この世は男と女、そして少々の金 4
「あの将校の従者だからGかとも思ったけどあなた違うよね? 普通に女好きよね? 私を見てドギマギしてる時のあなたの目は、女知りたい盛りの男の子だったもんね!」
――大当たりっす~! なんも反論できましぇ~ン!
「ふ~」
一しきり捲し立てたシーナは、椅子に背中を預けて一息ついた。
「言いたいことは言ったわ。あ~、すっきりした!」
シーナは言うだけ言ってうっ憤を吐き出せたのか、途端に険の取れた穏やかな表情になった。
初めて会った時のビジネススマイルほどでは無いが、光一の目にはやはりあの、目線を逸らさずに何時までも愛でていたいと思えるような美しさは変わる事は無かった。
「あの……」
「ん? なあに?」
キョトン、とした表情も加えて、小首を傾げながら聞いて来るシーナ。光一としては、
――や、やっぱたまらん! 完成され過ぎている!
と、この女性こそ、自分の理想像ド真ん中、どストライクであることを改めて実感させられた。
「どうしたのよ?」
「あ、いえ、その……少しはご機嫌……直していただけたかと……」
「……言ったでしょ? 言うだけ言ったってね?」
「そ、そうっすか……」
「なに? 私に気を使ってるの? チェリーの分際で? 生意気ね」
「す、すんません……で、でも……」
「ん?」
「おれ……驚いた、て言うか、感動してました。こんな美しい方が、この世に実在するなんて……」
「お上手ね?」
「いえ、本心です! ホントにもう!」
「……でも、お仕事優先したのよね? 私には目もくれず?」
「あ、はい……」
いや、見るだけはしっかりと! 襦袢越しとは言え、お胸もお尻もガン見しておりました!
「いいんじゃない?」
「はい?」
「結果は結果。お互い、自分の役目を果たし合っただけだわ。キライじゃないわよ、そう言うの」
「……」
「あなたも私も、お腹に一物抱えて張り合った。で、あなたは目的を達した。私はしくった。それが全て。さっきの愚痴も私の未熟さ故だもの。結局、私のレベルはそれくらいってコト」
「そんな!」
光一は声を荒げた。シーナの目がちょいと見開いた。
――あ……
店前ではあるが、ここはほぼ往来。周りの耳目を集める様な声量を出してしまうなど、迂闊である。シーナも語気は強めてはいたが、席から外に飛び出すような声では無かった。
「落ちつこっか、坊や?」
意地悪く微笑むシーナ。
――くう。美しさに小悪魔的可愛さまでプラス! た、たまらん!
「こないだはホントに……おれに運が向いてただけで……ずっとシーナ姉さんのこと、忘れられなくて……」
「そうなの?」
「マジでヤバかったんだよ。シーナ姉さんのような女性が初めてだったら……わが生涯一片の悔いなしって言うか……」
「なに? 今さら口説いてんの?」
「いえ! ホントにその!」
「ん~?」
「さっきの、姉さんと同じだよ。姉さんの素晴らしさ……ホントに感動してたって……言っておきたいって……」
最後はボソボソだった。しかし光一も彼女同様、やはり言っておきたかった。
仕事とは言え、彼女を踏み台にしてしまった事――この思いは贖罪も含めて伝えたかった。
結果、彼女は放逐どころか取引材料になってしまったわけだが、それに後ろめたさを感じるなと言われて、はいそうですか、とドライになれるほど光一は人間が出来てはいない。
「……名前、教えて」
「え?」
いきなりの話題変更。光一はちょいと虚を突かれた。
「なんで今、名前?」
「だって不公平でしょ? 私は名乗ってるのに私はあなたの名前を知らないってのはね?」
なるほど正論。
「あ、えと……コ、コウイチ・アズマ、だよ」
「コウイチ・アズマ……コウちゃんね、OK?」
――こ、コウちゃん!?
虚を突かれた次に、今度は面食らわされた光一。名前にちゃん付で呼ばれるなど何年ぶりであろうか?
とは言え、断る理由も思いつかない。
「だめ?」
「あ、いえ! もちろん、いいけど」
「ん! じゃあこれでイーブンね! 禍根は全て水に流すって事で、ね?」
にこっ!
シーナは再び首を少し傾けて、満面の笑顔を浮かべた。
――ぐわっ!
それはまた、光一の胸の奥深くに刻まれる、宛ら天使か女神のような微笑みであった。
「姉さま、お待たせいたしました!」
後ろから声がかかってきた。状況からして姉さまとはシーナの事であろう。
シーナの笑顔に感動していた光一の気がそちらに向かった。すると一人の少女が胸の前に小さい買物籠を抱えてシーナの前に、ととととと~と小走りに駆け寄ってきた。
「お言いつけの品、買って参りました、姉さま!」
「ご苦労さま、キャティ。行きましょうか?」
シーナは立ち上がった。
「はい、姉さま……あ!」
少女の目が、今まで姉さまと話していた男の目と合った。
「あ、あんたは!」
一気に目が険しくなる少女――キャティ。睨まれた光一は、その少女の顔に見覚えがあった。
「あ、君、あの時の……」
ファーラの部屋の外で待機していて、シーナと同様に光一が眠らせた、あの少女だった。
――この子も売られちゃった?
「何であんたが姉さまとお話なんか! あんたのせいで姉さまがどんな思いをしたと!」
捲し立て第2ラウンド? エミリーよりも少し歳下っぽいキャティと呼ばれた少女は、怒っているとは言え、さすがシーナの付き人になるだけの将来有望な器量でもって光一に詰め寄った。
――そういや、おれはこの子も騙したようなもんだよなぁ
「おやめなさいキャティ。彼とはさっき、手打ちは済ませたわ」
「え?」
シーナがキャティを宥めてくれた。おかげで弁明やり直しは避けられたようだが、彼女の怨嗟の籠った視線は変わらない。
「お互いちゃんと話し合って、例の件に関わる感情は全て水に流すって事で納得し合ったわ。そうよね、コウちゃん?」
「は、はい! その通りで!」
「……」
なおも訝しげに光一を見るキャティ。しかし、
「……姉さまがそう仰るなら……」
意外や、あっさりと引き下がった。尤も胸中の程は如何ばかりか計り知れないが、どうやら彼女はシーナに絶対的に陪従している様子。
「じゃ、私はこれで失礼するわ。コウちゃんも、お仕事頑張ってね?」
「あ、はい。シーナ姉さんも」
「うん。あ、そうそう。私は今、ドミノさんとこの『アーニマー』って名前のお店に籍を置いてるわ。機会が有ったら覗いて頂戴ね?」
「は、はい! その節はどうかよろしく!」
お誘いを受けて、思わず頭に浮かんだ言葉を並べる光一。だが、それを嘲笑するように、
「無理ね」
キャティさん、一言で否定するの図。
「あんたの話も少しは聞いてるわ。でもね、ギルド所属にもなれない下請けの冒険者くずれ風情が姉さまのお座敷に上がろうなんて、半年分の稼ぎ注ぎ込んでも全然足りないから」
――ぐぬぬ……




