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見参! アーリウム探偵団 1

 広めの表通りではあるが、10数人の組員に挟み撃ちにあった光一は背中を店舗の壁に預けてエミリーに小刀を突き付け、膠着状態を作り出すのが精いっぱいであった。

「ハッタリはよせ。その娘が持ってる情報が肝ってんならともかく、肝心なのは身柄そのものなんだからな。殺してしまったら、それこそ元も子も無いだろうが。諦めて降参せい!」

 現場をまとめている幹部らしい男が光一を説得――と言うか通告してくる。そしてエミリーも。

「お義兄さま」

 ――いや、すっかりお義兄さま設定信じられてる……

「ここまでです、あたしを彼らに引き渡してください。あたしを手放して隙を見てあの能力を発動させれば、お義兄さまだけでも逃げ(おお)せる事が!」

 ――健気やぁ~

 この期に及んでも我が身より自分を気遣ってくれる心根。さすが王族の血を引く気高さのなせる業か!? 

 と言われても光一は、当然のことながら、そんな案は飲めない。

 こんな修羅場、自分一人で乗り越えられるほど、自分の経験は多くも深くもない。多少の聞き込みと、アローザの二人組から逃れられた程度ではある。

 エミリーの案では無いが、全てを投げ出して自分だけ逃亡するなら成功率はそれなりに期待できる高さにはなる。

 だが今はそれを選ぶ事は無い。今回は、

 ――おれは一人じゃない。

そう、これは初の探偵団全員総出の作戦なのだ。

 今の光一の最適解、それは時間を稼ぐことだ。

「若造。その娘の言う通りや。わしらはその子がいてくれりゃええんじゃ。その娘っ子を無事返してくれりゃ今までの事は酒席の横着って事で目ェ瞑ったるさけぇ、大人しせぇや」

 幹部は懐柔策をチラつかせ始めた。

 しかし、所詮は反社の言う事である。言われた通りの若造である光一ですら、ハイそうですかと鵜呑みにするほどアホではない。これだけの人数を騒がせておいて、何のケジメも無しで無罪放免は有り得ない。


「トマーゾ兄ぃ。一斉に掛かりゃ一発ですぜ?」

 古参であろうか? トマーゾと呼ばれた現場の指揮者らしき小太り男に下っ端が上申。

「あの小娘にはキズ一つ付けるなと、ドンの厳命でな」

「ですけど、このまま放っておくわけにも……」

「それでええやろ?」

「へ?」

「こっちは替えの兵隊はいくらでもおる。我慢比べなら結果は見えちょる」

「なるほど~」

「そうは言っても明日には若頭がドレンさんち行くから限度は有るがな。ま、さすがに朝までは持たんやろ」


 連中の声は小さかった。光一の耳には断片的に入って来ただけであったが概要は分かった。

 奴らの言う事は正論であった。が、今回に限っては好都合。

 ――ヘイさん。ガッカリさせんなよ……?

 騒ぎ出した廓町内。にも拘らず光一とエミリーが到着しない現状を、ルカは他の探偵団に伝えたハズである。

 皆は現在、この状況に対応できる布陣を取っているだろう。それが完了するまでの時間が稼げればいい光一にとって、持久戦を仕掛けられているのは渡りに船。

 そこへ、

「はい、すいませんねぇ~」

聞き慣れた中年男の声。

「あ、なんだおめぇ?」

「ちょいと通していただきたいんですが~?」

「は、見てわかんねえのか? 今は取り込み中だ、カタギさんは帰るか店ン中に引っ込んでてもらおうか!」

 ――間に合った!

「ええ。まあ、僕らも自身はカタギだと自負してはいますがねぇ。しかしながら……そこの子たちはウチの関係者でしてねぇ」

「なんだと! てめぇら、この小僧の仲間か!?」

「はいはい」

「何もんだ!?」

「私立探偵……」

「あ? タン、テイ?」

「アーリウム探偵事務所、と名乗らせてもらってますよ」

「あーりう? 聞いた事……ん?」

 眉間にしわを寄せたトマーゾは、次に口元も歪ませた。

「おめぇらか。最近ウチのシマ、嗅ぎ回ってたって新顔は?」

「すんませんねぇ、お宅の親分さんへの挨拶が遅れてまして。でもまあ、後回しにしなくちゃならない依頼でしたもんでねぇ」

「依頼?」

「はい、そこの女の子、その子を捜して身柄を保護してほしいって、そんな依頼でしてね」

「てぇコトは……キュウビィからの依頼か?」

「申し訳ありませんが、その辺は話せません。探偵は、依頼人に対しては守秘義務ってもんがありますんで」

「何ナメたコトぬかしてやがんだ、このオヤジ? 俺たちを誰だと思ってやがんでぇ!」

「まあ、図らずも仁義外れた事に及んだのはお詫びしたいところなんですがねぇ。こちらとしても依頼主の義理はそれ以上の重みが有りまして。じゃ、ちょっと失礼」

 と棒読み的断りを入れて手刀を切りながら「ごめんなさい、ハイごめんなさい?」てな感じでファミリーの包囲に割り込んで来る平蔵と良介。

 だが当然、組員がすんなり通すワケも無い。

「通すと思っとんのかボケェ!」

「〆るぞコラァ!」

 反社のチンピラによる絵に描いたような恫喝。洋の東西を問わぬどころか、世界間までも問わない変わらなさに、追い詰められていたにも拘らず光一は、すっげー醒める思いであった。

 それほど気を楽にできる理由はもちろん他にもある。

 平蔵はともかく、良介が一緒に来ていることが「間に合った」ことの証明なのだ。そうでなければ平蔵にしろ良介にしろ、多少年齢が嵩んでいる程度で十人を超える反社チンピラどもと平然と渡り合えるものでは無い。

「あ? なんだそりゃ?」

 良介が腰に差してあった得物を取り出した。見たところ30cm程度の細い棍棒。チンピラの目には、そんな鈍器程度のモノに見えた。

「ああ? そんなんでおれたち相手にしようってか?」

 ここに集まったチンピラたちは非常呼集を掛けられて出張ってきた地回りだ。当然手ぶらで来る訳も無く、それなりに武装している。槍や剣の他、戦斧(ハルバード)のような重武器を持っている者もちらほら。

「よぉ~し、俺が相手してやんよ」

 チンピラ群から出てきた一人が、良介の前に立ち塞がった。雲を突く、と言うほどでは無いが身長174cmの良介よりは断然上。2mは超えていよう。

 武器はモーニングスター。先端の鉄球の直径は10cmそこそこだが鋭いスパイクがいくつも生えており、男の体躯も相まってまともに当たれば一撃必殺であろう。

「ヘイさん?」

「はい、どうぞ」

 了承を得て、良介は持っていた得物の先端を静かにチンピラたちに向けた。

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