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勘のいい魔族はキライ、かも? 2

「副官さん……隊長さん……まだ、毒……中和しきって、無い……興奮、させちゃ……血圧……上がる、ダメ」

「こ、これは失礼! 自重いたします!」

「なんか隊長さんと副官さんて、随分と砕けた感じするけど……長いんですか?」

「こいつは幼馴染――と言うか小姓と言った方が……」

「自分は隊長の婚約者です!」

「「「へっ?」」」

「候補だ候補! まだ決まっとらん!」

「血圧っ……」

 えらく話が取っ散らかってしまった。

 

 整理するとバンカー家は辺境伯の爵位を持っている、この近辺の魔族側の領主である。

 故に軍隊の統帥権は国王及び中央政府では無く、バンカー家が持っている。

 ところが現領主であるスラフト・バンカー伯には副官アースが言うように男子がおらず、次世代の司令官となる人材を娘か、その入り婿に託すしかないとの事。

 で、最後の期待を持って第5子を儲けたがこれも女子であったため、ソネットを女性であっても司令官に相応しい軍人に育てるべく、領内の良家や高級将校の子息を小姓として付き添わせて幼少時から英才教育を受けさせた、と、ざっくりこんな感じらしい。

「それでその5人の小姓方が、そのままお婿さん候補ってワケなんですね?」

「その通り! そして今、候補者筆頭がわたくしアース・フライヤー少尉なのであります!」

「勝手に決めるなと言うに! まったく、我が軍を率いる将兵たれと育てておいて、歳頃になったから嫁になれとか、私の事を何と思っているのだか!」

 眉間にしわを寄せて、口をへの字に歪ん曲げるソネット。

 上級民は上級民なりにいろいろと悩み抱えてるんだな~と思う光一。多少、金銭面等の不安や悩みは有っても平民の方が自分には合ってそう……だとも。

「しかしまあ、指定大演習派遣も仰せつかっておりますし、バンカー伯は変わらず隊長にご期待されておられると思いますよ? 50年前に王都近衛師団長として抜擢されたテレジア大将以来の女性将官としてバンカー家の当主になるルートが一番近いんじゃないですかね、ソネット様?」

「隊長と言え、とあれほど!」

 再び釘を刺すソネットに、にま~と笑うアース。

「でも、他に候補は4人いらっしゃるんでしょ? 仮に、もしも仮に選から漏れたらアースさんは、その後どうされますか?」

「今まで通り、おそばで仕えるだけです。そして生涯純潔を貫く覚悟です!」

 ――へ?

「勝手に言っておれ。それに貴様も女相手は未経験でも、男相手なら分からんしな」

「!」キラーン!

「いいえ、私は常にソネット様一、筋……ほげ!」

 ドーンッ!

「その話、詳しく!」

「え? あ、ああ?」

 光一は、人の限界速度に挑むかのような速度でアースを弾き飛ばしてソネットに詰め寄る真鈴に、思わず今まで彼女がいたところと今の彼女の場所を交互に三回ほど見直してしまった。元居た所ではマギも、目を開かせられるだけ開かせて硬直していた。

「男性の多い軍隊では()()()の話はまことしやかに流れて来ますが、やはりあるのですか!?」

 ――メッチャ饒舌ー! しかも軽やか!

 この光景、目にするのは光一は初めてでは無い。しかし、これに慣れるにはもう少し時間がかかりそうだ。

「あ、いや、直接目撃したわけでは無いが……あ、でもな?」

 真鈴の見幕に、ちょいと怯むソネットだったが、

「先だって女子兵と茶会していた時な?」

「ふんふん!?」

なにか顔つきが変わってきた。

本部管理中隊(本管)のマルマルと補給のダレソレがどうとか、連隊のアレとコレが何だと、話題になってな?」

「おおお!」

「で、本管の兵が言うにはな、マルマルとダレソレは夕刻の河原で被さっていた、と言う目撃談がだな?」

「な、なんと! 夕暮れの河原で二人が……こ、こういう感じでしょうか!?」

 真鈴は雑嚢から木炭と、お手製の帳面を取り出すとこれまた目を見張るスピードで画を描き始めた。

「む! 貴公、なかなかの画力だな!」

「ソネットさんと同族の方ですか? それとも!?」

「いや、たしか~、ん! 狼系コボルトだ。トリアーノの獣人より狼に近い顔つきで、歳下の方が妖狐族とか言ってたな!」

「じゃあ、う~ん(カリカリカリカリカリカリカリカリ シャッシャッシャッ カリカリカリカリ)これで~! いかがですか?」

「こ、これはなんと! おお~、何と言うかこの~、うん、美を感じる!」

「光栄です!」

「…………」

 言葉を失う、開いた口が塞がらない……光一の脳裏はこんな言葉が飛び交っていただろう。実際に目はジトったまま、口はポカンと開いたまま。

 真鈴はまあ、今までの言動からその趣味があるのは知っていたが……なんでまた仮想敵国の一将兵と、こんなタイミングよく嗜好が合致するんだ? と思いつつ隣を見ると、

「…………」

マギもまた、同様の顔をしていた。これが一般的な感覚で良いのだろう、とちょいと安心する光一くんである。

「あ~やれやれ。いきなりでビックリしました~」

 爆速真鈴にブッ飛ばされたアースが、ぶつけた後頭部を擦りながら起き上がってきた。ハデに飛ばされた様に見えたが、意外や軽いノリで首をコキッコキッと整体。魔族ゆえの防御力?

「アースさん? あれって婚約者的にどうなの?」

 と、光一が指を差しつつ質問。

 その指先で真鈴とソネットは、真鈴が暇なときに描き溜めた他の画像で盛り上がり始めていた。

「あ~、ははは~。女子兵の一部では結構盛り上がるネタですからね~」

 ――腐女子兵……

「いいんですかぁ?」

 とマギも懸念表明。しかしアースは言ったもんだ。

「それも含めて、全てがソネット様です!」ふんす!

 魔族軍に対する印象が、すっかり変わってしまった光一であった。てか、血圧はええのんか?


        ♦


 翌朝、光一たち探偵団は、便乗する王都行きの馬車が準備を整える間、帰営するソネット隊を見送った。

 真鈴の画力に感服したソネットは「馴染みの(腐)女子兵にも見せたい」とのことで、村経由で上白紙を届けるから描いてほしいとの依頼契約(?)まで受けることになり、

――敵国の国民と契約とか、如何なもんかな~?

と思いつつ、思いがけない魔導王国とのパイプ構築に良介は、

「事務所としてでは無くて、あくまで真鈴ちゃん個人の契約にすればいいっす。平蔵(ごっ)さんも、こういうコネは面白がるんじゃないっすか? なにしろ相手は辺境伯の跡取りっすよ」

などと肯定的に捉えていた。

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