戦い終わって 2
「宿代は経費で計上されるんだから当然だろう。あとは自分らで何とかするんだな」
「野宿しろっての?」
「当然じゃん。あんたたち、帰りは歩きなんだから今の内に準備するのじゃん!」
「……馬車で4日の距離よ? 本気で言ってる?」
「分からないの? 頭悪いわね? やっぱ胸が小さい分、脳ミソも小さいのぉ?」
「ギャーハハハハ!」
アソートの下品な笑い声が響く。
「そう言うなクリンシュカ、ヒッヒッヒ! 誰もがお前みたいに恵まれてるワケじゃ……」
ドガァッアーン!
「「「「ヒィッ!」」」」
バガッシャーン!
突然の爆裂音。同時にカウンター横のワイン樽が木っ端微塵に吹き飛んだ。
ザーッ! 飛び散ったワインがサントーらに降り掛かってきた。
「もっぺん言ってみろ……」
真夏の蝉時雨並みの耳鳴りが鳴り響く中、シーラやサントーらの鼓膜に何とか届いた由美の声は、まるで地の底から現れる古代竜の呻き声の如くだった。
「な、なんだ?」
「あ、あれ……あの盗賊を倒した……?」
「でも! こんな爆音!?」
「胸が小さいのは、あたしのせいか? あたしの責任か―!」
ドガァッ!
ドガァッア!
「うわあ!」
「ひいいい!」
「あたしの胸が何をした! あたしの胸が小さくて、あんたらに迷惑かけたんかー!」
ドゴオォッ!
ドガァッ!
良介は自分の腰に目を向けた。ホルスターには当然レッドホークは無く、良介は嘆息と共に肩を落とした。
近年、500マグナムや50AE弾等に拳銃弾最強のお株は奪われているが、44マグナムの持つ、一撃で大鹿をも倒す破壊力は健在だ。
強烈な反動の所為で「女では手首が折れる」などと言われていた時期もあったが、持ち方、構え方を正してしっかりと保持すればちゃんと撃てるし、ちゃんと当たる。
「あわわ……」
ポテンタから距離を取っていたラビィやマギは弾け飛ぶ樽や椅子、柱やテーブルの有り様に、身を寄せ合って震えている。
遠隔攻撃自体はサントーやクリンシュカの火炎・火球、氷矢・氷槍等の魔法攻撃はお馴染みではあった。技によっては相手を瞬く間に火だるまに、なんてものもある。
だが、それらは全て視認できる、目で追う事も出来て、魔法の基本であるイメージの構築が、し易い事象であると言う、或る意味において縛りのような制限が有った。
しかるに由美の行った攻撃は、見る限り音と炎だけで離れた対象を木っ端微塵に吹き飛ばすという、どんな属性の魔法をどんな特性で放っているのか皆目、見当の及ばない物であった。
目の前で起こった樽の爆発や壁に出来た大穴。椅子やテーブルの脚を吹き飛ばしひっくり返してしまうなど軍の高位魔導士でも、かなりの上級でなければ繰り出せない類――いや、彼らでも出来るかどうか……な技にすっかり尻込みしてしまった。まあ、魔法じゃないんだから、どんな上級魔導士でも無理なワケだが。
ただイメージ出来たのは、彼女がその気になったら、なってしまったら…………自分の頭など、カウンター下に転がるワイン樽の残骸の様に、原形も留めず吹っ飛んでしまうのだ、と言う事。それを思うと……シーラは少し、ちびってしまっていた。
「由美さん。怒るの分かるっすけど短気は損気っす。コウくん? 荷物取りに行くっす。真鈴ちゃんは由美さんとここで待機お願いするっすね?」
「あ、ああ、わかった。」
「……了解」
二人は返事をすると光一は良介と共に部屋へ、真鈴は現在地に残りマークIを取り出して安全装置を確認した。
由美と同じく自分も胸に関して弄られたわけで、由美と一緒に二~三発ぶっ放してやりたかった真鈴さんであった。
別に出て行かなくとも自分たちで料金を支払って、そのまま宿屋に居続けるという手もあった。だが、あそこまで由美が癇癪を起し、備品を破損させてしまった事へのバツの悪さもあって、探偵団は他の寝床を探すべく村長宅へ相談に行くことにした。
その途中。
「良さん……」
「ん? 何すか真鈴ちゃん?」
「あたし……魔族軍のとこ……行って、来たい……」
「……ソネット中尉っすか?」
真鈴は頷いた。
「毒の解析……薬草の調合……正しかったか……確認しておきたい……」
「気になるのかい?」
光一も聞いてみた。
真鈴が自分のスキルを披露するところを見るのは彼も初めてだった。
自分と全く違う分野でもあり、その卒のない動きに光一は軽い驚きと新鮮さを以て彼女の処置を見ていた。
処置は滞りなく行われたように見えたが、彼女としても気に掛かる事でもあったのだろうか?
「ん、わかったっす。コウさん?」
「ほい?」
「大丈夫とは思うけど、念のために護衛がてら一緒に行ってあげて欲しいっす。よろしい?」
「あ? ああ、いいよ。付き合うよ」
「……ありがと……」
というワケで光一は由美らと別れて、真鈴と共に魔族軍の幕営地に向かった。
護身用の武器は、持っていたM4は目立ちすぎるし、特に相手は甲種仮想敵国の軍隊でもあり、鹵獲される、とまでは行かなくとも色々聞かれても説明がしづらい。などと、今の段階で手の内は見せるべきではないと考えて置いていくことに。
その代わりに、これも新規に再現された拳銃コルトM1911A1、通称コルトガバメントの民生モデルであるマークIVを懐に仕込んでおいた。
最近の自動拳銃は主に軽量化のためにフレームが強化樹脂製の、いわゆるポリマーフレームが主流だが、基本設計から既に百年を経過するガバメントはスティール製である。操作した時の感触が日本で集めていたトイガンの亜鉛やアルミダイカストの音や粘り方と全く違うシャープな動きなど「これぞホンモノ!」と感動したせいで魂にインパクトが刻まれたらしい。しかし装弾数は7発と、今日びの拳銃に比べて少なく、何よりクソ重い。
と、それはさておき。
「あの……」
討伐隊幕営地に向かおうとした光一たちは、後ろから声を掛けられた。そちらに振り向くと、
「ソネットさんのとこ、行かれるんですよね? 聞こえちゃいまして……」
マギがいた。
「そうだけど、何だ?」
少々強めの語気で返す光一。その不機嫌さを隠さない口調に一瞬怯む様子を見せながらもマギは、
「あの、あたしも……ご一緒して、いいですか?」
と、光一――いや、むしろ真鈴との同行を申し出た。
「ソネットのこと……気になる?」
真鈴の問い掛けに、コクンと頷くマギ。
「あたしは治癒・回復士だけど、魔族相手に治療したこと無くて。ちゃんと効いているか、経過を確認したくて……敵国人だけど、村や、あたしたちの恩人だし……」
光一は真鈴を見た。マギの思いは真鈴と一致している様だが。
「……うん、わかった……行こ?」
探偵団を格下に見ていたパーティの中で、彼女は唯一、真鈴の求めに応じてソネットの治療に駆けつけてくれた。
毒の解析は専門スキルだが、その正体が分かったとしても真鈴に出来る事はそれまでだ。それ以上の事が出来ず、無力感に苛まれるところを治癒能力を持つマギが応じてくれた。
「あたしも……初めて、だった……自分のスキル……毒の察知なんて……使い道、無いと……思ってたから……」
だから真鈴は、マギの申し出を快く承諾した。




