始動、異世界探偵 1
「あ、我らの立ち位置をご説明するためにお話しした事ですんで、その辺は、どうかご内密に……実際の行動は紹介元の冒険者ギルド『ジャック・ヴァイス』に指導を受けておりますので安心してご依頼内容を!」
「は、はぁ……」
平蔵とヘレナのやり取りを見ながら肩を竦める光一。
彼女は事務所を開設して以来、待望の依頼人だ。初っ端から、いきなり依頼獲得に失敗するのは避けたい。
しかしながら社会経験に乏しい光一らにとって、この手の交渉事は営業経験値の高い平蔵に依存、と言うか丸投げ一択である。
若干のもどかしさも感じるものの、その辺りは止むを得ない。代わりに自分がどうこう出来る訳も無い。
例え自分の能力値が軍レベルには満たないほど低かったとしても、同級生の卓や隆司のように炎撃や雷撃等の攻撃技系統のスキル持ちであったならば、冒険者よろしく護衛任務や魔獣の討伐依頼などであっても受けるのはやぶさかでは無い。
が、自分のスキル「透過」はそう言った任務とは相性が悪い。悪すぎる。
逆に元の世界の探偵業などと同様の業務、調査・張り込み・情報収集などでは意外と相性のいいスキルかも? とも思っている。
だが如何せん経験は皆無。城に残った連中のように軍から訓練や指導を受けられるわけでも無い。
この狐っ子との交渉事のような業務でもそうだ。戦闘経験と同じく経験値が全く足りてない。つか皆無。その辺りの積み重ねは全て、実戦で得なければならない。
目前の平蔵とヘレナのやり取りもじっくりと観察して、わずかでも積み上げていかなければならない。
一日も早く、この世界で生計を立てる目途を付けないと――光一の不安は当面、消える事は無いだろう。
「で、ご依頼の内容はどのような?」
「人を……人を探していただきたいのです」
「不明人の捜索ですな?」
「はい、捜して欲しいのは私の妹です」
「妹さん……お身内の方ですか。詳しい話をお聞きしても?」
人探し。探偵業としては、どストライク案件だ。
事務所の看板を立てて早五日。シオンの所属する冒険者ギルド「ジャック・ヴァイス」他、彼らと友好的なギルドにも触れを出してもらって周知には努めたが、今日の今日まで事務所のドアが開かれることはついぞ無かった。
それも当然だろう。
この世界、少なくとも王都イオタニア市に於いては、「探偵」に相当する言葉が無いのである。
探る・調べる・突き止める・暴く……等々の言葉を組み合わせた屋号で出来るだけ大きく看板を上げたが結局は造語である。看板を目にする人もその意味が分からずに首を傾げるだけであった。探偵事務所なるものが一体どんな生業であるのか? 当たり前だが市民にとっては想像も付かないのである。
軍や行政の中には、探索方、内偵方と言った情報調査・監察等に携わる役職は有るらしいが、それをそのまま使用すると役所の出先機関と誤解を招く恐れがあるので不適切、とシオンからの指導が入っている。
気を引くために日本語でも書かれているのだが、街に慣れない自分たちが迷わないように一目でわかると言う目印的効果のみで終わってしまっていると言う有り様。
光一たちは生活費に充てるため、国からは生活費約2か月分に相当する金子が支給されていたが、既にその5~6割を家賃など事務所を開設する資金に投入してしまっている。
3階を住居にすることで個人的な宿代や家賃は浮くものの、それは順調に売り上げが伸びてこそ。故に懐具合としては実に心許ない状況にあった。
シオンと大家の婆サマに近いオバさん以外の来客も無く、ジリジリと焦りも感じ始めた中でようやく現れた依頼者。しかも探偵業としては至極順当ともいえる行方不明者の捜索。これは受けるしかない。
そして何としても依頼を達成して実績を積み、信用を勝ち取らなければならない。
事程左様に、光一は光一なりに頭を巡らせつつ、平蔵とヘレナのやり取りを注視していた。
「なるほど……承知いたしました。職員一同、全力で捜索に掛かりしましょう」
「よろしくお願いします」
ヘレナからの説明をひとしきり聞いた探偵団は、初の依頼を獲得する事となった。
「かんぱーい!」
と言うワケで一行は、念願の初依頼獲得を祝って紹介してくれたシオンも交え、一階の食堂で会食としゃれ込んだ。
「念願の初依頼ゲット! 明日から早速仕事に掛かるから、今夜は思う存分飲んで食って、しっかり英気を養ってくれ!」
平蔵も意気揚々だ。一応所長の肩書を持ち、最年長であることからもそれなりに責任を感じていたのだろう。
「一時は、大丈夫かなぁとか思ったけどな~」
「シオンさんに感謝だね~!」
「い~え~」
光一・由美の謝意に、招かれたシオンが謙遜。
「でも……」
そんな中、水を差すように真鈴が一言。
「いかにも……いわくを感じる、依頼……」
「そうっすね~。こんな飯会、開けるほどの前金くれるんなら、ギルドだって受けられたんじゃねぇっすか、シオンさん?」
良介も感じていた疑問を聞いてみた。
そう、今回の依頼、祝・初依頼獲得! と歓迎すべきところではあるのだが、同時に全員が多少の引っ掛かりも覚えていた。
「ええ、まあ……依頼料方面では問題は無かったのですが……その、いささか、ちょっと……」
良介の指摘を肯定するような口濁し。そこへ光一。
「気にかける事は無いよシオンさん。多少の問題があったって、それは最初から説明受けてたしさ」
「そうそう。ちゃんと仕事紹介してくれたわけだしね~!」
由美も同調し、
「何かウラが有るなら話していただいた方が良いですねぇ、シオンさん。なに、大丈夫ですよ。探偵に限らず、依頼人や協力相手の情報は厳に守秘するのは我らの世界じゃ常識でしたもんで」
平蔵も軽くウィンクしながら促した。
「そ、そう言って頂けると……そうですね。背景はちゃんと説明した方が、お互いの益になりそうです。じゃ……」
シオンは身を乗り出した。光一らもそれに合わせて周りに聞かれない、小声の届く距離まで詰める。
「先ほども申しました通り、今回の依頼は内容はともかく報酬面では問題は無いんです。ですが依頼人の素性にちょっと……」
「何かヤバいとこの人なの、彼女?」
「反社には……見えない……」
「もちろん、そういう類の方ではありません。むしろ真逆の方でして……」
「真逆?」




