かわいい尾行 3
しかしながら、今回の件は結構キナ臭いニオイも漂っており、反社組織もそれに深くかかわっている可能性も日増しに大きくなってきている。つか、ほぼほぼ確定。
そんな中へ鼻先を突っ込もうとしている、ロクに社会経験もない光一らよりさらに低年齢層たちのお出まし。
――ファミリーの手先として動いてる? あんな子が? 承知の上で?
こちらに召喚されて一月と経っていない二人にとっては、「日本とは違う」と頭では分かっている――と言うか言い聞かせているつもりだが、自分達より歳下が反社組織の先手とか、こんな文化的衝撃にはまだまだ慣れない。
とは言え、相手が例え年端も行かない少年少女であろうとも、ゲリラ戦やテロ戦で甚大な被害を与えるなどと言う例は地球であっても枚挙に暇がない。侮る訳にはいかない。
「撒いちゃう?」
「だな。じゃあ由美は先に行って」
「え? あたしだけ? あんたは?」
「俺のスキル、試したいんだ」
「あんたの能力……『透過』? ここでやんの? いきなり実践?」
「ああ、チャンスだと思うんだ。子供だからって軽く見ているわけじゃないけど、大の男共を相手にするよりは、な?」
「うん、それはまあ……」
「それに、いつでもやれるように準備はして来てるんだ」
「準備? 準備って、どんな?」
「下着、着けてねぇ」
「げ! 警衛隊さん、この人です!!」
「……もう古くね、それ?」
この準備、もちろん光一にそういう趣味があるワケでは無い。
光一のスキル「透過」は全裸でないと効果は無い。創作物で例えるなら、昔ながらの服を着た透明人間レベルなのだから。
潜入を目的とするなら事前に脱衣の時間を確保するのは問題ないが、離脱・逃走の場合はその時間の短縮が要となる。下着分だけでも成否の確立が跳ね上がる。
「じゃ、ここで別れておまえは先行してくれ。おれはここで時間を稼いでみる」
「あたし一人で? そのまま?」
「二手に分かれて奴らを撹乱するんだよ。前の路地を曲がるまでは普通に歩いて、道路抜けたら事務所に向かって走るんだ。この通りは他に裏道は無いから連中、回り込むことは出来ない。おまえを尾けるにはおれを追い抜かなきゃいけないから、おれに気付かれるリスクを負わせられる。連中の足止めが出来るんだ」
「……」
「ん? どうした?」
「アズマってさ……」
「うん」
「時々頭の巡り、早いよね。オタの功名?」
「は? なんだそれ? 変な諺作るなよぉ」
「だって今もさ、連中の目、誤魔化す方法すぐに思いつくじゃん? 知識だけは豊富なオタならではかなぁ~って」
「だけ、は余計だ! てか、みんなで出し合ったじゃないか。調査や捜査に役立ちそうな知識、映画みたいなフィクションの手法でも、その捉え方、考え方は応用できるんじゃない? ってヘイさんも言ってたし」
「……そこが……凄いなって……」
「え? なんだって?」
「あ、何でもないよ。じゃあ、あんたの言う段取りで行くわ。あんたも気を付けてね、アズマ」
「ああ、あとでな」
そう返事すると光一は、その場に屈み込んで靴を履き直す仕草をし始めた。
由美はそれを見る事無く、そのままの歩調で次の通りに出た。そして事務所方向――この位置からは東側、左に曲がる。
それを確認した光一はゆっくりと立ち上がり、自分も由美を追いかけると見せかけるべく若干速足で通りに向かう。
その間、尾行者と思われる二人組は光一を追い抜く事は無かった。
由美を諦めてくれたか、路地を出たら追いかけるのか。向こうも二手に分かれるか?
――おれがあそこを右に曲がれば……連中の思惑も分かるけど……
由美は曲がってすぐに走り出しているはず。両方を追うのは徒労に成りかねない。自分に集中してくれれば……
そうこう考えている内に光一は通りに出た。そして右に曲がると同時、
ダッ!
尾行者に見せつける様に駆け出す。
――来い! こっち来い!
表通りは雑踏と言うほど人込みは無かったが、それなりに人は多かった。
しかし、その中では急いではいても走っている者はそうはいない。故に平蔵ほどでは無い光一の耳でも、尾行の少年少女も走り出して追いかけてくるバタバタとした足音が聞こえて来るのが分かった。
――うし!
尾行の引き寄せは成功した。あとは撒くだけ。
光一は更に右手の裏路地に飛び込んだ。
曲がった瞬間、後ろをチラ見。二人が追って来るのも目視で確認した。
思惑通りである。
あと、この先に都合よく、理想の逃げ口が有ればベストだが。
「やっぱ気付かれてたね」
「女も追いかけた方が良かったんじゃない、ロゼねえちゃん?」
少年は少女――ロゼにボヤキながら光一の後を追った。
「そん時は気取られているか分からなかったし! 今更そんなこと言ったって!」
「撒かれたらまたマスター・リリィにお目玉……あ、ラッキー!」
ボヤいていた少年は、光一がまた路地を曲がったところを見て一転、表情が明るくなった。
「しめた! あの先は」
「うん、袋小路だ!」
少年とロゼは勿論のことながらこの界隈の地理は熟知している。しかも相手は余所者。
二手に分かれてこちらを翻弄しようとしたのだろうが結果として墓穴を掘った。二人の顔がほくそ笑むのも当然の反応。
しかし……
「え?」
二人の顔から笑みが消えた。何故なら、
「あれ? え?」
追っていた男の姿もまた、消えていたからだ。正に文字通り、影も形も無いのだ。
「いない……撒かれた?」
「そんなワケ……マイロはここに居て! あたしは奥を見る」
少年――マイロを警戒に残し、ロゼは袋小路の奥に進んだ。
そこは廃棄された木箱や酒樽が、他の生活廃棄物と混ざって手当たり次第に放置されていた。
この界隈ではよく見る光景ではある。だが酒樽は人が隠れられる様な、酒蔵に並んでいる大樽ほどの大きさの物は無い。せいぜい一斗樽サイズの物ばかりで、腐食や破損で役目を終えた木箱もまたしかり。
隣接する建屋には裏口と思しき扉もあるが、しばらく開閉されていないのか一様に汚れており、今しがた開けた形跡は認められない。
その建屋の壁には足場も無く、これをよじ登って……などと言う芸当も出来ない。
――気配を消しているだけ? いや、でも……ん?
ロゼは木箱の下に注目した。




