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魔族さん、こんにちは 2

 と、事実上の依頼の放棄を意味するクリンシュカの意見に反論するクァラームの女性戦士ラビィ。犬種の獣人だ。

 クァラームは、主に未開地域や魔獣出没率の高い危険地域の洞窟、そして所謂ダンジョンと呼ばれる迷宮・古代遺跡の探査や調査を得意とするパーティだ。広範囲の空間探査能力の高いリーダー・エンリイの護衛を主任務とする戦士のラビィ、負傷した場合の衛生(メディック)要員マギがメンバーだ。

 そのラビィに、

「だから仕方ないじゃん! 受けた依頼と話が全然違うじゃん! 契約確認事項の『契約時の状況説明と著しく相違がある事が確認し得る場合、現場の判断で契約を破棄、若しくは無効化できる』ってヤツ! 正にコレじゃん!」

とヒステリックに畳み込むシーラ。小柄で声も甲高く、年齢の割に若く見られるヒト種の女性支援魔導士。肉体的強化付与の魔法が得意だが、これほど多勢に無勢ではどれだけ効果が認められるか?

 故に彼女がそれほど感情的になるのも無理のないところ。現在、治癒士のいないポテンタはこの依頼を受けるには少々重荷であったが、戦闘力が低い分、優秀な治癒師であるマギと、白兵戦時等で敵の配置や行動、人数の探査・把握にも優れるエンリイを擁するクァラームとの共同受注と言う形で何とか引き受けたのだ。

 事程左様に最初からギリギリの戦力であったのに、敵勢力が実は4倍以上、なんてのは「見解の相違」あたりの言葉で済ませられるレベルを遥かに超えてしまっている。

「でも、村民たちが蹂躙されちゃうんだよ!? 目の前で女も子供もやられちゃうのを見て見ぬふりなんてさ!」

「ラビィの言い分ももっともだが状況が状況だ。こうなった以上は、メンバーの身の安全の確保、これが最優先事項だ!」

「でも!」

「ラビィ、ボクも君の気持ちには賛成だよ。だけどサントー氏の言うように、こうなってはボクもリーダーとして、君たちの命の保護を真っ先に考えなくちゃいけないんだ。分かってくれないか?」

 エンリイの説得は非情に見えて筋は通っている。何よりリーダーとして、メンバーの安全を第一に考えてくれている。

 ラビィは自分の感情を抑えるしか無かった。

「じゃあ、このままバックレてもいいんじゃね?」

「いや、あれだけの人数だ。おそらく反対側にも、ある程度は廻り込んでいるはずだ」

「立て籠もるのか?」

「そうだ。この宿の階段は狭い。進入されても、そこで迎え討てば常に一対一になる。さらにクリンシュカと俺が後方へ魔法攻撃すれば混乱させられる!」

「わかった、それで行こうぜ! よし、すぐに二階に上がって態勢を整えよう。エンリイ!」

「うん、なにかな?」

「お前たちのパーティは階段以外から昇って来ようとする連中を見張ってくれ。一緒に、お前の探知能力で周辺の盗賊の配置や動きを読み取ってほしいんだ」

「了解した! そういやサントー氏? あの連中はどうする?」

「あの連中? ああ、タンテイたちか? ちゃんと役割は考えてあるよ」

 そう言うとポテンタとクァラームの両パーティは、踵を返して宿屋に戻った。


 

 宿屋に戻ってきたJ・Vのパーティは、待機していた光一ら探偵団にささっと指示を伝えると、即行二階へ駆け上がり迎撃準備に入った。

「バリケード作って出入口塞げ、つってもさ~」

 由美がこの上ないジト目で階段方向を睨みながらボヤいた。

「結局、村民見捨てるんじゃないのよ~」

「腑に落ちないのは俺も同じっすけど、状況が状況っすよ。とても彼らだけでどうにかできる人数じゃ無いっすからね。他の村民も家ごとに籠るように触れてるみたいっす」

 一階の机や椅子を光一と運びながら答える良介。それらを扉の前に積み上げて障壁を作る。

「てことは? 盗賊に好き勝手させるのか?」

「盗るものだけ盗らせて過ぎ去るのを待つ……天災と同じ扱いっすかねぇ」

「何よ。襲われた家は見殺し? 村のために?」

「……人柱……」

 サントーの指示に釈然としない探偵団の面々。それは、魔族と本格的に刃を交えた事が無い、経験不足ゆえであろうか?

