真夜中の訪問者 3
「例え外国の方とは言えど、恐れ多くもキュウビィ王国王位継承権八位にあらせられる王女殿下に対する言動としては些か礼を逸するものではございませぬか!? 殿下の素性を存じ上げぬところであれば多少の黙認もやぶさかではありませんが、しかるに皆さま方はある程度は既知の……!」
どうやら自分らが仕え、敬愛する王室の一角たるヘレナに、ほぼほぼタメ口を聞く光一らの態度におかんむりの様。まあ、身なりも話し方も出来得る限り高く見積もっても平民の範疇を越えまい二人の礼儀の無さには面白くは無いだろう。
だが、
「静まりなさい、ルカ!」
段々テンションが上がってきた女性――ルカはヘレナに一喝された。だが彼女は、
「は! いや、しかし!」
鉾は収めるものの得心は行かず、な雰囲気だ。恨めしそうな眼つきで光一と由美を交互に睨んでいる。
「こちらの方はトリアーノ王室にも王国認定冒険者ギルドにも受けて頂けなかったエミリーの捜索を承諾して頂いた、いわば恩人です。加えて彼らは、あなた方が想像する遥か上の特殊な事情を抱えておいでです。こちらの常識は当て嵌まらないものと考えなさい」
「そ、そんな!」
「事情、でございますか?」
「あ……」
まだ食い下がりたいルカを押さえ、ジュドが割って入った。
「はい。それは同盟国とは言え、不用意に踏み込んではならない程の事情です。或いは我が国にも内々に連絡が届いている可能性も高いのですが、我らに通知がない以上はそれを知る事となっても口外する訳には参りません。それほどの事情、です」
「分かりました。それが殿下の御意でありますれば」
「ジュドさん、ルカさん……でしたね? いや、申し訳ありませんね。貴方の仰る通り礼節は重んじるべき、と私も同意いたしますが……殿下にも御説明頂きましたがまあ、彼らにも思うところが有りましてねぇ。とりあえず彼らに対する責任は所長の僕――私にありますので……こんな頭一つで申し訳ありませんが、ここはひとつ」
膝に手を付き、深く低頭する平蔵。
若い者たちとは違い、自分らの心情を慮っての平蔵の陳謝にジュドは、
「頭をお上げください、こちらも常識から外れた行いをした身ですし。それより話を進めましょう。ルカ、良いね?」
と、ルカを諫める側に回った。ヘレナの御意に加えて、それでも尚、こちらに礼を尽くそうとする平蔵に、ジュドは一歩引くしかなかった。
「あ……は、はい。全ては殿下の御心のままに」
眉間のしわで、残る不満を表しながらもルカも引いた。
「で、こちらの方々はヘレナさんの手の者……と言うかお身近、側近の方々と考えて宜しいのですかね?」
「はい、改めまして自分の名と身分を。キュウビィ王国近衛隊王后陛下付き武官ジュド・アッジーと申します」
「同じく、ルカ・モードリー武官です。任務は王后陛下ご身辺の警護・警戒。王宮との伝達・連絡。その他、陛下が必要とされる事項の遂行にあります」
「先ほども仰られておられましたが、お二方は王国――と言うよりは王后陛下個人の御意向で以ってこちらに出向かれた、そう捉えさせて頂いても?」
「概ねの所はそれで結構です」
「その、陛下の御心は?」
「それは……」
平蔵に聞かれ、ジュドとルカは即座にヘレナの顔を窺った。
「私も伺いたいです。私は侍女に言伝だけを残して勝手な振る舞いをしてしまった身ですし、陛下に余計なご負担をお掛けしたであろう事は申し訳なく思っております」
ヘレナの返答に「はっ」と頷くとジュドは語り始めた。
「まず第一。王女殿下の身辺に赴き、殿下の御身の安全を確保する事」
「それと?」
「第二。殿下帰国の妨げになる、あらゆる事象に対処せよ……でございます」
「……それだけですか?」
「はい……」
「承知致しました。ヘイゾウさま?」
「はい?」
「こちらの手の者がいきなり押しかけて参りまして申し訳ありませんでした。些か勝手ではございますがこのまま評定を続けましょう」
「あ、は、はい。え~と、どこまで話してたっけかな?」
「いきなりのイケメン将校登場でコウさんが頬を赤らめてはにかむところから」
「「は?」」
動きが止まるジュドとルカ。
「タチの悪ぃボケかますなよ真鈴! どうしても男同士で絡ませたいんかい! てか何でそう言うの話す時は活舌良くなるんだっての!?」
真鈴は横を向いた。口元に白い歯が光っていた様に見えたのは気のせいだろうか?
「まあ、真鈴ちゃん、コウくん。お客様も増えたし脱線はボチボチにしとこうか?」
「真鈴はともかく! おれ、脱線か? 脱線したか?」
「まあまあ。気持ちはわかるっすけど、話進めた方が良いっすよ?」
「偽装魔法が掛けられてそうな三カ所が怪しい、てところよね~」
ここでしばらく、お浚いも兼ねて、真鈴のいきなりのボケで目が点になったジュドとルカにも説明を。
「なるほど。確かにそれは却って不自然である、と言う印象ですね」
概ねの状況を聞いたジュドが頷いた。
「かと言って由美さんほどの能力持ちが王都に居るかは不明っす。第一には、この世界の連中の目から隠せられればヨシってとこっすね」
「ユミさんの能力だからこそ『ボヤけて』見えたのかと。普通の者であれば、全く『見えない』ものと思われます」
「それなら、なんで三カ所も掛けたんだ? 彼女が居るところだけで良いんじゃね?」
「偽装魔法を勘付かれても居場所が即断できないように二カ所をダミーに……とも考えられるな」
「それとも単に密輸品とか申告していない金品が有ったり? 反社なら有りそうっすよ?」
「でも由美ちゃんの透視によるとドミノ、イルハ両ファミリーにはそう言った事が見受けられないんだな~」
「こちらの街は存じませんが、我が国では偽装魔法は国家機密にかかわる部署や軍以外は官民問わず許可制です。リョウスケさんの仰る通り、密輸品や禁制品、脱税の隠蔽が横行しますので」
「詰まる所この三カ所のうち、どれかにエミリーちゃんがいる可能性が高いって考えて良いのかな?」
「その中でも一番有り得そうなのが……」
「店舗、よね」
「それは、何故でございましょう?」
「その店舗ってのがザーラ直営の娼館でしてね。マルタイに必要とされる食料・生活物資の搬入・廃棄物等の搬出が一番バレにくいと思われますんで。何日か張ればそれらの動きで確証も得られるんですがあまり時間は掛けられそうに有りませんもんで。的を絞ってみようかと」
「てぇ事は、最初に娼館を洗うんすか?」




