戦場は地獄だぜ! 4
「飽きれたな。雑役に戦闘を任せて自分らは逃げ込んだだと?」
「あの……」
また上から声がかかった。先ほど、後方からの盗賊の接近を知らせてくれた村民の女性だ。
「村長ならあたしが呼んできますが?」
「おう、済まぬな。ご足労願おうか」
「わかりました、直ぐに行って参りますのでこの場で……危ない!」
――え!
叫ぶ女性の目が、対面後方の影に向けられていた。光一もその先を追った。
――な!
盗賊の残党だ。由美を狙っていたのを蹴散らしたが撃ち漏らしてしまったヤツ。
「く!」
由美はM4を構えた。が、
バシュ!
一手遅かった。賊の構えていたクロスボウから矢が放たれてしまった。
カン!
「うぐ!」
「隊長!」
矢はバンカー中尉の右胸に命中してしまった。仰け反りバランスを崩してバンカー中尉は馬から転落した。
「危ね!」
光一は落ちるバンカーを支えた。しかし、
「うお!」
甲冑を纏ったバンカーの総重量はすこぶる重く、光一は、
「ぐは!」
受けとめるどころか、下敷きになって転落の衝撃を和らげるのが精一杯だった。
「この!」
バシッバシィッ、バシィッ!
由美がM4を三連射。
「がは!」
命中! 崩れる盗賊。
「おのれ、魔族の面汚しが―!」
「げぶぁ!」
他の兵二人が駆け付け、まだ息のある盗賊の喉元や鳩尾に、剣や槍で突き刺して止めを刺した。
「ごぶ! ごふぁ……」
賊は口と鼻からの夥しい血を噴き出し、最後の痙攣と共に息絶えた。
「た、隊長さん、大丈夫ですか!?」
下から這い出して、中尉を寝かせる光一。
「だ、大丈夫だ、急所は外れている。これぐらい何ともない……」
と気丈に起き上がろうとするソネット。しかし、
「動かないで!」
それを制止する声。
「その矢に、毒、塗られてる!」
「真鈴!」
真鈴だった。メノウ親子を騎兵に任せて戻って来たようだ。
「遅効性の毒! 大丈夫だと思って動くと、その分全身に、回るのが、早くなる。その時は、手遅れ!」
「伝令! 回復士を呼び戻せ!」
取巻きの兵が部下に命じる。が、良介。
「そちらの回復士は負傷者の治療中っす。すぐには戻っては……」
「おじさん、真鈴! 無事だったのね、よかった~!」
「マギさん!」
真鈴は、宿屋の二階の窓から此方を窺っているマギに向かって叫んだ。
「薬草、ある? 青系の解毒草と赤系!」
「あ、あ。あるわ! ちょっと待ってて!」
マギは返事をすると自分の薬草他、薬品を詰めた雑嚢を持って階段を駆け降りた。
「矢じりは……カエリは無さそうだ。一気に抜きますよ、隊長!」
「頼む……く!」
副長は矢を抜いた。
次いで孔から血が垂れた鎧を剥ぎ取り始める。
――わ!
服の上からでもわかる、ソネットの豊満なたわわに、思わず目を逸らす光一。魔族相手と言えど、今もって健康優良童貞少年の光一には刺激が強すぎか?
彼女といい、クリンシュカといい、この世界は巨乳族が多い?
「毒の種類、分かるの?」
マギが到着した。即座に薬剤を取り出し、調合器の用意を始める。
「ちょっと待って……」
真鈴は患部に手を当ててスキル「毒察知・判定」を発動、詳細な分析に入っていた。
「……ヤマカジリの新芽とマンドルボアの根っこ。それを……鼠の死体と一緒に腐らせたタイプだわ」
「わかった。じゃあ、このポーションで周りを消毒して」
「え、おれ?」
マギに消毒剤を渡される光一。しかし由美。
「だめよ、あたしがやる! こんなオタ童貞にそんなことさせたら一緒にイタズラするかも!?」
「ちょ! いくら何でもこんな状況でそんな妄想するかよ、そこまで飢えてねーし!! でも頼むよ由美!」
光一はガーゼのような布に消毒液を染み込ませて由美に手渡した。
「うう!」
由美が消毒している間、マギが薬草を選別。調合器に入れて磨り潰し、解毒剤を作成する。
「マンドルボアの成分が多めね……もう少し赤を増やして」
「了解」
真鈴の指示に従い、マギは薬草を追加した。
やがて調合器の排出口からジェル状の薬剤が染み出て来る。
「これを回復ポーションと2対3で混ぜて」
と真鈴。自分が得意とするスキルの範疇である所為か、活舌がしっかりしている。
「2対3……よし、出来た!」
マギは出来上がった解毒剤を、漏斗を使って矢柄と直径が同じくらいの木製のパイプ内に流し込んだ。
「中尉さん、痛むけど我慢して」
そう言うとマギは、矢によって開いた中尉の傷穴にパイプを差し入れた。ついで内径に合わせた棒をパイプに差し込み、解毒剤をソネットの体内に注入。
「う! うぐぐ!」
麻酔も無く、傷穴に注入器を挿入される痛みに顔を歪めるソネット。その痛みを想像し、手足の指先が痺れる思いがする光一だった。
やがて、注入を終えたマギは注入器を抜き、
「……これでよし、あとは傷を塞いで……ん!」
患部に手を当てて念を込め始めた。
その時、光一の目には患部がボワッと明るくなった気がした。
その明るさの中で、まずは出血が徐々に収まっていった。そして傷口に非常に細かい泡が現れてくる。
――これが、回復魔法……
光一はこの手の魔法を見るのは初めてであった。明るさの中で患部から滲み出る泡が薄皮のようなものに変質し、傷穴を覆っていく。
「ふ~……傷は塞がったわ、包帯を当ててちょうだい」
「ほれ、男子! 回れ右!」
由美の号令と共にソネットに背を向ける光一と良介。その間に由美、真鈴、マギはソネットの上半身の服を脱がせて胸周りにサラシのように包帯を巻く。再度、服を戻して終了。
「矢は肋骨より奥まで届くくらい深く刺さってましたから、傷口が安定するまでは無理しないで下さいね」
「解毒剤が、毒を中和しきるには……一晩かかる。今日は……安静に……」
「ありがとう。助かったよ」
隊長は無事だぞー!
おおおー!
隊長の治療が成功し、騎兵隊は安堵と喜びの声を上げた。
その後間も無く、村長が駆け付けて来た。
討伐した盗賊の死体を魔族兵が始末している間、良介・光一らも交えてソネットの説明を受けることになった。
それによると件の盗賊団はトリアーノ国のみならず、魔導国でもかなりの被害をもたらしていたらしく、ソネット小隊が編成されて討伐に乗り出したのだそうな。
「報告いたします。今回の盗賊団の総数26人。この全員を駆逐致しました。村側の被害は自警団始め男4名、女1名、子供1名が死亡。負傷者は男9名、女6名、子供5名。うち、男2名が未だ意識不明であります。家屋の損壊・放火は6棟、家畜の殺傷、物品の破損の総数は現在調査中で詳細は不明。以上であります」
「不逞の輩とは言え、我が魔導国の者がこのような所業を働いた事、申し訳なく思う。我が軍の不徳の致すところであり、謝罪させてほしい」
真鈴に安静を進言されたこともあって、会談は宿屋の一階サロンで。J・Vからもポテンタ・クァラームの各リーダーが参加した。




