王都へ還れ 2
「大丈夫……気持ちは、分かる……気にすること……無い!」
と、鼻息も荒く同意する真鈴さん。お胸ペタン娘でイジられた者同士、然もありなん。
「まあ、貰えただけでも儲けもんっすね」
「犠牲者もいたのに、ちょっと抵抗あったけど……この世界じゃ、あれでも上出来なんだなぁ」
「俺もそれは感じたっす。日本に居た頃の感覚、出来るだけ早く、この世界向けに上書きしないと、っすね」
「ま、この先ここで生きてくためには必要だけどね~」
「特戦隊に、残ったみんな……もっと……大きな……戦い、に……」
「そうだな。落ちこぼれた方が悪かったのか良かったのか、今のとこ、ろ……」
光一は言葉を止めた。
「誰か来るっすね?」
良介も気配を感じていた。と言うか、街道を歩く足音が風に乗って聞こえてきた、と言う感じだ。
良介はレッドホークの回転弾倉を開いて弾の装填を確認した。由美・真鈴はマークIを、光一はガバメントを懐の中で握り、いつでも装填、抜き出せるように身構えた。
ジャリ ジャリ ジャリ……
足音からして大人数では無さそうだ。
「……三人、ね……」
由美の言う通り、焚火の光に浮いてきた人影は三つ。前を小柄な二人が歩き、後ろに良介と同じくらいの身長の者が一人、背中からちょっとはみ出すくらいの荷物を背負って付いて来ている。
「先客は……四人か……」
「すいませ~ん。ここ、ご一緒していいですか?」
前の小柄な二人が結構フレンドリーに話しかけてきた。フード付きの外套に、砂塵除けだろうか、顔カバーをしていて人相は窺い知れなかった。
だが、ざっと見る限り軽装だし、大剣や斧らしき大型の武器は持ってはいない。腰の短剣くらいか? また、小柄な二人の声は、まるで子供の様に甲高い。
――敵対心は……無さそうだな……
光一たちは目を合わせると頷き合い「いいですよ」と返答した。
「ありがとうございます。ダッラの街から歩き詰めで……え!?」
礼を言いかけた一番小柄の声が大きくなった。
「おねえちゃん、こいつら!」
「え? あー!」
もう一人も顔カバーを外して叫んだ。
「キ、北のタンテイじゃない! なんでこんなところに!」
――え? 探偵なんて言葉知ってるの……あー!
「お、おまえら!」
「ロゼとマイロじゃん! そっちこそ何でこんなとこ居るのよ! あんたらザーラの手下じゃないのよ!」
などと由美も大声で。
「え? この子たちがコウさんたち、尾行してたって子供っすか?」
あまりの大声に、商人さんが起きてしまうんじゃないかと気を揉みながら、良介は光一らにエミリー捜索時に光一たちを付け回していた二人組かと尋ねた。
「子供とはなんだ! これでも一人前の冒険者だぞ!」
マイロが反論。続いてロゼ。
「ギルドにも入れず下請けやってるあんたたちに言われたくないわね!」
――お? おれたちの事情も知ってんのか? でもさすがに……
まさか自分たちが異世界から召喚された云々、までは知られていないと思われるが……
「それに、あたしたちは別にザーラの手下じゃないよ! あの時はザーラの依頼を受けて仕事してただけだもん!」
「なによ、あんたらも下請けじゃん?」
「ちがうよ! ぼくたちはれっきとした冒険者ギルド、アローザのメンバーだ!」
「アローザ? え~と、どこかで……あ! ドミノ・ファミリーのミケーレさんが言ってた闇ギルド!」
「闇ギルドとか言うな! 正式登録されてないだけだ!」
「だから……それ、闇ギルド……」
「う~~~!」
「仕方ないじゃない。あたしたちみたいなの、正規ギルドじゃ入らせてくれないもん!」
「え?」
「マスター・リリィはそんな、ぼくらでも仕事を世話してくれるんだ。うちのギルドの事を悪く言うな!」
――これは……言葉のイメージだけで決めちゃいけないのかな?
ちょっと毛色が変わってきた。マイロの言葉は、経験皆無ゆえにギルド入会を断られた自分達と丸被りだ。
「ふん~。やっぱ、年齢だの経験不足だので正規ギルドに断られたっすか?」
「そうだよ! ぼくたちみたいな孤児、正規ギルドは構ってられないんだ!」
「じゃあ、俺たちと同じっすね?」
「……」
「とにかく、大声出してちゃ商人さん起きちゃうっす。落ち着いて話す方がいいっすね」
「いいの、おじさん?」
「俺たち、彼らとは別に敵対してるワケじゃ無いっす。たまたまここで出くわしただけっす。そうっすよね?」
「ま、まあね」
「……ぼくたちの事、チクったりしない?」
「チクる? やっぱマズいことやってんじゃないの?」
くん、くん……
「密輸……とか?」
真鈴が何かを嗅ぎ取ったか、マイロたちにカマをかけた。
「バカ、マイロ!」
言われて「あ!」てな顔をして手で口を塞ぐマイロ。
「プ!」
由美が思わず噴き出した。
正直なところ、この小さい男女はこの手の仕事に関して自分達より経験豊富である可能性は高いと思う。それもあったし、実際に尾行されていた由美としても警戒感を抱かずにいられなかったが、こんな愛嬌のあるところを見せられては、その可愛げに当てられてしまう。
「笑うなよ!」
「ゴメン! でもさ、ククク」
「……チクるの?」
「う~ん、どうっすかねぇ? 別に俺たちは、そういうの政府に言われてるわけでも警衛隊やギルドに指示されてるわけでも無いっすからね。うちの事務所に危害無ければ知ったこっちゃないっすよ。コウさん、どうっすか?」
「ハハハ、まあね。ここで争ってもなんも得しねぇし? お互い不干渉で良いんじゃないかな?」
「いいの?」
「言ったろ? 前回の失尾の憂さをここで晴らしたいってんならともかく、害が無ければそれまでじゃんよ?」
「あれはあたしたちの不始末。忘れちゃいけないけど、気にしてたら神経がいくらあっても足りないわ。じゃあ火、遠慮なく使わせてもらうね。フランク?」
「はい、先輩」
「晩ごはんの用意お願いね?」
――フランク? フランク……
フランクと呼ばれた男は言葉使いから、ロゼたちより格下と思われた。しかし、そそくさと食事の準備をするその男の風貌には大きな違和感を覚えた。外見的に明らかにマイロはもちろん、ロゼよりも歳上に見えるからだ。
別に、こちらの世情が年功序列と決まっているわけでも無いだろうし、歳上と言ってもこの男、二十歳を越えているようにも見えない。
「…………まさか、ネ?」
由美が小声で囁いてきた。光一と、このちょっとした引っ掛かりを共有出来そうな声で。




