この世は男と女、そして少々の金 5
さっきから姉さんは元より、年端も行かないこの小娘にも、なぁんも言い返せない光一くん。確かに、本来なら敷居が高いだのハードルが高いだのって言えるレベルですらないのは自覚はしていた。が、しかし、
「若いから仕方ないけど、あまりこちらの界隈、舐めないでほしいわね」
などと、こげな小娘に、ここまで言われるとなると?
――誰も舐めちゃいねぇし! いやむしろ舐められたいくらいだし!
「今『むしろ舐められたい』とか思ってなかった? 思ってたわよね、童貞少年?」
図星ー!
「これっ、キャティ! 口さがないのはあなたの悪い癖よ?」
「も、申し訳ありません、姉さま。以後気を付けます!」
あら、やっぱ絶対服従?
「じゃあコウちゃん。またね?」
シーナはもう一度、麗しき笑顔で光一に声を掛けるとキャティと二人、フードで面を隠して雑踏の中に消えていった。
――ふ~……
「キレイな女性ね~」
「わぁ! びっくりしたぁ!」
光一はマジで飛び上がる寸前であった。安堵の息を突こうとした矢先、いきなり後ろから声を掛けられたからだが。
後ろを向くと、息が掛かるんじゃないかって距離まで由美が来ていた。
いつの間に! そう叫ぼうと思った光一の目に由美の呆けた顔が映って、言葉が消えてしまった。
「メッチャ美人でスタイルも抜群! ……歩く姿も優雅って言うか華麗って言うか……キレイさとお色気具合がハンパないって言うか~」
「……女のおまえでも、そう思う?」
「うん、溜め息しか出て来ない……」
――おれは溜め息すら忘れちゃったけどな~
「で?」
「あ?」
「なんであんたが、あんな美人と同席してんのよ? ああいう人とは、おおよそ一番縁の無さそうな人種のオタ野郎がさ?」
「オタゆーなっつーの!」
「へ~。あの人があんたのお相手だったの~? やっぱ卒業出来たんじゃん、あんな美人さんにさ~? おめでと~」
「だから、それ以前に作戦が始まったんだって。何もしちゃ、いねーよ!」
「フニャッた~?」
ブ――ッ! 茶を噴き出す光一。
「誰かが言ってたんだよね~。釣り合わない美人相手だと腰が引けるってさ~」
「だから! その前にルカさんからの合図があったんだって! 薬で相手を眠らせる、なんて荒業やるんだから、チャンスなんか選んでられないよ!」
「事後の一服、なんてのを狙っても良かったんじゃな~い?」
――お! その手があったか! じゃ無くてよ!
ネット環境が無い頃から女子たるの多くは耳年増。信憑性に疑問は有れど、情報量としては男子の追従を許さない。
「それよりも聞き込みは? 何か掴めたか?」
と、いつまでも若さあふるる下ネタに興じている訳にも行かない。光一はビジネスモードに切り替えた。
♦
夕暮れ迫る王都イオタニア。
外回りから戻った探偵団たちは本日の聞き込み報告を行い、これからの指針を協議し合っていた。
「ふ~ん。コウくんと由美くんの仕入れた情報では長男坊は、今は西地区へ流れてるって考えて良さそうだねぇ」
「コウ君のネタは南東の工匠街。由美さんの方は東の露店街から……二カ所から同じ証言が出たんなら、信憑性はあるっすね?」
「じゃあ、今後は西地区を洗い出す訳ですわね?」
「そうだね。まずは証言通り、西地区の倉庫団地を目指そうか」
「西地区か~。ザーラの縄張りなんだよな~」
「コウさんや所長……顔、知られてる……ものね……」
「国防軍のトロムさんが間に入ってくれてるけど、手打ちにはもう少し時間がかかりそうかな? ま、明日は僕とコウくんのペアで覗いてみようか。由美くんには離れたところで待機・観測してもらって、ザーラと何かあったら良くんとM4担いで駆けつけて貰うって感じで」
コンコンコン、コンコン……
明日の行動計画が決まってきた時、入り口の扉からノック音が響いた。
「すいませ~ん。ジャック・ヴァイスのシオンで~す」
「あ、は~い。今、開けますね~」
そう返事するとエミリーは、扉に寄って解錠してシオンを招き入れた。
「こんにちは、シオンさん」
「こんにちは、エミリーちゃん。お邪魔しま~す」
「どうもシオンさん。いつもお世話になっております。相変わらずお綺麗で」
「もう、ヘイゾウさんたら~。お上手ですわ~」
「ヘイさん? それってギリ、セクハラでしょぉ~?」
平蔵とシオンの社交辞令に由美の諌言が入る。
「あ、やっぱこっちでもダメだよね。うん、これっきりにするよ。ところでシオンさん、今日は何用で?」
「はい、今日はちょっと、ご無理をお願いしたくて」
「依頼っすか? あ、でも、紹介じゃなくて直接来られるってのは?」
「ええ、今回のはちょっと……今までとは違ってまして」
「今までと違う? まあ取り敢えずお話を。エミリーちゃん、お茶、お出しして」
は~い! エミリーは元気よく返事するとキッチンに向かった。シオンも着席を勧められる。
「さて、詳しくお聞きしましょうか?」
「はい、端的に言いますと、こちらから少々、人手を出して頂きたくて」
「人手? て事は……ギルドからの直接依頼ですか? 依頼人からでも無く?」
――直接? ギルド直接って初めてじゃ?
光一たちの所属するアーリウム探偵事務所は正規ギルドではない。
召喚された異世界人を主力とするこのパーティは正規のギルドを開設する実績が無く、王国公認ギルド「ジャック・ヴァイス」の提携先――と言うか、ぶっちゃけ下請けパーティとして辛うじて旗揚げ出来た経緯がある。
通常は、正規冒険者ギルドが受ける事は無い、言わば畑違いな人探しやら物探しやらの依頼や、提示された報酬額が見合っていない等のワケ有り案件を引き受ける事で食い扶持を稼いでいるのだ。
と、このようにジャック・ヴァイスは通常、仲介に留まっているのであるが、今回はギルド名での直接依頼だという。
「辺境での盗賊討伐……ですか?」
シオンからの説明を聞いた平蔵が確認がてら復唱した。
「それも魔族の盗賊? 討伐要請が来るって事はそれなりの人数ですかな?」
「情報では6~7人の集まりだそうです」
「それは確定事項っすかね? 戦力は割増で考えるべきじゃ無いっすか?」
「ええ、留守居に1人2人はいる、と想定しての数だそうです。本来なら軍が派遣されるべきなのですが、相手は比較的小さめの集団ですし、現在のところ軍は大規模な野外演習を控えてあまり人員を避けられないとの事で、国からギルドへの要請と相成りまして」
「大規模な演習っすか? そういう時でも軍てのは普通、有事に備えて待機部隊が残るもんじゃ無いんすか?」




