近だったんだろうね。どこに腰を落ち着けているのかは分からずじまいでね。なるほど運び屋の依頼をやってたんだねぇ。見かけないはずだわ」
「麻薬……」
「え?」
真鈴がいつも通りのボソ声で呟いた。
「荷物の中……商品と言ってた……お茶の葉の中に……混ぜて、いた……」
「真鈴、それってマジ~?」
「あまり……強くない、けど……幻覚作用……中毒性……アリ……」
「ふむ。真鈴ちゃんの毒センサーが反応したんだねぇ」
「……闇ギルドらしい仕事っすね……」
「使い方次第、で……医療にも……」
「てぇことは、やっぱ西地区繋がりもあるし、納品先はザーラか? ヘイさん、ほっといて良いのかな?」
「ん? 何もしないよ?」
「え? それでいいのぉ~?」
「僕たちは警察でも衛兵隊でもないからね。そう言った薬物が非合法品かどうかも分からないし? 医療目的かもしれないしね」
「密輸でしょ? やっぱ非合法品じゃん?」
「脱税の線かもよ? だったら税吏の領分だし、どっちにしても僕らの仕事じゃないねぇ。それにザーラとは手打ち直前だし、波風立てても……ね?」
――トリアーノ王国王都イオタニア。この街、この世界の流儀……
飄々と話す平蔵。それに何の異も唱えない良介。
光一の脳裏に色々な事象が交錯した。
――上書き……か……
村の一件の後、光一は良介に、由美に泣かれた件を聞かされていた。彼女は背中に凭れ掛かって小一時間ほど、泣き崩れていたらしい。
良介は、この世界の通常に由美が心身を焼かれたんじゃないか? そんな形容の仕方をした。いきなりの上書きに、安定感がぐらついたのだろうと。
――良さんもヘイさんも、とっくに上書きしてんのかなぁ?
光一としても、思うところは色々。が、そればかりに気を取られていても仕方がない。まずは目の前の仕事にも十分に注力しなければ。
「それじゃあさ、アローザの事はドミノのミケーレさんが知っているはずだから、明日にでも聞いて来るよ」
気を取り直し、光一は明日の聞き込みを買って出た。しかし、
「いやいや。コウくんたちは、明日はゆっくり休んでよ。長旅ご苦労さまだったからね」
と、思わぬ休務を勧められる。
「でもポテンタやクァラームの連中とはトラブっちゃったし、後味悪いしね~」
「シオンさんから話は来てるよ。ウチとしては命令無視については報酬・経費共にゼロで決着だし。結果は、由美ちゃんや良くん、真鈴ちゃんの働きで村の被害は最小限、盗賊殲滅に大きく貢献したって事で信用を失うわけじゃない。元々J・Vの依頼なのに正規メンバーが真っ先に尻尾巻いちゃったからねぇ。そんな感じで御仕舞だね」
「それでいいの~?」
「シオンさんに会ったらみんなからも、お礼言っといてよ。今回もそうだし、いつも骨折ってくれてるから。あとは真鈴ちゃんの伝手で魔導王国の将校とコネが出来たってことかな? 意外な顛末だけど、こいつは面白いねぇ」
「やっぱり、そう思うっすか?」
「でも敵国だよ?」
「未来の辺境伯さまだしなぁ。もし戦争になってトリアーノの旗色が悪くなったら亡命しちゃうかぁ?」
「あのさぁ……」
「冗談だよ、冗談。でも、敵国だからこそ和平を狙っての交渉ルートは貴重だよ。このコネ、上手く育てれば思わぬワイルドカードになるかもな」
「じゃあ……フランクの件は……所長、が……」
「ああ、そっちは僕に任せて、みんなは骨休めしてね。実は君たちが出張っている間に新しい依頼が来てるんだ。また王都外に足を延ばす事になりそうだよ?」
「新しい依頼?」
「探偵……と言うか、何でも屋系の依頼でね」
「今回と違って、冒険者向けらしくない内容って事かしら?」
「ほぼほぼ、ウチ向けって感じでねぇ」
我が探偵事務所は、J・Vにとって相応しくない依頼を受ける事を旨としているので、基本的にどんな内容であっても受ける訳だが……
はてさて、次はどんな案件が待っているのであろうか?
土産のチーズを摘まみながら、取り敢えず明日は仕事を忘れてのんびりするか、と思う光一であった。
え~、第二話完結でございます。
この世界の洗礼を受けた探偵団、次話ではさらに染まっていってしまいます。
しかしマジで、いわゆる「探偵モノ」からはどんどん掛け離れてしまっていますね~。
まあ、そのつもりで書き始めちゃったんですけどw
出来る限り間を置かずに投稿したいと思いますので、お付き合いいただけると幸いです。
三〇八




