かわいい尾行 2
「ま、音限定ではあるからね。由美くんのような視覚系のスキルも羨ましく思うよ」
「お互いさまね~。あ、見えると言えばちょっと気になる事、有るんだけど~」
「ん? なに?」
「さっき千里眼使ってた時に二~三、気になった見え方が、ね」
「へぇ、どんな……いや、それは帰ってからにしようか?」
「あ、そっか。壁に耳あり?」
「取り敢えず尾けられてるワケだしね。さて、動くか」
残りのスープを、んぐっと飲み干して立ち上がると平蔵は、
「んじゃ、気を付けて」
腰の後ろで手を振りつつ、彼はそのまま歓楽街方面に向かって歩を進めた。
「アズマ……」
残りのパンを掻き込みながら由美が目配せしてきた。
それとなく由美の目線を追ってみると、隣のカフェに座っていた男二人組が立ち上がって平蔵と同じ方へ向かって行った。
「ヘイさんの言った通りだな。じゃあ俺たちもそろそろ……」
「尾行、あいつらだけかしら?」
「ん? ん~」
なるほど。自分たちの素性を探りたいなら、こちらが二手に分かれたのに、平蔵だけ狙うと言うのも片手落ち。あとは相手が、こちらにも対応できるように人数を割いているかどうか。
可能性としては否定すべきではない。事に、エミリー拉致疑惑の中心がザーラ・ファミリー絡みであるならば、嗅ぎ回っている自分たちは連中目線から見れば当然マークすべき標的だ。
「ヘイさん、凄いね~」
最後のパンを飲みこんだ後、由美がボソッと。
「なにが?」
「だって、しっかり探偵然としてるじゃない? 前はリーマンだったんでしょ~?」
「あ、ああ。そうらしいね」
いきなりの平蔵評に光一はちょいと困惑。しかし、
「営業とかで外回りしてたらしいから初見への声掛けって慣れてるのかもな」
と、思いついた事ではあるが話を合わせた。
「それでもなんか、板に付きすぎてない?」
「確かに……それは思うな。存外、若い頃に推理モノ小説とか読みふけってた時期が有ったりして?」
「こういうのが憧れだったり? ラノベ漬けの誰かさんみたく?」
「またかよ~。いい加減、勘弁してくれよな。さてと……」
光一も最後のパンを飲み込んだ。
「んじゃ、おれたちも動こうか」
皿の上をまっさらにした二人は席を立つと、事務所の方角へ歩き始めた。
――果たして……おれたちにも尾行は付くかな?
その辺り気にはなるものの、あんまりキョロキョロしては素人丸出し。まあ、実際に光一らは全くの素人だが。
尋ね人、くらいは普通の人でもやれる事だし、問題はそれが尾行している連中にとってどう映るかっていう話。
例えば捜している方も捜される側も全くの一般人であれば連中とて歯牙にもかけないだろう。シマ内で揉め事さえ起こさなければ捨て置いて良い案件だ。
逆に言えば、表向き平民であるエミリーを嗅ぎ回ると言う事に目くじらを立てるのは、そこに見過ごせない事情があると言う事だ。
「ヘイさんや良介さんの予想通りなのかしらね~?」
歩きながら由美が聞いてきた。
昨日の二大ファミリーはすぐに絡んできた。だが、こちらでは尾行は付くが接触はして来ない。
「おれたちを泳がせる理由が有るってことだよな。おっと? 由美、これ見ろよ」
光一はある露店の前で立ち止まると由美を誘った。どうやら装飾・アクセサリーを扱う店らしい。
「へ~、ブローチに髪飾り、ネックレスとか色々あるんだね~。やっぱどこでも、おしゃれは女の永遠のテーマよね~」
「何を他人事みたいに~。この商品たちはね、お嬢ちゃんみたいな娘をうんと魅力的に見せるために並んでんだよ~? ほらほら、彼氏にねだっちゃいなよ~。兄さんも兄さんだよ? 『どれが欲しいのか言ってごらん?』とか甲斐性見せなよ~?」
などなど、ベタベタに二人を嗾けてくる店のオバちゃん。
「コレが彼氏ぃ~? 勘弁してよ、おばちゃん~」
「おやま! 違ってたのかい?」
「うんまぁ、確かに違うけど……コレは無ェだろ、コレは!?」
「ソレで十分でしょ~? コイツは単なる職場の同僚よ」
うむ、確かに職場の同僚で間違ってはいない。それに関しては異論はない。
だが、コレに続いてソレだのコイツだの、もっと他に言いようがあるだろ!? と不貞腐れざるを得ない光一くんである。
「て、ワケでゴメンね、おばちゃん。手持ちも少ないし今日は、ね」
「う~ん。歳も寄ったりだし、あたしゃ、てっきり。ならまぁ、縁が深まったらまた来てちょうだいね」
「うん、きっと来るわ。じゃ~ね~」
二人は愛想笑い満面でその場を後にした。
「コレとかソレとか、えらい言われようだな!」
「ちっちゃい事、拘んなって! それよりさぁ」
ちょろんと煙に巻く由美。
だが続いて、
「アレ、そうなのかな?」
と光一に振る。
「ああ……」
一瞬、今度はアレかよ! と突っ込んでみようかと思った光一だったが、それより今は現状の把握が優先だ。
「次の三差路で左へ行こう」
光一が提案した。
左に何かがあるわけでも無く、別段右でもよかったのだが、とにかく正面に在る店舗に近付くのが光一の目的だった。
二人は正面を見据えつつ、件の三差路を一番店際まで寄ってから左に折れた。
「間違いなさそうね……」
「ああいうのまで使うのかな?」
光一たちは左折するまでの間、正面店舗の窓をそれとなく注視していた。振り返る事無く、後方の様子を窺いたかったのである。
開業を決めてから5人全員で今までの映画やドラマなどの創作物、ネットで仕入れた探偵の手管・手段等、記憶にある情報を出し合った中にあったひとつ。対象を面と向かって注視するのではなく、窓ガラス等を鏡代わりにして後方や側方の観察をする、相手に気付かれないための比較的メジャーな手法だ。
で、その窓に映ったのが、
「女の方はおまえより歳下かな? 普通にヒト族っぽいけど……なんかすごい色白の娘だな」
「男の子は更に下。どう見ても、せいぜい中学生上がるかどうかって辺りの頃合いよね~?」
「獣人の子……ネコ耳かな?」
と、そんな可愛らしささえ感じる尾行が二人、付いて来ていた。さっきのアクセサリー店で立ち止まったのも、その確認のためであった。
シオンから聞いたこの世界――と言うか、この街の世相からして10代前半の年齢で既に就労していること自体は驚くべき事では無いのだろう。




