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真夜中の訪問者 1

「場を読みなさいよ! 女の目の前なのは分かってるでしょうに、そんな粗末なもの晒すとかセクハラ以前に犯罪よ!」

「粗末とか言うな! つか、あいつらをちゃんと引き付けたんだし、由美が戻る時間稼げただろ!?」

「その、ご褒美? ……羞恥プレイ……お好み?」

「ボソボソ声でとんでもねぇこと言ってんじゃねぇよ真鈴! んな趣味あるか!」

「どうせなら……誰かと、絡んで……良さんでも……いいから」

「真鈴ちゃんの趣味をとやかく言う気は無いけど勘弁してほしいっす」

 趣味を楽しむ環境が無くなってしまった良介も、好みの書籍はもちろん、ダウンしてあった足し無い電子書籍データもスマホバッテリーの枯渇で閲覧不可となってしまった。 

 故に真鈴の心情は察するに余りあるが、その手のオカズにされるのは御免こうむりたいところ。

「大体がさ! 裸で帰る事になったのもロゼとか言う小娘が俺の服、古着屋に持って行っちまったのが原因なんだよ! こっちは一番奥の壁に張り付いて『透過』でやり過ごそうとしただけなのに!」

「こちらじゃ服も貴重だからねぇ。降ろしたてなら、そこそこ良い値が付くんだろうねぇ~」

「ああ。ロゼと、ええと……マイロとかだっけか、あの二人。あいつらも同じこと言ってたよ」

「だからって、うら若き乙女連の前で自慢げにおっ拡げていい理由なんて無いわよ!」

「自慢て何だ、自慢て!?」

「まあまあ。とりあえずコウくんの能力の効果は実証されたって事で。ただ、着替え(その後のフォロー)は今後の課題だね。とにもかくにもみんな無事に帰って来られたのが一番だよ」

 所長として年長として、平蔵は昂る若い連中を鎮め始めた。

 調査の進捗が芳しくない上に、所員同士の言い合いなど見せられてヘレナのしわも深くなる一方なのだ。

「ヘレナさん、どうかそんな顔なさらないで。年頃の乙女の眉間に、縦ジワは似合いませんよ」

「ご心配ありがとうございます。でも、そもそもそのシワの原因は!」

「わかってます、わかってます。決定的な結果が出せていない事、これは偏に我らの不徳の致すところでして……とは申しましても」

 営業スマイル全開で執り成していた平蔵は、ついとヘレナの目を見つめ直して、

「まるっきり手応えが無い訳でもありません。エミリーさんが未だこの王都イオタニア市に留まっているとすれば、やはり西地区が一番怪しいとみるのが妥当だと、当事務所全員の意見は一致しております」

などと昂り気味なヘレナに、宥める様に説明。

「客を取るのはもちろん、給仕や下働きしている訳でも無さそう……今現在はそんな状況なんですよね。多少、時間的な誤差は有っても人身売買の類であれば既に給仕、若しくは娼妓……とまでは行かなくてもその付き人として表に出ている頃合いです。決して安くない()()を何時までも寝かせておくのは解せませんしね」

「……ヘイゾウさんは、妹は監禁・幽閉されていると?」

「その辺りで、ちょいとヘレナさんにお聞きしたいのですがね。こちらの魔術師、魔導士の技術についてなのですが……」

「魔法? 妹の魔力は狐族としては平均より下かと?」

「いえ、そう言う事ではなくてですね、偽装と言うか結界と言うか~。その~、外側からの認識を阻害する様な、その手の魔法ってのが有るのかどうか、って事なんですけど」

「おれの透過みたいな?」

「近いんだけどね。と言うか僕たちのスキルは異世界人だからこそって可能性もあるし……」

「要するにね」

 由美が割って入って来た。

「任意の場所を外から見えなくする、視認を妨げる魔法が、こちらの魔法使いでもやれるのか? って事なのよ。だとしたら、一番怪しいのはやはりザーラ・ファミリーになるのよね~」

「それってどういう……あ、先に最初の質問にお答えしますけど、例えば伏兵戦術等で敵から見えにくくする偽装魔法などは軍を中心に運用されていると聞いておりますが……その魔法の有無と妹に何か……あ!」

「フム。由美ちゃんの言ってた通りのようだね」

「みたいね。今日もスキルで西の歓楽街周辺を見てたんだけどさ。ザーラの事務所と倉庫・店舗の一部で、あたしのスキルでもボヤけて見えない箇所があるのよ」

「ボヤけてる? あ、それで偽装魔法の事、聞いてたのか」

「そ! しかもさっき言ったボヤけている所ってのはのはザーラ関連の所ばかり。つまり関係者以外、見られたく無いモノが有るって事よね」

「誤魔化そうとして……却って……怪しまれる……本末、転倒……」

 真鈴が抑揚は薄いが呆れ声と分かる呟きを漏らす。

「確かになァ」

 そう。傍から見れば実に間抜けな話ではある。策に溺れた典型であろうか? いや、策を弄したと言うほどにも当たらないな、と、光一が肩を竦めた。

 ――いや……

 とは言え、それも由美の持つ千里眼と言う異世界人の能力の成せる技だからこそ気付いた、とも言える。


 ――モノの見方は狭めるべきではないよな……? 


 と、思い直しかけると同時、

ドンドンドン! ドンドンドン!


事務所出入り口の扉から強めのノック音が響いた。

 営業時間はとっくに過ぎており、会議が終れば寝室一直線と考えていた光一らはビクッと肩を震わせ、一斉に扉を凝視した。

 ドンドンドン! ドンドンドン!

 ノックはもう一度繰り返された。光一らは視線を扉からお互いの目に合わせる。

 ――誰だ?

 ――こんな時分に?

 それぞれの目は、そんなアイコンタクトな会話を交わしていた。状況的に、全員が声を出すのを躊躇った。最悪、ザーラファミリーのカチ込みも考えられるし?

 例えば大家さんやシオン辺りの来訪なら「夜分、済みませ~ん」とか、ノックと同時に声を掛けてくるだろう。さて、どうしたものか?

 ――ん?

 そんな中、良介が人差し指を立てて合図し、腰を上げた。パンツ内のインサイドホルスターからナイフを抜き出し、鳩尾辺りに構えて刃は上を向け、背中を扉横の壁に張り付ける。

 ――さすが良介(リョウ)さん、ガンマニア。様になってる。

「……どちらさん? 今日はもう閉業なんすけど?」

 唇だけ壁と扉の隙間に突き出して話す、そんな姿勢で返事する良介。話し終えるとすぐに首を引っ込める。

 声で位置を特定されて先手を喰らわないための所作、のつもりだろう。

 ドン……

 ノックが止んだ。

「……無礼を承知で罷り越しました。とりあえず、ここを開けて頂きたい」

「そちらの皆さまにご迷惑をかける積りは毛頭ございません。どうか、ここを……」

 ――二人? しかも男と女……

 訪問者の返答に、改めて顔を見合わせあう光一ら。残念ながら光一や由美は判断に窮し、平蔵の顔を見た。

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