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「いや、今日と同じで行くよ」

「え?」

(ナシ)つけねぇのか?」

「……誘い出す……の?」


         ♦


 翌日。

 西地区の目抜き通りに出張ってきた光一・由美と平蔵は、付かず離れずの距離を取ってエミリーの目撃者探しに掛かった。

 三人は、先だっての東地区や南地区の時と似通った塩梅で、聞き込みを行い始めた。同時に由美は時折り、西地区以外の場所も千里眼でスキャンしていた。

 近距離は見る事ができない半端な特性ゆえ、気に掛かる事が見つかってもすぐに現場に向かえない難儀さはあるものの、壁や仕切りを乗り越えて屋内も覗けるこのスキルは使い方次第で重宝するだろう。まずは様々な状況に合わせて使いこなせるように、本人が経験値を積まねばならない。

 とは言え、

「うわ!」

それにはまだまだ時間がかかる。

「どした?」

 急に足を止めて小さく叫ぶ由美に、光一も止まって彼女を見る。

「う~。時々、近距離の映像が入っちゃうのよ~」

「ん? でも近距離って見えないんだろ?」

「なんて言うのかな~? まるっきり見えないんじゃなくて、焦点が合わないって言う方が近いかな? で、たまに画像が出ちゃうんだけど、近いからその~、要するに()アップで見えちゃうんだわ~。今は、髭面の脂ぎったおっさんの顔が飛び込んできてさ~、さすがにビビっちゃってぇ~」

 由美は渋面になって「うえっ」とばかりに口から舌をチョロっと突き出した。

「事務所みたいに高いところから見下ろす感じだと、そう言うのは少なくなるわね~」

「でもさ、だとすればこれからの訓練次第で近場も見られるようになるんじゃ?」

「だったらいいわねぇ。こんな出来損ないの能力者からは卒業できるわ~」

「……それじゃあさ……」

「ん?」

「もし、そうなったら……」

「なに?」

 光一を見る由美。光一は目線を前にしたまま、

「その、おまえだけでも、特戦隊へ復帰できるかなって」

と、聞いてみた。

「……かもね」

 由美は、自分も目線を前に戻しながら返した。

「行くんだろ?」

「どうかしら?」

「え?」

 意外な答えだった。由美も、光一にとっても今の状況はやむを得ず甘んじているだけで本来なら王宮を根城にして、選ばれた魔導戦士として魔族軍と対峙するはずだったのだ。

 その件について光一は、特戦隊に残った者たちに対して多少なり、劣等感を抱いている。

これは否定できない。

 例えば自分の能力「透過」が、着ている服や得物にまで反映できる完璧なものであれば、特殊工作・遊撃行動等に役立てられるだろう。彼らと肩を並べられる働きが可能となるのだ。だから彼女も、と思っていたのだが。

「だってさ」

 由美は続けた。

「もしもそうなったら、宮廷の鑑定士たちって先の可能性も見えない、見ようとしなかった連中だって事じゃん? それを見もせずに目先だけであたしたち、お払い箱にしたあいつらの下に戻るってなんかイヤだな。アズマはそうは思わない?」

「あ~、確かにそれは一理あるな~」

 王宮を出る時の三石・森田の例もある。今さら能力に覚醒したところであの手合いは自分たちの事を出戻り風情くらいに見下そうとしてもおかしくはない。足並みを揃えるという点では不確定に過ぎるとも考えられる。

「それに、田辺さんや河合さんじゃないけどやる事は結局、戦争だもんね~。魔族とかの脅威なんて言われても、まだピンと来ないしさ~」

「ま、僕たちは僕たちの道を行けばいいさ」

 後ろから声が掛かった。

「ヘイさん」

「そろそろ昼にしないか? 報告がてらにね」


 三人は食堂のテラス席で昼食にした。ハーブを利かせて焼いた豚のスライス肉にサラダを添えたランチメニューをパンとスープでいただく。

 相変わらずパンは固く、周りを見てもスープに浸してから食べるのが通常らしい。スープは皿では無くカップで出されている。

「ほかの地区と同じで反応は鈍いねぇ」

「獣人は他所より多く居るみたいだけど、いい情報は無かったな」

「由美くんはどうだい? 遠目で何か見つけられなかったかい?」

「獣人が多いところ、って感じで探してみたんだけどぉ。あまり固まってるワケじゃないみたいなんだよね~」

「種族間の差別とか軋轢とか無ければ同族同士で固まって互助するってのも必要無いのかな?」

「ま、とにかく狐っ子中心に眺めてたんだけど、それらしい子は他でも見つからなかったな~」

「となると……やっぱ監禁ていうか、どこか人目に付かないところへ隠されてんのかな?」

「その可能性も高まって来たねぇ。でもやっぱりこの西地区が臭いね」

「あら、どうして?」

「僕たちは朝からもう半日ほど嗅ぎ回っているわけだけどさ。昨日みたいに地回りが絡んで来ないんだよね」

「ああ、そう言えばそうだな。昨日ならとっくにミケーレさんに詰め寄られてた頃合いだ」

「シオンさん、ザーラはキツいみたいなこと言ってたけど、実は緩いとか?」

「ところがそうでも無いんだよ。キョロキョロしないで聞いてほしいんだけど、もう一時間以上前から僕たちを監視してる連中がいるみたいでねぇ」

「え!?」

 聞いた途端、光一と由美は脊髄反射で周りを見てしまうところだった。

 あらかじめ注意を受けていたにもかかわらず、己が青さを露呈する寸前であった。

「やっぱ、目ェ付けられてる? でも、ならどうして……」

 一息吸い込んで気を取り直した光一はパンをつまみつつ、平静を装いながら聞き直した。

少し芝居が掛かった動きになってしまうのが自分でもわかった。

「泳がせている、と見るのが妥当だろうね。僕たちが、名前は出さなくても探している相手はエミリーちゃんだって事くらいは気付いてるはずさ。おそらく、僕たちの素性とかバックとか洗い出してる最中なんじゃないかな?」

「バックっても……ジャック・ヴァイスに迷惑かけちゃマズいよね。なんだかんだで世話になってるしぃ~」

「…………」

「ヘイさん?」

「そろそろ動き出しそうだな」

 平蔵は聴能力(聞き耳)を立てていたようだ。こちらを監視しているザーラの地回りの話し声を聞いているのだろう。

「ふむ。新参のフリー・パーティだと踏まれたようだね」

「絡んできそう?」

「由美くんは帰った方が良いな。コウくん? 事務所まで送ってあげてくれるかな?」

「ヘイさんは?」

「連中を引き付けた後に、僕も帰るよ。それで奴らがどう反応するか、それも見られれば何か掴めるかもね」

「引き付けるって、ヘイさん大丈夫? 危なくない?」

「あいつらが単独なら読みにくいけど、複数で動くなら必ず話し合ってからの筈だし、それを先読みして裏をかいてやるさ」

「なんかヘイさんの能力(スキル)が一番、探偵してるね~」

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