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真夜中の訪問者 2

 その平蔵はヘレナに目を移した。続いて、

「……声に聞き覚えは?」

と、小声で訊ねる。対してヘレナは、

「……」

それには答えず、フッと目線を逸らした。

 しばらくヘレナを見続ける平蔵。

 だがヘレナは目を合わせず、泳ぐ眼を逸らし続けた。

 その目は肯定も、否定も、拒否もしていない、ただ迷うだけ。つまりヘレナにとってはそういう相手だと言う事だ。

 平蔵は目線を良介に向けると、こっくりと頷いた。

 それを見た良介は、

「今開けます」

と返事をしつつ手を錠前へ。同時に、

「いきなりの乱入は勘弁っすよ? こちらもそれなりに控えてますんで」

などと釘を刺す。

「承った。感謝する」

 扉の外側から返答が来る。声はハッキリとした曇りの無い話し方だ。

「ヘイさん……」

 由美が心細げに、「入れていいの?」と言わんばかりの顔を見せる。

「大丈夫だと思うよ。ファミリーの連中みたいな凄み利かせるような声じゃない。どちらかと言うと礼儀作法に厳しい環境に身を置く手合いの声だね。宮仕えな連中とかさ」

 平蔵の分析に一瞬、逸らし続けていたヘレナの目が平蔵に戻された。

「よしんばファミリーの者だとしても、イキり散らかすチンピラ辺りじゃないのは間違いないんじゃないかな? そんな三下がマネできるような口調じゃないよ。最悪ファミリーだったとしても、対話・取引きの出来るエリート幹部の類だろうね」

 それを聞いて目を丸くする由美。光一や真鈴も同様の反応をしてしまう。

「こ、声だけでそこまで分かるの?」

「外回りのリーマン、舐めちゃいけねぇよ?」

 目は無表情。しかし鼻から下だけはニカ~っと笑う平蔵。

 それにヘレナの反応をプラスすれば、経験不足な光一・由美でも成るほど得心がいった。

「どうぞ……」

 良介が、ゆっくり扉を開く。

 すると背筋をピシッと張りつめ、素性を隠すためか顔をフードで覆った手合いが二人、一礼しながら入室してきた。

 一人は入るなりヘレナを認め、

「姫!」

と顔を隠したままで口走った。

 やはりビンゴ、ヘレナの関係者である。おそらくはキュウビィ宮城の……

「ジュド、ここでは"姫"は止めて下さい」

「そういう訳には……」

 中に進んでヘレナの御前で膝をつき、フードを捲くったジュドは犬の亜人、コボルト系の獣人であった。ピンとそそり立つ見事なケモ耳が目を引くが、目鼻立ちはヘレナ同様、ヒト族の顔と大差はなかった。

「一昨日の追手はあなたたちだったのですね?」

「は? 一昨日? あ、いえ、我らは今日の正午前後にこちらに到着したばかりでして」

「今日? それでここを突き止めたのですか? 一昨夜の者たちにも嗅ぎつけられてはいないのに?」

「到着後、すぐに姫の御在所を探して回っていたのですが、今日の午後になってしばらく、偶然ジュド殿が……ご無礼ながら姫の残り香に気付かれまして」

 声からしてもう一人はやはり女のようだ。ジュドと同様、はっきりした力強い声色だった。

「残り香? 私は昨日からこちらを出ていません。一昨日も臭い消しを撒きながらここまで……」

「あ、残り香と言うより、移り香と言った方がより的確かと」

「ジュド殿によれば、姫の香りを纏った何者かが移動していた、と言う状況が一番当を得ているとの事で。それを特定するのに今まで時間がかかり……」

 それを聞いて探偵団の目が光一に集まった。

「え? おれ? ちょ! なんで、あ……」

 憶えのある事象を思い出す光一。んで真鈴。

「……ロイヤルおっぱい……」

 あの時に移ったヘレナの体臭であろうか?

 なるほど、ジュドに気付かれた時の光一は「透過」発動中であったので別人であるヘレナの臭いだけ気付かれたと?

「しかし私の匂いが移った時からは、かなり時間がたっていたはず……」

「はい。姫様の香りは、感付きはしましたがとても弱かったので魔法で強化して探りました。ただ、強化出来る時間は精々10分程度なので、魔力が回復しては追跡の繰り返しで、今まで時間がかかった次第です」

「父上の命令ですね? 私を連れ戻せと?」 

「いいえ、そうではございませんわ。詳細を申しますと、我らは王妃様より賜わりました命によって動いております。お話の二人は、おそらく近衛隊の幕僚本部の指示ではないかと思われますわ」

「王后陛下が? 父上(国王陛下)が近衛隊に下命しての命令では無いのですか?」

「ご存じの通り、我々の所属は近衛隊ではありますが王妃様の直衛として奥に出向している身。その間は王妃様のご命令が優先されることは、ご承知かと」

「私を連れ戻しに来たのではないと?」

「可能であれば、お戻り頂けるのが最善ではありますが、結果エミリーさまをお見捨てになる事になるのであれば、それには限らない……と、王妃様のお言葉にございますわ」

「……陛下におかれては私の行動を理解して頂いている、そう判断して宜しいのですね?」

「それを口にするは我々の分を越えますので……姫様の御心のままに」

「あの~」

 由美が会話に入って来た。

 ヘレナらが交わしている問答は、おそらくはキュウビィ王国内の複雑な動きに関する事項の確認であろう事は分かるが、それでも由美は、

「あんた方がヘレナさんの関係者ってのは分かるんだけどさぁ~。夜中に事務所内(人んち)に乗り込んで来て? 当のあたしたち放ったらかしで? 説明も無くて? 勝手に盛り上がるのって、それ勘弁してくんない? こっちはさっきからポカーンなんだけどぉ~?」

と、ジト目でボヤキ始めた。

 相変わらずトゲのある言葉使いが得意な由美の言だが、論旨においては光一や平蔵も概ね同意であった。

 と言うか、話がどんどん大事になりつつある現状、異世界(こちら)の人よりスキル等、多少の有利が有るとは言え基本的に素人集団の光一たちには肩に乗っかかる重量が増していくのは鬱ではある。

 さりとて今さら尻尾を巻くワケにも行かない。光一も足し無い頭を絞ってみる。

「由美の言う通りだよヘレナさん。こないだの追手と言い、どうもキュウビィ側も一枚岩で動いているわけでも無さそうだし、良ければそちらの事情とか分かっている情報とか聞かせてくんない?」

 由美に続いて光一も今の状況をより理解・分析するために思うところを聞いてみた。

 しかしてその反応は、

「僭越ながら!」

女性が声を荒げる事から始まった。勢い余ってフードが剥がれ、こちらは猫人族であろうか? グレー色のネコ耳がぴょこんと起き上がった。

「委細構わず夜分にいきなりのお目もじ、お詫び申しあぐるべきところではございますが!」

 二人にとっては予想外の反応だった。

 彼らもそれなりに自覚はあるようだが、()りとてこちらは迷惑を掛けられた側だ。え? 逆ギレ? なんで? てなもんだ。

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