見参! アーリウム探偵団 2
チンピラ(大)はムカついた。彼は自分の体格には自信があった。組員たちの中でも文字通り頭一つ抜けるくらい背が高く、重量級の得物を軽々扱うガチムチの筋肉はそれだけで相手への威嚇にもなった。今までは。
だがこいつは微動だにしない。
例えこっちが無防備で、ヤツが全力で殴ったところで大したダメージは無さそうな、ちんまい棍棒しか持って無いクセに!
「ザコが! 背丈半分にしたるわ!」
チンピラ(大)は振りかぶった。が、
ドオォン!
「ひ!」
「ふぇ!」
鼓膜がブチ破れるかと思うほどの大音響。一瞬で視界を奪うかのごとき爆炎がチンピラどもを襲った。
「な、なんだぁ!?」
トマーゾの口から素っ頓狂な声が漏れ出た。
身の程を知らない三下がチンピラ(大)に〆られる状況しか予想していなかったトマーゾは、いきなりの大音響に思わず両手で顔を庇った。
バシャーーン!
大音響とほぼ同時、後方でけたたましい破壊音。
振り返ると建屋の扉、窓ガラス部分が桟ごと木っ端微塵に吹っ飛んでいた。
「な、なに!? え!? あれか? アレがやったのか!?」
――初めて実物見たけど……思ってた以上だな
トマーゾほどでは無いが光一もまた驚いていた。
「す、すごい! あれ! な、何なんですか、お義兄さま!」
当然、エミリーもびっくり。
「拳銃さ」
「ケン……ジュウ?」
良介が再現に成功した得物、それは拳銃であった。
魂に刻まれた強いインパクト。そしてそれを具現化できるイメージと魔法力の融合によって過去に触れた物を再現できる良介のスキル。
光一はじめ、探偵団のスキルは防御や索敵、支援等には良いが攻撃には全く向いていないモノばかり。
身を護るため、更にはこういった荒事に巻き込まれた場合の敵対勢力との力の差を埋めるため、良介はその能力の鍛錬・目標を武器製造に割り振っていた。
「はい、ごめんなさいよぉ」
平蔵が一歩前へ出た。
「て、てめ、何勝手……ひ!」
平蔵を阻もうとしたチンピラに良介が銃口を向けた。
――か、火球!? いや、爆裂魔法!?
チンピラは先ほどの銃声と爆炎が脳裏を過り、声を詰まらせた。自分たちに馴染みのある攻撃魔法に準えようとするが未知の部分が多く、どうしても腰が引けてしまう。
そんな三下を尻目に平蔵は、背中に抱えていた人の頭より一回りは大きな瓜? 西瓜? らしきものを連中との中間あたりに転がした。
「すいませんねぇ皆さん。新参の僕たちが、身の程弁えずに横着してるって思われるかもしれませんが、こちらも事情がございまして。でもまあ、流血沙汰は避けたい、これも本心なんですわ。過去の依頼人に迷惑が掛からないかぎり、あなた方とも、よろしくお付き合いさせて頂きたいってのも正直なところでしてね」
そう言うと平蔵は、顎をしゃくって良介に合図した。
ドオォン!
転がした瓜に向けて、良介の拳銃が再び火を噴く。
ズバシャッ!
同時に瓜は、果汁や果肉を撒き散らしながら跡形もなく飛散した。原形を留めていないという言葉は、正にこういう時に使うのだろう。
「げぇ!」
中身はスイカのように紅い果肉だった。それが吹っ飛ぶ様は頭部を攻撃されて舞い散る血飛沫を連想させ、細かく飛び散った果汁は雨のようにチンピラどもに降り注ぎ、連中を尻込みさせた。
瓜を跡形も無く砕く破壊力、それ自体は戦斧やチンピラ(大)のモーニングスターでも、可能ではあろう。しかし距離のあった窓枠を吹っ飛ばした事も考えれば、こ奴の得物は自分らの持つ武器とは比較にならないほどの間合いを持つことは火を見るより明らかだ。彼奴は一歩も動く事無く、自分たち全てを射程内に収めており、いつでも屠る事が可能なのだ。
良介が再現した拳銃、それはスターム・ルガー社製レッドホークと言う44マグナム弾が使用できるリボルバー拳銃であった。
模型マニアであり、ガンマニアであった良介は観光でグァム島を訪れた時に、念願の実弾射撃を経験していた。
初めての実銃に心躍らせた良介であったが、その旅行客向けの射撃場で撃ったSWのM29やタウロスM44等には不満があった。銃本体では無く、弾薬にだ。
観光客相手の射撃場では、コスト面や初心者にいきなり強力なマグナム弾は危険、と言う見解で減装弾を使うことが多い。
諦め切れない良介は時を改めて、仕事で渡米した高校時代の友人の伝手で現地人用の射撃場に赴き、正規品のマグナム弾を体験した。
その、減装弾とは全く違う、良介がどれだけ強く握っても腕が跳ね上がるより先に、渥把が手の中でズルっと滑ってしまうほど鋭く強烈な反動は良介の脳に「これ程とは!」と思いっきり衝撃を与えてくれた。弾倉内の6発を撃ち終えた程度でも手首は結構なダメージを受けており、購入した弾薬、50発入りでは無く20発入りにしておけばよかったと後悔したくらいであった。
その店は、弾薬を買えば銃は無料、若しくは格安でレンタルさせてくれるシステムだった。試し撃ち用と言った方が良いかも、だ。
その所為か人気の高いSWのM29系などは置かれておらず、タフで単価の低いブラックホークシリーズやレッドホークしか無かったのだ。
おまけに銃の手入れはあまり行き届いているとは言えず、錆防止にはガンブルーで染めるのではなく、ペイント処理で済ませたお粗末なもので、再現した銃も全く同じくそのまんまで現れてきた。時間が出来たらキレイに、ピッカピカに磨き直してやるぞ! と思う良介くんであった。
「クソ! 野郎ども、得物はひとつだ! 一斉に掛かれ!」
確かに銃を持っているのは良介一人。ならば10人掛かりで押さえ込めばイケるとトマーゾは踏んだようだ。
しかし、だれか数人は人柱になってしまうワケで。根性見せるのは正に今、ではあるのだが、この正体不明の得物を前に組員たちは腰が引けていた。
「はいはい、スト~ップ!」
そこに水を差す平蔵。相変わらず気の抜けた喋り方でトマーゾたちを制しながら、右手人差し指を高く上げた。
「まあ、落ち着きなさいって。僕たちだってね、この得物一丁であんた方、十数人を相手に出来ると思うほど己惚れちゃいませんよ? だから……」
平蔵は腕を真横に振り降ろした。
バシッ!
「な!」
平蔵はさっきの瓜の残骸を指差していた。同時に残っていた破片の一つが更に吹っ飛んだのだ。




