戦場は地獄だぜ! 1
「しょうがないっすね……コウさん!」
「おう!」
「障害物に隠れながら連中を牽制、由美さんの援護をお願いするっす。由美さんも身を守りながら少しずつでも連中の数、削ってほしいっす! 俺は抜けてきた奴を仕留めるっす!」
二人に指示しながら良介は、予備のM4と弾薬を光一に手渡した。自らは最近、再現に成功したレミントンM870散弾銃を手にした。
「二人とも! 慌てず焦らず確実に! 訓練通りっすよ!?」
「「了解!」」
光一はM4を抱えて表通りの反対側の酒場前、うずくまるゴブリンの後方に積まれた酒樽付近に前進、身を潜めた。
「おーい、ボム!、グフ! どうしたぁ!?」
5~6人の盗賊が近寄ってきた。そのうちの二人が弓とクロスボウを持っている。まずはこいつらに要注意。
バシィッ! バシィッ!
由美が制圧射撃を開始。連中の足元に着弾の土埃が舞い、少量の砂利も巻き上げて盗賊に降り掛かった。
「な、なんだ!?」
バシッ、バシィッ!
「と、飛び道具か!? 鏃も礫も見えねぇぞ!?」
「みんな隠れろ! 初めて見る得物だ! グフたちもそれで!」
何らかのモノが目に留まらぬ速さで飛んで来る――盗賊どもは、そう言った武器の使用を即座に直感した。蹲っているボムとグフは、その武器の餌食になったのだと。
連中もバカではない。こと戦闘に限っては、そんな直感が働かない様では盗賊稼業など長続きはしない。
「ベロ! 応援呼んで来い!」
「おじちゃん、おじちゃん!」
少女が良介の袖を引っ張ってきた。
「なに? おじょうちゃん?」
「パパとママを助けて!」
「え?」
「盗賊が家に入って来たの。ママが裏の窓からあたしを逃がしたんだけど! 他の人に助けて! って言ったんだけど誰も助けてくれなくて!」
「う……目の前の連中が邪魔っす。あいつら片付け無いと進めないっす!」
「裏から回れるよ! あたしが連れてくから!」
「で、でも……」
「早くしないと、パパが! ママが!」
良介は光一に目を向けた。
それに気づいた光一は由美にアイコンタクトを送る。「どうする?」と。
由美は光一に向けて頷いて見せると良介に、
「ここはまかせて! おじさんは、その子の両親の所へ行ってあげて!」
少女の両親の救出に向かうよう促した。
「……わかったっす。じゃあ真鈴ちゃんは、ここで二人の援護を……」
「あたしも……いく!」
「真鈴ちゃん、危険っす!」
「それは……どこも一緒。あたしが……この子護るから……リョウさんは、盗賊を!」
探偵団は、仕事が無い時を見計らって郊外で訓練はしていた。まだまだビギナーの域は出ないが、真鈴にも火器の取り扱いや基本的戦闘行動も教えてはいる。しかし、いきなりの実戦はどの目が出るか未知数に過ぎた。
「あたしも……由美さんと、一緒……あいつら……許せない!」
「……」
由美も、そして真鈴も女の子の端くれ。自分らのような女たちが凌辱されるだけでも嫌悪感がハンパないのに、こんな幼い少女までがその対象にされる。それを、薄笑いを浮かべながら平気でやろうとしている盗賊には、嫌悪以上の怒りを抑える事が出来ない。
この世界にしては強力な個人火器を使えるという自信も有るだろうが……
「リョウさん!」
「コウくん」
「時間がないよ。行って!」
そう、今は迷っている時間は無い。悩んでいる間にも少女の両親の生存確率は残酷なほど確実に下がっていく。
「わかったっす! その子お願いするっす真鈴ちゃん。俺の援護も!」
「はい!」
「じょうちゃん、名前は?」
「メノウ」
「ん、メノウちゃん! 案内するっすよ!」
メノウの両親救出のため、膠着状態となった表エリアを良介らが裏路地から突破したころ、盗賊団本隊にベロの伝令が届いた。
「なんだと! ボムとグフがやられた!?」
「相手は何者だ? 冒険者か、傭兵か!?」
「それが分かんねぇんで。妙な飛び道具使ってるみたいでがす」
「飛び道具? ボムとグフはどんなやられ方したんだ? 深手か?」
「それも分からねぇんでがす。二人の所まで近づけねぇもんで」
「ケガしてんのに放ったらかしか!? この間抜けがぁ!」
げし!
「げふぉ!」
ベムは頭目に張り倒された。
「それを真っ先に言え! てめぇら行くぞ!」
犯罪者の荒くれ集団と言えど、仲間を大切にするという程度の仁義は残っていそうだ。
おかげで良介たちの首尾は成功率が高まった。もっともその分、光一たちへの負担が激増する訳で、メノウ親子を救出・避難させた後は速やかに戻らなければならない。
光一がファンタジー等の現実離れしたコミックや小説に感けていたのと同じく、銃器設定の濃いアクションものの映画や小説に没頭していた良介。それにプラスしてネットでも、より実戦に近い状況等の情報も吸収していた。
故に盗賊団の主力が移動したと言っても、後方は空っぽになった、もう安全、と勝手に早とちりするほど迂闊では無かった。
「おじちゃん早く!」
だがメノウは、移動した盗賊たちを見て安全と判断したようだ。真鈴の手を、一層強く引っ張る。
「焦っちゃダメっす」
即座に止める良介。
「まだ盗賊が居残ってるかもしれないっす。メノウちゃんと真鈴ちゃんは外で待機しててほしいっす」
「わかった……メノウちゃん……もう少し、辛抱……よ」
良介は頷くと、真鈴たちを引き連れて、前かがみに脚を忍ばせながらメノウ宅の入り口に張り付いた。
メノウたちの姿勢を更に低くさせ、自分は音を立てないように扉に近付く。
扉は少し、5~6cmほど開いていた。扉の隙間から内部を覗き、聞き耳を立てる。
「う、あ、ああ、うああ……」
女の呻き声が聞こえた。
声の方向に視線を移すと二体の、ゴブリンとは違った赤っぽい皮膚の魔族がいた。
そのうちの一体は、
「ふん! ふん! ふん!」
と荒い息遣いと共に腰を前後に振っていた。その腰の両脇からは抱えられた人間の女性らしき脚が飛び出している。
「おい、まだかよ? 早く代われや」
もう一体が腰を振っている奴の横でボヤいている。
「うっせえ、急かすな!」
額の角に、吊り上がったデカい耳。シオンに教えてもらった鬼族の特徴と類似していた。
その文句を垂れているオーガの後ろには頭から、口から鼻から血を流して倒れている男が一人。
状況は把握できた。しかも容易に。
両親はメノウを逃がした後に乗り込んできたオーガと対峙するも父親は倒され、母親は……




