蠢くタンテイ 4
「うす。付近の他社倉庫で聞き込んだんすけど当直が二人っす。不寝番を兼ねて泊まり込むんだそうっすよ。鍵はそいつらが持ってて用事を伝えないと入れないっす」
(今、女性の従業員は?)
「現場、事務所、詰所合わせて二~三人は居たわよ?」
(それだな)
「フォンさんに……憑依……させる、の?」
(我の出番か!)
(ああ、荷を確認しよう。それで目的が分かるかもしれない)
「明日の午前、もう一度倉庫に行ってみるっす。まずはコウさんが聞いたように『支店長がまだ戻らない』とか、『支配人は不在だ』とか煙に巻かれると思うっすけど……」
(ああ、そこは一旦、了承して下がって。それほど急いではいない、他に調べる事も有る、みたいな感じで。連中には『今日、一日は時間が取れるな』って気を緩ませよう)
「で、あたしが遠巻きに透視すればいいのね?」
(荷に対して、過剰に反応させないようにね。中身そのものは、日が明るいうちに由美くんがスキャンできるかな? 伝票等が有るのなら、それがどこに保管されるかまで分かるといいんだけど)
「ん、わかった。やってみるわ」
(荷の流れに疑問が出たら、事務所に忍び込んでその伝票・帳面をチェックしよう。コウくんとフォンくんの連携に期待するよ)
「潜入はお手の物さ。任せてくれよ」
(我の初陣じゃな! 気張るぞ!)
(じゃあ、みんな。くれぐれも身の安全には気を付けて。お互いフォローし合うのを忘れずにね)
明日の指針は概ね固まった。
偽装された心中事件。真相は、言ってしまえば最悪の方向に向かい始めている。
だがそこは、真実を突き止めるのが探偵の真骨頂。まだ口外できる段階では無いが地道に真実に辿り着きつつある。
光一は胸の内の猛りがアツくなってくるのを自覚していた。
♦
昨日の取り決め通り、前回と同じく朝の出荷が落ち着いた頃合いで倉庫に訪問した良介と由美は、
・支店長がまだ戻らない
・最終決済は支店長の権限であり、戻るまで返答は不可
・今日中に戻る予定だが時間は不明
などとコルシに言われ、内部調査を断られた。予想通りである。
良介は、他にも調査があるから滞在中であれば構わない、でも不問にはしないよ? など硬軟交えて返答してその場を去った。
光一の情報から、荷の搬入は午後である。
それまでの間、探偵団は合流はせずに各々で分散していた。
商会に怪しまれているであろう由美と良介は尾行が付いているものと仮定し、午前中は事件に関係の無い、町の情勢や巷で話題になっている事柄を町民から適当に訪ね歩くという偽装行動を取った。
おそらくはそのうちの何人かが尾行に「何を聞かれた」かなどを問い質されたと思われるが、全ては空振りである。と言うか、他にも調査がある、と商会の者に言っていた通りの事をしているだけである。本筋とは全く関わりの無い事であり、尾行は肩透かしの連続であっただろう。
(リョウさん? ドレンの隊商が東門に入ったよ)
(予定通りっすね)
東門付近に待機していた光一はドレン商会の屋号紋が付いた馬車隊の通過を確認した。
(検問受けずに素通りしてるな。他の連中は荷の検査されてるのに)
(大手と言う事で信用されてるのか、若しくは袖の下っすね。おそらくアスロッカ商社も同じ待遇だと思うっすよ)
倉庫通りから500m弱離れた場所にあるカフェで遅い午後のお茶を嗜んでいた良介と由美。光一からの連絡を受けて由美はスキャンの準備に入った。しかし……
♦
例の荷は情報通り、午後4時半ごろに搬入された。
荷に付き添ってきたラマント支店長ペッピーノ・チャーニは、倉庫事務所の椅子に座って冷えたワインを飲みながら、自分が出張していた間に起こった事を、副支店長キリオや支配人コルシから報告を受けていた。
「タンテイ? なにもんだ、そりゃ?」
チャーニは首のリボンタイを緩めながら、新たな懸念事項の報告に不機嫌な表情を隠さなかった。
「ヘンリーのゴタが片付いて、ようやくあの方の計画に戻れたと思った矢先に鬱陶しい話だのう。で、何を嗅ぎ回っとるって?」
「どうやらヘンリーの死因と背景を探っておるみたいでして」
コルシもまた、鬱陶しさを感じる口調で、軽いが吐き捨てる様な口調で報告。
「王都の公安関係からの依頼かもしれんとな? ホントかそれ?」
「当人は口を濁しておりましたが……聞き慣れない職種といい、そんな可能性もあるか、と」
「内府の探索方みたいなモノかも知れませんでな。やっと計画が再開した矢先ですし、慎重に対応すべきかと……」
「果たしてそれは……信憑性は如何なものでしょうなぁ……」
キリオの慎重意見に異を唱える声。
チャーニもコルシも、この部屋の4人目の男に目を向けた。
生地は薄いが濃いグレー色のフードを被せており、表情全ては窺い知れないものの、そこから洩れる眼光は、深く鋭いものが有った。その人物に初めて会うコルシは、彼から発散されている気で威圧されるかのプレッシャーすら感じ、尿意が一気に突き上げて来て、下着を汚してしまいそうであった。
「シルバート卿。卿はそういった類の、諜報や調査方の様な職種には我らより詳しそうでありますが……なにか感じるところはございますかな?」
キリオが尋ねた。
「ふむ……まあ、政府中枢には警吏や警衛辺りとはまた畑の違った分野で情報を集める手の者は居りますが……何と言いますか、件の者は……」
シルバート卿と呼ばれたフードの男はチャーニと同じく冷えたワインを一口含み、ちょっとのあいだ口内で転がして唇の内外を湿らすと、
「いささか……わざとらしさが拭えません」
正に、"勿体ぶった"を絵に描いたような物言いで答えた。
「ハッタリ……で、あると?」
「まあ、あくまで可能性の問題、ではありますが……ね」
シルバートはグラスを置いた。
「前支配人の一件でピリピリしているところに、明言せずとも公安関係を嘯く手合いに新支配人……コルシさん、でしたな? 彼が過敏に反応するのもやむを得ないところではありますが……もっと単純に考えてもよろしいのでは?」
「と、申しますと?」
「前支配人の死が一番堪えている手合いですよ」
「あ……」




