戦い終わって 3
一方、由美と良介は村長宅を訪れ、事情を話して彼の家の納屋で寝泊まりする許可を得た。
盗賊討伐の主力は魔族軍ではあったが、冒険者パーティの中では唯一剣(鉛弾)を交えて戦った探偵団には感謝しているものの、王都認定ギルドが解雇したパーティを歓待する訳にも行かないようだ。
とは言え帰路については明日の朝、王都に農産物の納品に出発する馬車に便乗させてもらう手配をしてくれるなど、出来る限りの便宜を図ってくれたのは有り難かった。
「ふう……取り敢えず、帰りは歩きってのは避けられて良かったわねぇ~。馬車でも結構しんどかったしぃ~」
「こちらじゃ徒歩が基本っすからね。途中で馬車を放棄せざるを得ない事も起こるだろうし、帰ったら今度は行軍訓練もやるべきっすかね? へへ」
「やった方がいいよね~。おじさんの訓練プログラムって侮れないもんね~」
「え? そ、そうっすか?」
「武器出来てからの郊外での訓練、特に銃を使って何度も何度も同じ戦闘訓練続けたじゃん? アレよアレ! ビックリした。盗賊がわらわら来た時、それに合わせて勝手に体が動いたもんね~。やってる時は、同じこと繰り返してばかりで『こんなの何か意味あるの~?』とか思ってたのにね~」
「サバゲで一緒になった元陸自の人に聞いたんす。飽きるほどの反復練習の効果は馬鹿に出来んよ? ってね。由美さん射撃部だから、銃の扱いとか同じ所作を毎回、繰り返してたんじゃないっすか? あれと同じっすよ」
「なのね~。だからあたし、ここ! ってとこでちゃんと引鉄、引けたもんね~」
「最初に覚悟のほど、聞かせてもらったっすけど、いらん心配だったっすね」
「そうだよね~。ホント、考える前に、引い……ちゃった……もん……」
「頼もしかったっすよ、由美さん。おかげで俺も真鈴ちゃんと、メノウちゃんの家に行けました、す……?」
「は、はは……」
「……由美さん?」
「はは……ははは……」
――え? 笑ってる……いや……
声が震えていた。それに気づいた良介は由美に目を移した。由美は両腕で自分の胸を抱きしめて俯きだしていた。
更に、震えていたのは声だけではない。肩も腕も小刻みに揺れていた。
「由美さん? 大丈夫っすか?」
「お、おかしいね、今さら……」
由美は震えているだけでは収まらなかった。目から涙をぼろぼろ零し始めていた。
「……」
良介には何となくわかっていた。一言二言では言い表せないが詰まる所、初めて人の形をした、意思の疎通が可能な他者の命を奪った事に対する衝撃であろう。
幸か不幸か由美の銃撃は良介のそれとは違って即死には至らず、とどめを刺したのは魔族軍討伐隊の手によるものだ。
自分の所為じゃないけど、少なくとも片棒担いでるし……
いや、でも……
自分が手を下した相手は、二度と動かない肉塊に成り果てた……
そんな半端な思いと、威嚇で終わったザーラ戦とは違って実質初めて行った迎撃戦のインパクトが彼女の感情を不安定にさせているのであろうコトは、良介にも伝わって来ていた。
メノウの一件で頭に血が昇り、勇み足に近いきっかけで引き起こしてしまった戦闘。
確かに、それ自体は迂闊と言えなくもなかったが、その先メノウがどんな目に遭うか考えれば由美の心中も察するに余りあるし、大元の依頼内容からすれば、少なくとも「悪」ではない。実際、良介もメノウの母親が凌辱されているのを目の当たりにして、オーガを迷わず排除した。
ただ違うのは……
「おじさんは平気? オーガの一人は即死だったんでしょ?」
「あの時は……」
一発目で背骨を粉砕。胸部に命中した二発目は鉛弾と共に、その強烈な衝撃波で肺や心臓を破壊した。
「俺も同じっすよ。考えるより先に身体が動いちゃったっす」
「平気……なの?」
「平気っす。意外と」
「そう、なの?」
「メノウちゃん親子が笑ってお礼言ってくれたっすから……そのせいっすかねぇ? いずれにしても、気にすること無いっすよ、由美さん?」
「……」
「由美さんが盗賊を引き付けてくれたから、討伐隊が来るまで襲われる村民は少なかったっす。由美さんのガチギレのおかげっすよ」
「ちょっとぉ、言い方ぁ~」
「はは。少しは気、楽になったっすか?」
「ん? ん~? どうかな……? ねぇ、おじさん?」
「はい?」
「すこし……泣いていいかな?」
「……いいっすよ?」
「背中……借りるね」
「……うっす」
由美は良介の背中に額を預けた。やがて、
「う……ふぐ、うぐうぅ……」
むせび泣く声が漏れた。
メノウの件で血が逆流し、それは戦闘が終わるまで収まらず、終わった後も血圧が下がる前にポテンタやクァラームの連中の仕打ちを喰らい、由美のメンタルは落ち着く隙も暇も無かった。おそらくは今、一気にそれが噴き出してきたのだろう。
恐怖や悲しみとかでは無い、この世界で生きていくために受け入れた、受け入れざるを得なかった変化。そして、相手を屠る=自分も屠られると言う図式から来る恐怖感、それに異議を持つ立場を失った事実。それらが混ざり合い、それらがあまりにも一気に襲ってきたその弊害か……
「ふう、ひぐ! うぐ! ふ、ふええぇぇ……」
声が大きくなってきた。
「……」
相手が背中では腕を廻して抱き寄せて口説くなんて事も出来ない。もっとも良介にはそんな女性の扱い方は全く無縁な人生だったのは光一と同じであったが。
幸か不幸か、今の良介は咽び泣く由美に背中を貸す事、それが精一杯であった。
♦
「わざわざ来てくれたのか。恐縮してしまうな」
魔族軍辺境派遣隊幕営地の一番奥にある天幕で静養していたソネットが、見舞いに来た真鈴・マギに笑顔で応えた。
真鈴が改めて解析した結果、ソネットの体内の毒成分は順調に中和されつつあるらしい。
「傷口は我が方の回復士が追加で治癒してくれているので、今日の夜にも包帯は取れそうだ。貴公らのおかげだ、助かったぞ」
「経過は、順調……毒成分、かなり減ってる……よかった……解析通り……だった、みたい……」
「その回復士も言っておった。解毒と治癒魔法が実に適正であったと。マギ殿であったな? 本当に感謝する」
真鈴とマギは胸を撫で下ろした。特に真鈴にとっての初仕事でもあったし、これは成功裏に終わりそうだ。
たとえ相手が仮想敵国の将兵であろうとも村や自分たちの恩人であるし、これからこの世界で生活していく、と言う点から見ても白星発進は何よりである。
「しかし貴公らの働き、と言うか攻撃力は大したものだな。貴公らが倒した盗賊どもの鎧には矢ほどの穴しか開いていないのに、身体の方は随分と損傷していたと、検死した兵が言っていた」
ソネットが話題を戦闘時の事象に変えてきた。光一と由美が銃撃した連中の事だ。




