戦場は地獄だぜ! 2
「も、もう許し……ひ、ひぎ、うぐぅ……」
悲哀と屈辱と嫌悪の籠った涙声。何をされているかなぞ考えるまでも無い。良介は真鈴に目を向けると小さく首を振った。
真鈴にも漏れてくる声は僅かに聞こえた。そして同じ女として唾棄すべき行為が行われている事も。
メノウには見せられない――それを良介の首振りに感じた真鈴は、メノウの目と耳を塞ぐように抱きしめた。
「……」
良介は指先で、
――俺が入る、君はここでメノウを守って
とサインした。
それを理解した真鈴は一つ深く頷くと、腰の雑嚢からマークIを取り出し、遊底を引いて初弾を薬室に装てんした。
良介はもう一度頷くとゆっくり立ち上がり、M870の用心金後端にある安全装置を解除した。
ふ~……ふ~……
二回深呼吸して鼓動を落ち着かせる。そして、
――ふっ!
一瞬息を止め、それを合図にするかのように良介は扉を蹴り開けた。
バアァーン!
突然響くけたたましい打撃音。驚くオーガどもは、思わず入口に顔を向けてきた。
「な、なんだ、てめぇ!」
そう叫びながら、立っていたオーガは壁に預けていた槍に手を伸ばした。相手は見るからに人間、扉を蹴り開けての乱入は自分らと敵対しようとしているのは火を見るより明らかだ。
だが遅い。良介は即座にしゃがんで膝撃ちの姿勢を取って身体を安定させ、オーガの腹を真正面に狙い、間髪入れず引金を絞った。
ドォオンッ!
室内に凄まじい炸裂音が轟く。同時に、
「ぎゃぼ!」
オーガのどてっ腹に、真っ赤な大穴が空いた。
バターン!
良介の放った12ゲージOOバックショットはオーガの腹の血肉を抉る様に飛散させる。彼奴はその巨体をくの字に曲げて転倒した。
「ひぎ!」
母親を凌辱していたオーガは即座に腰を抜いて自分の得物、ロングソードに飛び付いた。
が、
ドォオンッ! シャカ! ドォオンッ!
良介はM870を即座に二連射。直径8.4ミリ、それが一度に九粒飛び出す鹿撃ち弾は背を見せたオーガの腰骨を粉砕。二発目は肺と心臓を抉り、強姦オーガは倒れる前に絶命した。
「大丈夫っすか?」
良介は落ちていた布(おそらく剥ぎ取られた母親のブリオー)を宛がうと声を掛けた。
「ふ! あ、あ、ふあ!」
何が起こったか? 母親は把握できていないようだ。
無理もない、おぞましき魔族に犯されている最中に雷の如き轟音がしたと思ったら、屈強なオーガ二体が腹や心臓を抉られて血まみれになり、瞬く間に倒れてしまったのだ。
「メノウちゃんのお母さんっすよね? 助けに来たっす」
「メ、ノウ……メノウ!」
母親は娘の名を聞いて正気を取り戻した。
「メノウは、娘は無事なんですか!?」
「無事っす。表に居るっすよ?」
「ママ!」
良介が無事を伝えると同時、メノウは真鈴と共に家に入って来た。
「メノウ! ああ、よく無事で!」
「ママぁ!」
思いっきり抱き合う二人。それを見て良介は安堵の息をついた。
「ママ。パパ、パパは?」
ハッ! 母親は娘に訊ねられ、昏倒している夫の元に駆け寄った。胸に耳を当てて鼓動を窺う。
「どうっすか?」
「生きてます! でも脈も弱い……早く治療しないと……」
「リョウさん!」
入り口前で真鈴が叫んだ。
「盗賊が……こっち、来る!」
銃声か? 止むを得ない事だが良介は舌打ちした。
「奥さん、裏口は!?」
「あ、ありません! 窓しか!」
「く!」
窓……女たちだけなら何とか出られようが男の、しかも重傷者を担いでの脱出はすこぶる難しい。
「真鈴ちゃん、母子だけでも連れて窓から脱出するっす。そしてコウくんたちと合流して……」
「無理……」
女子供だけでも逃がそうとした良介の提案を真鈴はひと言で否定した。
「連中……二手に、分かれた……」
西側の窓から外を窺っていた真鈴が盗賊の動きを伝えた。連中は4人と3人の班を組んで表と裏から家を包囲する気らしい。
「……真鈴ちゃん?」
「……ん?」
良介は散弾銃に弾薬を補填しながら話しかけた。
「裏側、まかせていいっすか? 足止めだけでいいっす」
「……うん……やって、みる……」
真鈴もマークIの遊底を少し引いて、弾薬が装填されていることを再度確認すると、裏窓に狙いを付けた。
良介も改めて表の4人を見る。
――鎧付き、か……
倒したオーガは女を凌辱するため鎧を外していた。至近距離も相まって貫通力の低い散弾であっても効果は抜群だった。だが簡易でも鎧で防御され、距離も開くとなると光一や由美に渡したM4の方が勝手が良さそうだ。
――距離が20mくらいまで詰まったら一気に連射で……
1m近く広がる散弾で肌の露出部に被弾させて脚を止められれば、レッドホークの44マグナム弾で止どめを……良介の戦法は固まってきた。
まずは前方の4人の排除だ。良介は入口の壁に身を預けてM870を構えた。
と、その時、
ドドドドドド……
地を這うような低音。まるで大地が震えるが如き音が良介や真鈴の耳に届いた。
「逃げろー!」
――な、なんすか?
盗賊たちが錯乱し始めた。慌てて踵を返し、本隊がいるであろう村の中に向かって駆け出したのだ。
真鈴もマークIを構えつつ、裏窓に寄って外を確かめた。
「何、事?」
こちらの3人も、やはり泡くって走り去って行ったのだ。
良介は音のする方向――東側の村はずれに視点を移した。そこで目に映ったのは、
「突撃ー!」
「おお―――ッ!」
朝日に照らされて眩く光る銀色の甲冑を纏った騎馬兵の集団。それが盗賊に向かって一直線に吶喊していく姿だった。
「魔導王国辺境派遣隊隊長 ソネット・バンカー見参!!」
良介は、先頭の騎士を思わず二度見した。
名乗りを上げたその騎士の声は、力強いが甲高い、女性と思しき声だったからだ。
ドーン! ドン! ドーン!
遠くから銃声が聞こえてきた。
「なんだ? 何の音だ?」
「村はずれの方、ですかね?」
「お頭! オーガのドルムとヘッツが女あさってた家じゃねぇがや?」
「あいつらの仲間か!? おい、5~6人行って片付けてこい!」
「へい!」
お頭――首領の指示に、間髪入れず後方の盗賊7人がメノウ宅へ向かった。
「しかし、なんなんだあの得物は?」
首領は光一と由美が放つ小銃弾に行く手を阻まれ、手を拱いていた。連中の近くで倒れているボムとグフを含めて、すでに4人が重傷を負っていた。
何か礫のようなものが飛んできているのは感じるが、弓の矢じりでも無ければ投石器の類でも無い。盗賊も弓やクロスボウで対抗するのだが、矢を1本射る間に相手は5発も6発も放って来る。
「おい、テロン。西側の連中呼び戻して来い! と、デザーとスクバ! 裏から後ろに回り込め! 挟み撃ちだ!」
「おう!」
「うし!」
「ターボン! 大盾持って突っ込んでグフたちを回収しろ! クロスボウは援護射撃だ!」




