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見参! アーリウム探偵団 4

 トマーゾも、あの小娘の素性はある程度は聞かされている。

 もしも奴らのバックがキュウビィなら? まして万が一、王室が控えていたら? もう相手が良いの悪いの以前の問題だ。大した動きは無かったが、小僧に絡んでいたキュウビィ将校が本丸だって可能性も極めて高い。しかもどの派閥かも不明。

 連中にとってメンツ・矜持は何より大事だが、それに拘ってこの場の者が全滅してしまえば本末転倒だ。トマーゾの独断を許すほど、この現状は見た目よりも簡単では無く、複雑極まりない。

 自分たちで制圧できる程度の相手なら、ここに()()()()()()にするのも可能だが、彼我兵力差が不明すぎる。

 ――どだい、無茶振りなんだよ。お家騒動に外様が付け込もうなんてよぉ……

 トマーゾは歯軋りするしか無かった。


 廓の門までは40mほどだった。

 光一たちはトマーゾの包囲を抜けて門に向かった。

 トマーゾの部下たちも追いかけるように付いて来る。

 包囲を抜けた後は良介が殿(しんがり)に回り、レッドホークの銃口を以って威嚇した。

「なめやがって……」

 門番の一人が抑えきれずに前へ出ようとするも、


バシッ!

バシッ!


その足元付近を由美が狙撃し、動きを止めた。

「く!」

 門番はその弾着痕を見て背筋が凍った。

 腕っぷしだけでイキるしかない連中だが、地面を抉ったその攻撃がもしも自分に命中したら? 直径数cm程度の小穴ではあるが、それは固い石畳を一瞬のうちに抉って作られた穴である。これが自分の脚や腹、いわんや頭にそんな穴が突然空いたらどうなるか? それくらいの想像が出来るくらいのオツムは持っていた。

 周囲を見渡して目を凝らすが、敵の影も形も視認できなかった。

 当然であろう。そろそろ日付も変わろうかと言うこんな真夜中で200m以上先から狙われているなど、この世界の連中が想像もできないのは止むを得ないところである。そこに光一らの僅かなアドバンテージがあるのだ。

 その光一らはやがて廓を抜けて、城下町に出た。

 歯軋りの大合唱でも起こしそうなザーラの組員の動きが止まったままなのを確認すると、平蔵の「走って」の号令と共に全員が駆け出した。



 その後、由美たちと合流した光一たちは、ルカの用意した荷馬車に乗り込んだ。

「よし、この場から離脱しよう。由美くん、距離が取れたら連中の動向を確かめて!」

「了解!」

 由美は平蔵に指示され、M4を抱えて馬車の後部に陣取った。

「行きます!」

 ビシ! ルカが馬に鞭を入れ馬車は走り出した。

「エミリーさま、ご無事で何よりです!」

「ありがとう、ジュドさん」

 馬車には既にジュドが乗っていた。

 ファーラから脱出した光一たちが騒いだおかげで店は手薄になり、ジュドはコボルト族の敏捷性・運動能力を以って窓から各階のベランダを伝って降下・脱出し、当初のエミリー救出地点である北西部でルカと合流、離脱ルートを確保してこちらで待機していたようだ。

「とりあえず成功っすね」

 良介が大きく息をついて安堵した。

「まあ、後始末が引き摺りそうだけどねぇ。とにかくエミリーちゃんは救出できたからね。依頼は達成できたって事で。コウくん、ご苦労さんだったね」

「お疲れ……さま……」

 平蔵と真鈴に労われ、光一はニンマリとほほ笑んだ。ミッションをクリアした達成感がふつふつと湧き上がって来ていた。

 それはとても心地よい充実感だった。何より……

「みんなが全員無事。これが無ければ依頼が達成できても大失敗だからね。その意味で今回は最高の結果だったと言って良いかもね。みんな、ホントにご苦労だった」

 平蔵の言葉に光一が、由美が、良介が、真鈴が微笑んだ。光一の湧き上がる達成感もそれに起因するものだ。誰かが負傷、最悪命を落としていたら……

 考えたくもない可能性だが、今回の件にしてもそんな結果になっていても全く不思議では無かった。ズブの素人だった自分たちが反社組織相手に大立ち回りをやってのけ、双方に一人の死傷者も出さずに決着したのだから。

 もっともそれが甘さとなって後々尾を引くことも考慮に入れなければならないが、光一たちは平和だった日本人の気質と言うのがまだまだ抜け切れてはいない。

 いずれこの世界の世情に合わせて自分を変えなくてはいけないだろうが……

 ――今はこの結果……喜びたいな……

 ジュドやルカと笑顔で話し合っているエミリーを見て心の底からそう思う光一だった。


         ♦


「そいつはまた……ザーラも下手打ったもんだね?」

 西地区の外れ、最南西にある倉庫街。その一角にアジトを抱える闇ギルド、アローザ。

 そのギルマスであるマスター・リリィは、あまり豪華とは言えない事務所兼サロンでロゼとマイロの報告を受けていた。

「三大ファミリーの中じゃザーラの勢力はどん尻だけど、花街の評判はあそこが一番だったのにね。そこでこんなトラブル……しかもやられっぱなしで終わるとか。ちょいと格が落っこちちゃうかな?」

「ほうふぁふぉふぇ。ほふほいふぁいふぁっふぁひ!」

「マイロ! 食べ物口にしたまま喋らないの!」

 夜食に出されたマフィンを口いっぱいに頬張ってロゼにお小言を喰らうマイロくん。

「ごっくん。だってさ~、こういう時の夜食ってパンの残りかせいぜい茹でたジャガイモじゃん? まさかマフィン貰えるなんてさ~」

「マスター・リリィの前なのよ。少しは遠慮しなさい! ああ、もう! 口の周りベタベタじゃない!」

 説教しながらマイロの口周りを拭きとるロゼ。

 それを見ながらクスッと微笑むと、マスター・リリィはパイプに煙草葉を詰め始めた。

「で、連中の拠点(ヤサ)は突き止めたのかい?」

「うん、北地区の3番街だったよ」

「3番街か……警衛隊のお膝元ド真ん中だね」

 リリィは指先に念を込めた。爪の先端から小さい炎がポッと現れる。パイプに詰めた葉の表面を炙り、着火する。

「ザーラに報告するの? マスター?」

「ん? なんでよ?」

 ロゼの問いにリリィは、膨らんだ煙草葉をダンパーで押えて形を整えながら答えた。

「奴らのヤサ探しは、情報が金になるならと思っただけだよ? ザーラから依頼を受けたわけじゃないからね」

 ぽわっと煙をふかすリリィ。綺麗な煙の輪を作る。

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