蠢くタンテイ 6
事務所を出た光一は由美の指示に従い、一応詰所からは死角になる順路を選んで目的の荷に接近した。
事務所からはランプも持ち出しておいたが、暗さに慣れてきた目には倉庫であっても、窓からの月明かりで不便は感じなかった。
――これだな
書類と箱の番号を照合した光一は件の荷を特定した。
「フォン、どうだい?」
(うーんと……アカン、布か蝋引き紙かなんかで包んでおる)
「仕方ない。開けるか」
光一は箱の梱包をチェックし始めた。
――しっかり縛られてやがるな……
荷は一箱ずつロープで縛られていた。取り敢えず、そのうちの一つを解いてみる。
「由美。当直の様子は?」
(……大丈夫よ。食事が終ってからカードに夢中だわ)
ズズ……ズズ……
光一はロープを解き、蓋がずらせる程度に緩めた。極力、音が漏れないように。
光一の透過を使っての作業だが、ロープが勝手にズリズリとズレていく光景は傍から見たらラフロでの一件では無いが、霊現象以外の何物でも無かったろう。
大騒ぎされても厄介。当直にはもう少し、カードに没頭していてもらいたいものだ。
――よ……よ! っと!
蓋がズレた。月明かりの中、内部を見ると由美やフォンの言う通り、黒い布で中身が覆われていた。
ファサ……
布は一つ一つでは無く、十把一絡げよろしく纏めてくるまれているようだ。ゆっくり、気を付けて捲ってみる。
――これは……
光一の目に映ったモノ。それは……
(戦斧じゃないの、それ? 木こりの斧じゃ無いよね? 頭部に槍の穂先も付いてるし)
月光に照らされて鈍く光る戦斧の輝き。ここまでくれば由美も探知出来たようだ。これらの武器は、ソンニ村の盗賊やラフロ鉱山アンデッド戦の派遣隊らも装備していたので馴染みだ。
光一は更に暗さに慣れてきた目で箱の奥まで覗き込んだ。
「ああ、農機具なんか一つも入ってない。これ、みんな武器だよ」
(妙っすね?)
(そうよね。別に武器の売買だって当局に申請すれば普通に取引できるはずなのに、何で農機具になんて偽装する必要が……)
「何言ってんだよ。行先のフェランツ市は魔導王国だろ? 仮想敵国だよ? 食料や日用品ならともかく、いくらなんでも敵国に武器の販売なんて申請したって認められるわけないよ」
(あ、そうだった!)
(……密、輸?)
(全部調べれば確証も得られるかも……て、そんな手間掛ける訳にも行かないっすけど……コウさん、伝票番号と箱番号はホントに間違いないっすか?)
「ああ。間違いないよ。伝票通り……あれ?」
(ん? どうしたのアズマ?)
「な、なんだ? どういうことだ?」
(コウさん、どうしたっすか? 問題発生ならすぐ撤収して……)
「ラベルだよ!」
(ラベル? 屋号っすか?)
「そう! 箱に書いてある番号の下に捺されてる屋号。これ、アスロッカ商社の屋号紋だよ!」
(え? ライバル社から買ったって事? そんなんあるの?)
(ライバル社との取引は、無いとは……言い切れないっすけど……)
(でも、おかしい……それでも……納品は……ドレン商会に……なる、はず)
(てか、昼間に入荷してた時にはそんなラベルなかったわよ? 番号だけでさ。中が見れない分、外はしっかり見てたし?)
「入庫してから捺した? なぜそんな……」
(……コウさん)
「え、なに?」
(現状を回復して撤収してほしいっす。ややこしくなりそうっすよ?)
「あ、ああ、わかった」
光一は小さく返事をすると、箱を元通りに梱包し直した。来た時の逆順、事務所経由で外へ離脱、進入時と同じくゆっくり窓を閉める。
詰所の当直には何らの変化も無し。相変わらずカードに夢中。
調査は彼らに気付かれる事無く、成功裏に終わったと言えよう。
懸念事項としては外から閉じられない窓の鍵が開いたままの事くらいか? 伝票類も元に戻したし、こじ開けたわけではない窓やその鍵周辺にも痕跡は残してはいないし、何より何も盗られてはいない。単なる閉め忘れとされることを期待する、くらいが今の探偵団では限界であろう。
「しかし、もう胡散臭いなんてレベルじゃ無くなったな」
事務所から離脱した光一は、服を着ながら零すように呟いた。
(でもこれだけじゃ決め手に欠けるっす。何と言うかもっと……本来の目的ってヤツが有ると思うっす)
(本来の目的って……敵国に密輸して金儲けしようってんじゃないの、おじさん?)
(……なに、か……違和感……)
(屋号っすよ)
――屋号? あ!
光一の頭の中で何かが繋がった。夜の暗がりすら明るく感じるような閃き感すら。
「そうだ。単なる密輸ならアスロッカ商社のラベルを捺す必要性が無い!」
(おじさん、アズマ、ちょい待ち! そっちの偽装は、バレたらアスロッカの所為にするためじゃないの?)
「それなら書類もアスロッカ名になるんじゃないか? 伝票はドレン商会名なんだぞ?」
(う~ん、ややこしいわねぇ~)
(出荷伝票は出庫時に偽造伝票に差し替えになるかもしれないっすけど。でもそれは確認できそうにないっすね)
(おう、ちょっといいか?)
「ん、フォン? なんだい?」
(ちょっと穿った見方だが……)
(何か思いついたっすか? 何でもいいから言って欲しいっす)
(うむ。そんな稚拙な偽装、すぐバレるだろと思っとったらふと、頭をよぎったんじゃが……実は密輸だとバレても構わない、いや寧ろバレることを前提に仕込んだとしたら? とな)
(わざとバラす~? 何のために~?)
(お主らとつるみ始めてこの国の情勢はいくらか聞いてはおるが……大手商人の中ではそのアスロッカとやらがトップで王室や内府相手では一番の大店なんじゃろ? で、ドレン他は水を開けられとると……)
(そうだけど、だから~?)
(追い越せんなら足を引っ張って失脚を狙う。そんな手合いは珍しく無い、と思ってのう)
「濡れ衣工作……か?」
(濡れ衣って……だからそれってバレたらアスロッカのせいにする気で~)
(罪を押し付けるというより、アスロッカが魔導国と武器のヤミ取引――国家反逆に等しい事をやってるって醜聞ぶち上げて、疑惑や悪感情な噂を広めるのが目的じゃないっすか?)
(なんだってそんなメンド臭いコト~……)
(ふむ~。信用を失墜させて市場から排除、その後に利権共々牛耳ろうってな腹かや? 姑息よのぅ)
「そうだとすると……でもドレン商会は、すっとぼけて認めないだろうな。ドレンは農機具だと騙されて請け負わされた……そんな形にする気だろ」
(コウさん? 今夜の所はここで切り上げて、宿に帰ってきて欲しいっす。その辺も検討するっすよ。俺たちもこれから戻るっす)
「わかった、そうするよ」
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昼間はまだ温かいが、夜のとばりと共に気温が低下して晩秋を実感できる昨今。元ドレン商会倉庫支配人ヘンリー・フリージンの妹エマ・フリージンはそんな時分に、商会のラマント支店に呼び出されていた。




