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始動、異世界探偵 2

 そんな中、トリアーノ国籍の行商人から「良く似た少女が王都に向かう隊商の中に居た」との証言を得て取るものも取り敢えずこちらに出張ってきた、と言う事らしい。

 とは言え場所は勝手の分からない他国な上、事情があって自分自身が目立つわけにはいかない。

 故にジャック・ヴァイス経由で探偵事務所(こちら)に来たと言うワケだ。

 もちろん事務所――光一ら側にも、ジャック・ヴァイスでは断られた云々はヘレナからも聞いてはいた。

 だが、その事情とやらは光一の想像の範囲を思い切り超えていた。

 なにしろそれが”彼女自身が王族であるから”だってんだから想像の斜め上だか左だか。

「その妹君――エミリーさんというのが所謂(いわゆる)妾腹(しょうふく)の娘さんだそうで。残念ながら正式な王族としては認められず、城下外に土地と家を与えられて過ごしていたらしいんです。で、第三王女であるヘレナ殿下はエミリーさんととても仲睦まじく、エミリーさんの存在が後々、王位や資産の継承問題に影を落とすのではないか? と考える他の王族や貴族の目も(はばか)らずお付き合いしていたそうなんです。ところがある日突然……」

「失踪してしまった、と」

「それはたしかに……いわく付きってレベルじゃないかもね~」

 盗賊や人買いによる誘拐・拉致。

 彼女を快く思わない勢力による排斥・抹消。

 可能性は色々とあるがどれもこれも推測の域を出ず、ヘレナの嘆願にも拘らず捜査の進展は捗々しくなかった、と。

「だからと言って王女様が王宮から飛び出して外国にまで来るなんてのも大概よね~」

「事情はともあれ血の繋がった姉妹。よほど可愛いんだろうな」

「でも……胡散臭さ……ぷんぷん……」

「まぁねぇ。由美ちゃんの言う通り、第三王女殿下自ら赴くってぇのも妙な話だし、真鈴ちゃんがそう思うのも已む無し、な案件だねぇ」

「配下や側近にやらせるのが普通っすね」

 それぞれ感じた思いを並べる探偵団。その後、答え合わせを求めてシオンに視線が集中した。

「先ほどもお話ししましたが、王宮内の派閥問題も有りまして不用意に誰かにやらせようとすると他の勢力から有らぬ疑いも出て来るらしく……」

「疑いって? 何なの?」

「エミリーさんが廃嫡されている事には快く思っていない臣民も多く、ヘレナ殿下は彼女を利用して臣民の支持を集め、王宮内における立ち位置を強固にする思惑があるのではないか? そう(うそぶ)く方々も居られるんですよね」

「う~ん、何かドロドロして来たなあ。でも、昼間の彼女はそんな雰囲気感じなかったけどな」

「そうっすよね。でも……」

「リョウスケさん、何か?」

「だとすると俺たちが特戦隊計画からこぼれた異世界人だって話したの、マズかったっすかね?」

「え! 話しちゃったんですか!?」

 良介の言に、シオンは思わず強い目で平蔵を見据えた。

「ああ、ごめんなさい。どうも彼女が僕たちの立ち位置を訝しんでいたようなんで……まあ、こちらとしても依頼は喉から手が出るほど欲してましたのでつい……。一応、内密にとは釘刺しておきましたけど」

「う~ん。まあ、彼女も母国内でも微妙な状態になっちゃってますから秘密保持は協力してくださるとは思いますが……重ねて言わせて頂きますけど、皆さんの素性を口外するのは厳に慎んで頂いた方が!」

「はい、迂闊でした。以後、気を付けます……しかし、まさか王族とは予想もしてませんでしたな~」

「妹を心配する……普通の……お姉さんて感じ……だった」

 シオンに聞かされるまで、彼女が王族であるなどと光一らは全く気が付かなかった。それほどヘレナ殿下は庶民的な雰囲気がバンバンだったのである。

「そうよね~。謀略とか調略とか無縁な雰囲気だったわよね~」

「どんなところでも口さが無い人ってのは居りまして……」

「なるほど。つまるところ、余所のお家騒動になりかねない案件に、こっちの王室が片方の勢力に肩入れする訳にはいかないし、国が認定する冒険者ギルドもまたしかりってわけかぁ」

「それであたしたちに白羽の矢が?」

「そういう事っすね。もしもこの先、何かしらのトラブルに発展したとしても『国もギルドも与り知らぬ連中が勝手にやった事です』ってしらばっくれる事も出来るっすからね」

「白羽というには色々と埃被ってる感じだけど、まあモロにおれたち向けの仕事ってところでは有るよな。もちろんこのまま受けるんだろ、平蔵(ヘイ)さん?」

「ああ、看板上げちゃったからには信用構築は喫緊の課題だからねぇ。それにマルタイ(主要調査対象)も殿下と同じ狐系獣人だからそれなりに目立つし、意外と早く見つかるかもね」

「よっしゃぁ! 初仕事だし、気合入れていくぜ!」

「あんまりイキるんじゃないわよ~? 現実はあんたが(かま)けてたアニメやラノベのノリが通用するワケじゃないんだから。ま、あんたはイザとなったら『透過』でバックレられるから良いだろうけど~」

「服、ほっぽり出して全裸で逃げなきゃイケないっすけどね」

「逃げ帰っても……私たちの前で……能力、解かないで……ね?」

「するかよ! そんな趣味無いわい!」

 と(いわく)く付きとは言え、やっと舞い込んだ初仕事を前に、アーリウム探偵事務所の面々は士気旺盛であった。



「ま、士気旺盛は結構な事だけど……」

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