初めてのおつか…捜査 5
酒場、賭場、売買春等、人間の欲望に根差す享楽を満たす花街、廓町とも呼ばれる界隈。
酒の場は食事とともに嗜んだりする場合は繁華街でも見られるが、それにギャンブルや買いが絡むと、もうすぐ卒業とは言えまだ学生であった由美には戸惑う場面も多すぎる。
露店で行われている投げ輪やダーツの様な賭けゲームくらいだと由美も祭りなどで見た事は有る。
だが、事にホステス・キャバ嬢らが接客する場や、鼻の下を伸ばした男どもがお相手してもらう女性を物色している娼館通りなどは、ほぼほぼ初見であった。
自身も女の端くれとして、そういった光景は見ていて気持ちの良いものでは当然有りはしない。目のしわと共に口元がひん曲がってしまう由美である。
「どこの世界も男はアホね~。ニヤニヤだらしない顔してさ~。あ、キャバ嬢さん(?)にお触りしてたヤツ、今日のヤースさんたちみたいなのに連れてかれたわ~。なんかイキってるけどぉ……あーあ、ボコられてやんの~」
地回りさんのお仕事ご拝見……では無いが、なるほど彼らの様な役目も必要なわけが実感できた由美さんであった。
「コウさん……も……行きたい……?」
「へ?」
「行きたい……?」
「え、や、何でおれに振るかな!? てか、う……きょ、興味はもちろんあるけど、敷居高いよ! 下手に首突っ込んだら……マナーとか習わしとか知らないし!」
「そうよね~。あーゆーとこに一人で行ける行動力があんなら、その歳でキモオタ童貞やってないよね~」
「だからオタオタ言うなっての! そりゃまあ、その後の方は……正解……だけど……」
「所長や……リョウさん……は?」
「や~、俺はそう言うのより、お金や時間は趣味に振りたいっすねぇ」
「僕もまあ、この先は分からないけど、しばらくはいいや」
「そうなん? ヘイさんなら、あーゆーの経験ありそうだけど?」
「実は僕、召喚される一週間ほど前に妻との離婚が正式に成立してさ。思いっ切り一人を謳歌し始めたばかりなんだよね~。だから今は……女性方面は面倒かな?」
「あは、独立記念日っすか?」
「お、いいねそれ。うん、そんな感じ?」
「あの~」
歓楽街の観察から思いっ切り脱線し始めた探偵団に対し、ヘレナが不満たらたらっぽい口調で、
「それで妹を見つける算段の方は……」
と、諫めてきた。
なんだかこちらの心境無視で盛り上がる探偵団に悪感情が湧いては来るものの、今の彼らに頼らざるを得ない状況では軌道修正を促すのが精いっぱい。
とは言えもうちょっと親身になってほしいと願うヘレナ。唇尖らせっ放しなのも已む無しか。
「あ、いや、すんませんヘレナさん。しかしながら、決して軽く考えているわけではありませんよ? で、改めて確認したいのですが……エミリーさんが最後に目撃されていた時に、彼女と同行してた連中の情報は無いのですね?」
「え、ええ。野営地で一緒になった業者が別の隊商の中に居たのを見てただけで……ただ、他の者が野営の準備をしている間、人夫として動くでも無く、賄いを手伝うわけでも無く荷台に座ったままだったと……」
「と言う事は、先手とかで雇われたり連れて来られたわけでは無くて……」
「”商品”として?」
「もしくは……人質……」
ヘレナの顔に影が落ちる。
「その情報があってから既に一ヶ月は経ってる。”売られた”のなら、年齢的に客を取るまではいかなくても、雑用その他で下働きしてる頃合いだろうけど……由美ちゃん? それらしい子も見かけられないんだね?」
「そうねぇ。言われてみれば、お客取ってる女性って若くてもあたしや真鈴くらいよね。お酒や料理、運んでる若い給仕の狐っ子は一人いたけど、全く似てないし年齢も上みたいだし~」
「て、コトは……」
「人目に……付かない場所で……監禁……」
「黒幕がキュウビィの非主流派ってんなら……可能性、高いのかな?」
「その黒幕が表から見えないように、代わりにザーラが動いてるっすかね?」
「一月経っても表に出ないのであれば、政争の切り札として温存している可能性はあります。むしろ、それ以外――身売りや奴隷売買の類の方がリスクが大きすぎます」
「非嫡子と言えど王族の血を引いてるんだもんねぇ。無碍な事やらかすと自分たちのケツに火が回るし。ま、今日の僕たちの調査でその線は消えたとみていいよね。でも……」
「相手するには危険度が増える……ヘタすりゃ利権を狙う貴族やその勢力と相手しなけりゃいけなくなるってコトっすね」
「ゾッとしねぇなぁ。そりゃおれたちの能力は防御には心強いけど攻めの方は心許ないしぃ」
「で、ですから、居場所だけでも特定して頂ければ後はこちらで!」
「それもどうかな?」
「え……?」
「エミリーさんの居場所が判明したとして、実際に王女殿下、と言うかキュウビィの勢力が動けるかどうかは疑問ですねぇ。公式・非公式どちらの人員であっても同盟国の、しかも王都で大立ち回りなんてトリアーノ側は良い顔しないんじゃないかなァ?」
「う……」
「トリアーノ……見て見ぬふり……は?」
「それが出来りゃヘレナさんもウチには来て無いんじゃないっすかね?」
「良くん正解。つまりはエミリーさんが王族として認められていない、ここがネックでね。王族であれば身柄保護の要請を正式に出せるし、それならトリアーノとしても、どの派閥にも気兼ねなく堂々と動く名分は立つんだけど、表向き彼女は民間人だからね」
「う~ん、よく飲み込めないけど……民間人なら、王室や軍じゃなくて外務省あたりが要請するとかは?」
「彼女は旅券も査証も持っていないんだよ。入国そのものは”商品”だったら偽造旅券で、若しくは荷物に紛れての”密輸”だと思う。トリアーノが身柄を抑えるなら保護では無く、不法入国者か無資格滞在者で逮捕、って形になるだろうね。結果、キュウビィのどちらかに益をもたらす、肩入れしてしまう事になってしまいかねない」
「すっごくデリケートなのね~」
「でもそうなると……まさか身柄保護もおれたちが?」
「どこの勢力にも気を使うことなく勝手に動けるのは僕たちくらいだろうね。でも、その辺はエミリーさんの所在のアタリが付いてからの話さ。まあ、とりあえず……明日は予定通り西地区を当たってみよう。東地区も南地区も、それらしい隊商の出入りも見られなかったみたいだし、現段階で一番臭いのはやっぱザーラの縄張りだろうな」
「ザーラ・ファミリーに挨拶してから?」




