見参! アーリウム探偵団 3
続いて、
バシッ! バシッバシッ!
瓜の破片の他、通りの石畳が何か破裂したように次々抉られて火花と石片を撒き散らす。破片のいくらかは組員たちにも届き、実際のダメージ以上に連中の気を削いでしまう。
「ちゃんと後方に備えってもんを展開させてんですよ」
平蔵に言われ、トマーゾらは周りをキョロキョロと見回した。しかし当然の事ながら敵の姿は見えなかった。
「まあね、双方全く禍根無しってのは虫のいい話だとは思うんですけどねぇ。しかしながら……」
連中に話しながら平蔵は、飛び散ったスイカ片の一つを拾い上げた。
「皆さんもその子の素性分かってて手を出してんでしょうから、ある程度の覚悟は……」
ゴクリ……生唾を飲むトマーゾたち。
「出来てたんでしょ?」
平蔵はニヤリと不敵な笑みを浮かべたまま、スイカを一口齧った。
「全弾、目標範囲内に命中。由美さん……お見事……」
「連中、大人しくなったかな?」
「動き……止まってる……」
「間に合ったね~」
由美は構えていた口径5.56mmの自動小銃、M4カービンの照門から眼を離した。
「良介さんの言ってた通り、M4て口径小さい割に結構、反動強いよね~。まあ軽いからね~」
良介はレッドホークと同じく、M4カービンの再現にも成功していた。
初射撃の時、5.56mm弾は反動が少なく撃ちやすい、と言われていたので良介は気軽に引き金を引いたのだが思いのほか反動が鋭く、驚いた経験があった。そのインパクトを持って再現を可能にしたらしいとの事。おまけにサプレッサ付き。迅速に購入許可が下りた事を自慢げに話す店長が試させてくれたモノだ。
亜音速弾では無いので減音効果は低いが、銃口の消炎効果も相まって連中からは由美たちの所在が分かりにくくなる結果を生んでいる。
「連中、どう?」
「身動き出来ない……って感じ? やたらと……キョロキョロ……してるヤツ……いる」
真鈴が微光暗視眼鏡を覗きながら答えた。これが再現できたのは、趣味仲間が持っていた同型の物を覗かせて貰った時の経験が元だ。
覗いた時、昼間のように明るいと言うのは想像の範囲内であったが驚いたのは夜空を見た時だ。
――星の数って、こんなに多かったのか!
良介はそちらの方に驚いたのだ。船が七部に海が三部、では無いが増幅も相まって肉眼では見えていなかった星たちの数・明るい部分がやたら多くてそちらのインパクトが強かったのだそうな。
「制約は有るっても、大した能力よね~。おかげで、この世界で身を護る自信も出て来るわ」
「由美さんもすごい……あそこまで……250mくらいある……」
彼女たちが展開していた場所は、200m以上離れた廓の外、その建物の屋上にある共同物干場――洗濯ものを乾かす物干し場であった。
由美と真鈴は廓から500m離れたところで待機。光一とエミリーの動向を由美が千里眼で追っていた。
ルカとの合流が失敗に終わり、光一らが現在の場所で追い詰められたことを確認した直後、彼女らも行動を開始した。
廓内の酒場で待機していた平蔵は能力聴能力でルカからの報告をキャッチ。良介と共に現場へ急行し、由美と真鈴はあらかじめ候補に挙げていた狙撃ポイントからこの場所を選んで陣取ったのだ。
由美の千里眼は近距離では発動できない。それを無理矢理発動させると視野は極端に狭くなり、この距離で平蔵を見ようとすると頭の先から精々、腰辺りまでしか視認できない。周りの状況が全く見えない状態になる。近距離に合わせようとすると視野は更に狭くなってしまう上に焦点も合い辛くなる。それを無理に合わせると可視化範囲は更に狭まる。
だが狙撃においてはこれは幸いと言えた。高倍率の照準眼鏡を使わずとも、照星・照門だけで肉眼による遠距離精密照準が可能になったのだ。
M4のような照準器は目の焦点を照星に合わせ、照門や標的は軽くぼやけた状態で狙うのだが、彼女の能力であれば照準眼鏡を使わずとも、標的と照星の焦点を合わせての精密射撃が可能なのだ。そして標的の状況がほぼ分からなくなる近距離はスキルは使わず、お得意の肉眼照準のみで対応すればいい。
――ハズレスキルも使いようね~
と、しみじみ思う由美であった。
「あ……所長……スイカ……齧った……」
「合図ね? けど、デモンストレーション込みとは言ってもさ~、わざわざスイカ担いでいくかしらね~」
「でも……効果は抜群だ……すごい……飛び散り方……ヤクザ……みんなビビった……」
「アズマたちは~?」
「リョウさんが……呼び込んだ……今、合流……」
「オッケー、撤収開始ね!」
「所長たちが……廓から離れたら……」
「そしたらあたしたちも合流地点に行きましょ。おっと、追って来るかな~?」
由美は再度、M4を構えた。スキルを発動して、現場の状況を見てみる。
アップになったファミリーの構成員たちの表情からは、得体のしれない攻撃や初めて見る未知の得物に手を拱いている・混乱している様子がうかがえる。身動きが取れない、追いかけたいのに動き様が無い、そんな顔が並んでいた。
翻って平蔵と良介の顔。
二人の顔はこの世界には無い圧倒的武力を得て、自信満々の笑顔を浮かべていた。
何せ組員が一歩踏み出そうとしても、平蔵が懐に手を突っ込んで得物を握ったフリして睨んだだけで、相手は脚を竦ませて冷汗を流し始めるのだから。
「悪い顔、してるわねぇ~」
とニヤ付く由美の顔もまた、品行方正な笑顔とは程遠い実に黒い笑顔だった。
「君たち、こっちおいで」
平蔵が光一らを手招きした。光一とエミリーは指示に従い平蔵らの元へ。
「おつかれさんっす」
二人は軽く労う良介の陰に隠れた。
「んじゃ、今日の所はこれで」
そう言いながら平蔵はアイコンタクトで良介に指示。良介は頷くと二人を平蔵に預けてレッドホークを構えて前衛に立った。銃口を右に左に揺らしてヤクザ共を牽制しながらゆっくり前進。
「アニキ! このまま行かせちまっていいんですかい!?」
「敵の勢力がまるで分らん。さっきみたいな得物を持った連中が周りに大勢潜んでいるなら分が悪すぎる」
「でも、ファミリーのメンツ丸潰れだぜ!」
「言うな! うちはドミノやイルハに比べて劣勢なんだ。相手が何者か分からんのに食って掛かって兵隊ゴッソリ減っちまっちゃメンツどころの騒ぎじゃねェ!」




