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潜入・花街のねーちゃん 1

「そういう事。じゃあ、明日は朝からその段取りと必要な座学・訓練を行うとしようか。そして明日の晩に決行ってことで」

「あ、明日ぁ!?」

「さっきも言ったでしょぉ? エミリーちゃんが移送されたら一からやり直しだから、極力早い方が良いわけでさ。リョウくんにも無理を言うけど例の()()、何とか間に合わせてほしいんだ」

「わかったっす。今晩徹夜してでもがんばるっす!」

「頼むね。じゃあ、これから最終的な計画の立案に入ろう。ヘレナさん以外は全員総出になるだろうけど、ジュドさんとコウくんは直接の実行部隊として腹を括ってもらいたいな」

「ええええ!」

「ジュドさん……溺れなくても……コウさんは……あ や し い……」

「童貞野郎にはハードル高すぎなぁい~?」

「ぐぬぬ……」

 光一くん、由美・真鈴に何か反論したいところではあるが、返す言葉が無かったり()

「まあ、とにかくさ、店の前までは僕も付いて行くから。ジュドさんには一癖ある初心者として目を引いてもらって、コウくんはその間に目標の不可視エリアの調査って流れで計画してみようよ」


         ♦


 ドミノやイルハが仕切る歓楽街がそうであるように、ザーラが仕切るこの廓にも門が設けられており、ファミリーの手の者が未成年者はもちろん、お尋ね者やトラブルを起こしかねない愚連隊の如き連中の出入りにチェックを行っていた。

 そこをパスして一歩中へ入るともう、

「はーい、そこの御三方。ご案内しましょうか!?」

「どうぞどうぞ、こちらへ! 若い子から手練れまで、ウチの店はどんなお好みにも対応させていただきまっせ!?」

「後悔はさせません! 追加料金なしの明朗会計! どうぞ、ご安心してお入りくださいませー!」

斯くの如き熱烈歓迎・ご案内の嵐である。シャバの繁華街とは全く違った空気を纏うここの雰囲気に圧倒されてキョロキョロと目線が落ち着かない光一やジュドの懐を狙って、客引き・ポン引きどもがワラワラと擦り寄って来よる。

 連中は目ざとい。彼らの目には風俗デビュー丸出しの光一・ジュドなぞ正にカモネギ。次から次へと揉み手しながら(たか)って来るポン引きたちに更にキョドってしまう二人であった。

 中にはサンプルよろしく器量よしの娼妓も一緒に袖を引っ張りに来たりもする。

 当然、彼女らも積極的に「あら~、ステキなお兄さん~」とかセオリー通りな世辞とともに腕を絡ませてきて、甘い吐息と共にお誘いしてくる。

 加えて絡ませるのは腕だけでは無い。

 ――う! あ、当たっている!

 嬢は二の腕にその豊満なお胸を押し付けて光一の性欲を掻き立てるが、彼女にすれば当然これは「当ててんのよ」の一環である。

 とは言え、ほぼほぼ経験皆無な光一にはこの刺激はすこぶる激しく、己が股間センサーが暴発する可能性も否定できない状態。

 だが、今日はあくまで仕事である。

 それに、ラッキースケベではあったが光一も一応はヘレナ相手におっぱいデビューだけは済ませていたので何とか踏ん張る。あの高貴なるたわわと、平民風情では絶対拝む事は有り得ない位置の黒い二連星(二つホクロ)は未だ記憶に新しく艶めかしい。

「あ、いや! お、おれは! その!」

 とは言えそこは光一くんもまだまだ未熟な健康男子。ヘレナのような隠そうとしているんだけど見えちゃった的な、お(しと)やかな谷間と違って、男の視線に挑戦するが如くモリっと盛上げられた上に、上着があとちょっと(はだ)ければ()()が見えるかも? と言った挑発的チラリズムどストライクで迫られてはタジタジするしかない。

「ごめんね、ねえさん。今夜は僕たち、取引先と待ち合わせでねぇ」

 と言うワケで平蔵が助け舟。

「あらぁ? じゃあ先方さんも、ご一緒にど~おぅ?」

「それも手だけどね~、先方の指名付きでさ。『ファーラ』に行きたいってねぇ~」

「あら、まあ」

 平蔵の口から出た店名に、嬢は目を見開いた。そのあと今度は目尻を下げて、

「ん~、じゃあこの次はぜひ、寄ってね~。お仕事、抜きの時に~」

と、あっさりと引き下がった。出された店の名が、この街を仕切るザーラファミリー直営では、さすがに相手が悪いと見たのだろう。しかし、

「楽しみに待ってるからね~。ステキなおじさまのお顔、覚えちゃったからね~」

などと良くも悪くも印象付けるのも忘れない。

「いきなり熱烈だなぁ。こんなに積極的に迫って来るなんて……」

「ぶ、部下たちの話で聞いた事は有るんだが……この客引きの激しさは……」

 光一もジュドも初めて受ける歓楽街の猛烈な客引きに、結構なショックを受ける事となった。

前の世界(にほん)じゃ法令とかでこういう営業行為は、ほぼほぼ制限されてたからねぇ。でも外国の歓楽街だとやっぱこんな感じのとこもあったなぁ」

「そりゃヘイさんは社会人歴、それなりに有るし。こういうのも経験済みかもしれないけどさぁ……」

「まあ、お互いにこれからは色んなところに首突っ込まにゃならなくなるだろうし、どんなことでも経験値にしなくちゃ、ね?」

「し、しかし自分としてはホント、御免被りたい雰囲気ですよぉ!」

「すまないね。これから行くザーラの直営は、ああいう積極的な客引きで引っ張るのとは客層が違うもんでね。あんたの高貴な立ち位置が有効なんだわ」

「それは夕べから何度も聞きましたが……」

 話には聞いていても、花街に疎い二人には不安ばかりが募った。


          ♦


 初めて踏み入れた遊郭の空気に当てられながら、これまた初めての潜入調査を目前とした不安と、残念ながらどうしても払拭できない下半身から湧き出る期待感が異様な絡み方で光一の脳内を襲っているのと同じ頃。

「フム……」

 遊郭から徒歩で十数分ほど離れた、各地方領主の王都屋敷が集まるいわゆる高級住宅街の一角。そこに居を構えるザーラファミリーの頭目、テッシィ・ザーラの元に遊郭からの早馬による伝令が駆け込んできた。

 ファミリーの若頭クレンツ・コルッチェはその伝令から聞いた内容が、ある意味デリケートであったために伝令と共にドン・ザーラに注進に来ていたのだ。

「ここのところ界隈を嗅ぎ回っていた奴らですし、一応ドンのお耳にも、と」

「で、新顔が付いて来てるってか」

「ええ。狼系の獣人ですが、立ち居振る舞いからして庶民では無さそうなんで。多分ですが、キュウビィの者かと」

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