蠢くタンテイ 5
「なら、一番疑うべきはやはり奴の女房、もしくは妹?」
「その方が自然でしょう」
「だとすれば、あのタンテイとか名乗る連中の素性も公儀ではなく民間?」
「そこまでは何とも。しかしながら出元が公的なところであれば、臭わすどころかそれを笠に着るのが常道でございますし」
「なら冒険者あたりか? いやいや彼らは人の粗を探るような仕事はしない。隊商護衛や魔獣狩りがメインだ。じゃあ……」
「ファミリー?」
「ちょっと毛色は違いますが……公安やギルドでは受けられない、そういう仕事などは連中も金次第で……有り得ますかなぁ」
「今回、卿が連れてきた人夫たちみたいに?」
「ええ。この荷は納品が終るまで、誰の目にも留まらぬようにせねばなりませんし、用心棒も兼て選ばせて頂きました」
「……女房を洗った方が?」
「いえ、副支店長。奴の女房はショックで引き籠っとります。同居の妹の方が怪しいかもです」
「……計画も佳境だ。最低でも荷が目的地に届くまでは押えられないか? キリオ、コルシ?」
「脅すのですか?」
「依頼主が妹なら依頼の取消と口止めだけでいい。まあ所詮は女だ。倉庫人夫の荒っぽいのを連れて行けば……」
「いや、万が一を考えますと、あなた方商会の人員が動くのは避けるべきでしょう。僭越ながらこちらから手配を」
「よろしいのですか、シルバート卿?」
「もしも前回のように意地を張られて荒事になったりすれば、我らの方が波風は立ち難いでしょう。今回の人夫も、その用心を兼ねております」
「有り難い申し出ですが……こちらの不手際ですし、要らぬ手間をお掛けするのは心苦しく……」
「何を他人行儀な。我らはこれから共にトリアーノ・キュウビィ両国の流通を牛耳るパートナーではありませんか。まあ、そちらはお任せください。明日来るであろうタンテイは宜しくあしらって頂けると……」
「承知いたしました」
♦
今日の倉庫当直・不寝番はロッコ・ドゥランテ、カルロ・ファーゴの二人だった。
今日の午後に納入された荷物には14~5人の人夫が付いて来ていた。なんでも人夫兼護衛役だとの事だが、通常それは冒険者ギルドのメンバーが雇われるのが多い。
一件、ガラの悪そうに見えたその者たちもその類だと思っていたので、荷の警護に付きっきりになるのか? だとすれば不寝番の最中、余計な気を使わなければならないな、と面倒に思っていた。
だが、倉庫を閉める時間になって、"何たら卿"に何事か耳打ちされた彼らは、何たら卿と一緒に街へ繰り出していった。これからも荷に付き合って移動するらしいので慰労も兼ねて酒の席でも設けたのか、まあとにかく。これでロッコとカルロは二人で大好きなカード・ゲームに没頭する、気楽な当直勤務を楽しめることになった。
故に、通用口の戸締りを終えて晩飯の準備でも、と思った途端に「忘れ物をした」と事務員のモレーナ・ファラーチに解錠を求められるという余計な手間が起こっても、それほど面倒にも不快にも思わなかった。
前任のルーチェと変わったばかりなので不慣れなのもしょうがないと、用事を済ませたモレーナを見送って、もう一度施錠したロッコは詰所に戻った。
「フォン? 首尾はどうだ?」
(おお、言われた通り、事務所右側の窓の鍵を開けておいたぞ)
(お疲れっす、フォンさん。相変わらず、見事な憑依っすね)
モレーナの行動は、フォンの憑依による工作であった。
フォンは彼女に憑依して、忘れ物を装って事務所内に。そして光一が侵入するために窓の鍵を開けておいたのだ。
フォンによるこの技は女性限定ではあるが、憑依されている間は記憶が無いので当人は憑依されていたことにすら気が付かない。翌日になって「もう忘れものするなよ」などと言われたら初めて気に掛ける程度であるから、それまではバレる心配は無い。
「じゃ、行ってくるわ」
光一は"透過"を発動、姿・気配を消して、倉庫に接近した。フォンが解錠した事務所の窓を音が響かないようにゆっくり開けて、中に侵入する。
(そう、右の机の上。そのトレイに入ってるのが例の荷の伝票のハズよ)
由美の指示に従い、書類を漁る光一。
――これかな?
それらしい書類を見つけた光一は、それを窓の下まで持って行き、月明かりの中で調べ始めた。
事務机の上に有った魔石ランプを使う手もあるが、事務所を見回しても遮光する道具までは確認できなかったので、下手に光が漏れると当直がやって来そうであるし、使用は最後の手段とした。
月齢は満月では無かったが、それでも夜の闇に慣れた目には書類の文字程度は十分、読むことが出来た。雲の無い月夜、天候にも恵まれていたわけで幸運と言えるだろう。
この世界では指紋等による個人特定法はまだ運用出来ていないので、その辺に気を遣わずに済むのは気楽ではあった。何せ指紋を拭こうにも透過発動中では道具が持てない。
しかし、気を抜きすぎて思わぬ痕跡を残してしまってはシャレにならない。特に今回の相手はややもすると反社よりもヤバい連中と想定せねばならない、などと言う事態も有り得る。
「荷は大箱が15。内容は……農機具? 行先は……フェランツ市? 聞いた事無いな」
(フェランツ? フェランツ市と言ったか?)
「ああ。フォン、何か知っているのか?」
(国境近くにある魔導王国の要塞都市の名だ。今もそのままなのかは分からんが)
(そんなところへ農機具? いきなり怪しいわね)
(中身も確かめなくちゃならないっすかね? コウさん出来るっすか?)
「詰所の当直が出てくるかどうかだな」
(……夕食の準備が出来た所ね。食べてる間に行けるんじゃない?)
「つかさ、由美? ちょいと気合い入れて中身、透視できないか?」
(昼間でも光量不足でダメだったもん、とても無理~。何かにくるまれてたら尚更よ)
荷の書類がどこに置かれたかは追えたのだが、箱は密閉度が高かったらしく、日暮れ前の光量であるにもかかわらず由美の能力をもってしても中身を確認する事は困難であった。
「フォンは? おれを触媒にして、箱の隙間から触手突っ込んで確認とか出来ないかい?」
(触手とか、人を触手持ち魔獣かイソギンチャクみたいに言うな! そうよの。やるにしても、お主がもう少し対象物に接近せねばの)
「行くしかないか……」