「屋根に上がって由美が狙撃するってのはどうだ? サプレッサ着いてるから位置とかバレにくいし、徐々に減殺していけば……」

「相手は魔族っす。しかも大柄で屈強な連中ばかり。5.56ミリでどこまで通用するか、まだ不明っす。それに……」

「それに?」

「いくら魔族の荒くれ者と言っても、相手は言葉の通じる、俺たちと同じ五体を持った種族っす。由美さん?」

「……なに?」

「引鉄……引けるっすか?」

「……引かなきゃ、こっちが殺られるんでしょ?」

「……そうっすか……うん、覚悟のほどは分かったっす。でも、やっぱりそれは最後の手段に取っておくべきっすね。現状はJ・Vの下請けで行く方がいいっす」

 トップの平蔵が王都で留守居をしているので、光一ら現地組の責任者は年長の良介である。彼もまた、探偵団の安全を最優先に考えなければならない立場だ。

 そのために非情な指示・命令も辞さない――良介は心を鬼にするべく、深く深呼吸をした。

 と、その直後、

「助けて―!」

外から、一聴して分かる幼い少女らしき悲鳴。それがイヤな予感と共に良介らの耳に飛び込んで来た。

 光一と由美は一瞬お互いに目を見合わすと、窓の戸板をほんの少しずらし、外の様子を窺ってみた。

「開けて開けてー! パパとママ! パパとママがー!」

 見たところ4~5歳の少女が家屋の扉を涙ながらに叩いて助けを求めているようだった。

他にも、

「開けて! 開けてくれー! 中に入れてくれー!」

こちらは家族であろうか? 少女より年少の幼児を抱いた母親と父親が、隣の雑貨店舗の戸を叩いている。

 しかし、扉は一向に開く気配は無かった。なぜなら、

「うおりゃあああー!」

「待てやオラぁー!」

盗賊の数人が、すぐ近くまで彼らを追いかけて来ていたからだ。

「なんで開けてあげないの! あの子たち、襲われちゃう!」

 声を押し殺しながらも由美が口惜しそうに罵る。

「おれたちと同じだろうな。あの子たちを入れたら盗賊たちを引き寄せる事になっちまう。誰か(獲物)が中に居る事を証明しちまうんだ」 

「くぅ~!」

 光一の予測に、周りに聞こえるほどの歯軋り音を響かせる由美。

 この世界に召喚されて以来、事ある毎に感じた「日本とは違う」世情。元の世界に戻れない以上、好むと好まざるとに拘らず受け入れなければならない現実。

 光一も、それは分かっているつもりではあったが、目の前の幼子が悪漢の手に堕ちる事まで認めならなければならないのは、あまりにも残酷な光景だった。

「あ、あなた! 来たわ!」

 盗賊たちは、もはや目と鼻の先だった。そいつらは光一の過去のファンタジー遍歴から、その黒味のある緑の肌を持った筋骨ガチガチの姿はゴブリン種を連想させた。

「手古摺らせんじゃねぇぞ女ぁ」

「子持ちかよ。まあ、いい腰してっし、奴隷に出す前に楽しませてもらうかぁ」

 ゴブリンやオークの一部は性欲の塊みたいな設定はいくらかあるが、実際に目の当たりにすると自分が普段、女性に対する欲望を抱いたりすることが恥ずかしくなるくらい不気味で低俗に感じる光一。男の自分でこれもんだと、由美や真鈴の感情は如何ばかりのモノか。

「走れ!」

 親子は家屋に逃げ込むのを諦めて走り出した。すぐ隣で同じく助けを求めていた少女とすれ違う。

 ――え!

 ここで光一はまた、信じられない光景を見た。

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