お話しましょう【人体模型相席中】
「午後からは王女達の部屋を訪ねようと思ってるんだ」
私の言葉にギルバートは顔をしかめた。むしろ身体全体で「反対だ」と語っているようにも見えるけど、私も譲れない。
「ほら、エディオス様が王女達には問題があるって言ってたから。マチルダ王女はあの癇癪で、アティ王女はぶっ飛んだ思考回路のことだと思うんだけど」
他の王女は何が問題か解らない。態度の問題は置いておくとして、何か個別に問題があると思うんだけど・・・
何にしろ個人の性格を知っておく事に損はないはずだ。
ギルバートはまだ納得いかないようだったけど、最終的に私の判断に従う意思を見せてくれた。
いつも言うことを聞いてもらってばかりで悪いから、今度お小遣をあげようかな。
最初はレベッカ王女の部屋から。
レベッカ王女と言えば眼鏡をかけてるからか賢そうに見えるけど、実際彼女の国は学術が盛んなんだっけ。
眼鏡が似合うって良いよね。私も持ってるけど老眼鏡だし、似合う似合わない以前になくてはならないものだしなあ。
あと、昔も今もお世辞にも賢いとは言えないし言われたこともない。
「レベッカ王女、ヒナコです」
「どうぞ入って」
前もって訪問の意思は伝えていたからか、入室の許可はすぐにおりた。私は後ろにいるギルバートに目配せして、扉に手をかける。
お、今回はすんなり開くみたいだ。
「開かない!」
開きかけた扉は途中でつっかえたのかそれ以上私を通そうとしなかった。
なんだなんだ、期待させといてこの仕打ち!
私がやきもきしていたら、中にいるレベッカ王女も異変に気がついたらしく声がかけられる。
「あら。ごめんなさいね、少し待ってくれるかしら」
待てというなら待たせて貰おう。
そんな私の耳には先程から、ガガガゴゴゴとかばさばさばさーとか形容しがたい音が現在進行形で届いている。全部レベッカ王女の部屋から聞こえてくるんだけど、何が起きているんだろう・・・
というか、私この部屋に入って大丈夫なの?
ぎちぎち言い始めた扉の向こうに一体どんな光景が広がっているというのか・・・
私もギルバートも一言も会話を交わす事なく、ただただ奇異な音をバックミュージックに立つ尽くす事暫く。
「ごめんなさい、待たせたかしら?」
意外な事に私達を出迎えたのは侍女ではなくレベッカ王女本人だった。
「片付けたつもりだったのだけど、まだ甘かったみたい。少し散らかってるけど我慢してちょうだい」
そう言いながらレベッカ王女が道をあけてくれたから、言葉に甘えて入室したんだけど。
「これは酷い!!」
人様の部屋にお邪魔しておいてこの一言こそ酷いと言われそうだけど、でもその一言に尽きたんだ。
「どうしたんですかレベッカ王女!盗難にでもあったんですか?ストレス発散で暴れたりしたんですか?」
「違うわよ、片付け終わった所だもの」
どこがだ!
私はレベッカ王女の片付け終わったらしい部屋を見渡した。床一面に散らばった本や紙、何かの骨や薬草らしきもの。ところ狭しと積まれた本は今、私の視界の片隅でどさどさと崩壊していった。小規模な滅びの瞬間を見てしまった気がする。
汚部屋とかいうレベルじゃない。
壊滅した荒野である。
「ソファーに座ってちょうだい。机のお菓子も食べて良いわよ」
「あの、ソファーには先客がいらっしゃるみたいですよ」
レベッカ王女の親切を無下にするつもりは毛頭ないけど、彼女が勧めてくれたソファーには既に人体模型が腰かけていた。
何で人体模型・・・?
というか、私この・・・彼?彼女?・・・の隣に座るんだろうか。
「そのソファー、2人掛けだから大丈夫よ」
やっぱり隣に座らせるつもりだったんだ!長く生きてきたつもりだけど、流石に人体模型と席を共にしたことはない。
する予定も無かった。
だけどまあ、勧められては断り辛い。
ちょっと珍しい人と相席するくらいの気持ちで座ってしまえば良いんだ、できるだけ隣を見ないようにして。
そもそもソファーにたどり着くまでに障害物がありすぎる床に難儀しながら、彼?彼女?が待ち受けるソファーの隅に私は座った。
隣から何とも言えないオーラを感じる。
部屋全体を見渡せる位置に立ったギルバートが複雑そうに私達を見やった後、そっと視線を伏せた。
何かな、その反応は。
「私ね、何でも知りたくなったら我慢出来ない性格なのよ」
反対側のソファーに座ったレベッカ王女が口を開いた。因みに彼女の隣には何かの骨2号が鎮座していらっしゃる。
「人でも物でも気になるものは調べ尽くさないと気が済まないの。おかげで色々荷物が増えちゃって・・・他人に片付けを頼んだら何処に何があるか解らなくなるから嫌なのよね」
「はあ・・・」
自分で片付けても片付いていないと思うのだが。レベッカ王女は眼鏡をくい、とあげてから、悩ましげなため息を漏らす。
「おかげで国では色々と疎ましく思われてるみたい」
好奇心が旺盛なのは良いことばかりとは限らない。
時には身を滅ぼす原因にもなるし、それから悪どい貴族達にしてみれば悪事が世間に露呈されては敵わないと考えるだろう。世間からしてみれば悪が裁かれるのは良い事でも、そう考える人は最初から悪事に手を染めたりしない。しつこい人間ならレベッカ王女を逆恨みしかねないし、彼女が知らない所で王家と貴族が手を組んでいるかもしれないんだ。
王家とは国を守るためになら、天使にも悪魔にも助力を願うものだから。
そういった意味では彼女の性格は確かに問題だろう。知り尽くさないと気が済まないというなら、逆に言えば知るために何でもするとも言える。オスタシアの王妃になったとして、自分の好奇心を満たす為に他国に情報を流されでもしたら大変だ。
なるほど、これがレベッカ王女の問題。
あと、言っては悪いがインテリアのセンスもエディオス様と合わないと思う。
今も私の隣に座っている人体模型を好意的な判断をして、彼女が人間の肉体美に興味があるとしよう。骨格、筋肉、内臓全て含めてだ。
例えそうだとしてもエディオス様とは合わないだろうな。あの人は他人の美しさより何より自分の美しさが大事だから。これも骨格、筋肉、内臓全て含めてだ。
・・・駄目だ、頭痛くなってきた。
「失礼ですが、レベッカ王女はエディオス様をどう思われるかお伺いしても宜しいですか?マチルダ王女とは血縁者ですよね、彼女はエディオス様に好感を抱いているみたいですけど・・・あの、仮にどちらかが王妃についたとして、その後不仲になるとか・・・」
不仲になって、国交断絶のきっかけにされたら困る。男一人取り合った結果仲たがいなんて王族として馬鹿馬鹿しいが、レベッカ王女はともかくマチルダ王女の気性では有り得ないと言い切れないのが辛い。
「エディオス王については興味があるわね。でも男女関係ではなくて、純粋に観察対象としての話だけど・・・秘密を沢山持ってそうな人って気にならない?」
「いえ、全く」
どちらかと言えばお近づきになりたくない種類の人間に当て嵌まる。
「あら、そう?・・・でもエディオス王はまさにその類の代表みたいなものだと思うけど。彼は秘密を作ったり嘘をついて周囲が右往左往して慌てふためくのを高見から笑って見物するタイプだと思うわ」
凄いな。まさにその通りだ。
「でもきっとそういう人って、自分に嘘をついたり自分の感情から目を反らすのも得意だと思うのよ。捻くれているというか、歪んでるというか・・・貴女とは全く別の人種でしょうね。エディオス王にとって貴女はとっても厄介な存在なんじゃないかしら」
「ええ・・・」
厄介者かあ・・・
そんな認定嬉しくないなあ。
私の微妙な反応に気がついたんだろう、レベッカ王女は少し笑った。
「ああ、悪い意味ではなくてね?苦手な人っていうのかしら。後ろめたい事がある人間は真っすぐ正論をぶつけられると怯むものなのよ。彼にとって貴女はそういう立場なんでしょう。複雑な感情を抱いてるんだろうけど、コディア王女が言うようにとても大切にしてると思うわ」
また私の耳に虫が入ったらしい。
いやむしろ、コディア王女とレベッカ王女の目に虫が入ってるんじゃないのか。
「マチルダのことは大丈夫よ。そもそも私達、あまり仲が良くないの」
最初から仲が良くないのもどうなのか。
いやまあ、個人的な問題にまで私が口を出せる立場じゃないんだけどね。
「私達だけじゃなくて、国同士だって何とかやっていってるようなものよ。アジェンダイの悪政の飛び火がこっちにきたら良い迷惑だもの」
じゃあ、エディオス様はどっちかの国を利用してどうこうするつもりはないのかな。互いの国が不仲なら利用することも簡単な訳ないし・・・
だったらどうしてアジェンダイの王女を呼んだんだろう。やっぱりハパルーが関係してる・・・?
レベッカ王女とはそれからも色々な話をした。学術の国の王女なだけあり、やっぱり聡明な人だ。
底無しの好奇心さえなければ、或いはどうにか抑えれたら賢妃になれそうなんだけど・・・
本人にその気が無いのが一番問題だな。
彼女の部屋を退室する直前、部屋の隅で何かが光った気がした。
すぐにそちらを見たけど、今にも崩れそうな本の山があるだけだ。他に異常は見当たらない。
気のせいかな?




