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その生徒は、最初から目が合わなかった。


窓際の席。


頬杖をついて、外を見ている。


授業なんて、聞いていない。


「おい」


声をかける。


少し遅れて、視線が動く。


でも、最後まで目は合わない。


「名前は」


「……奏」


短い返事。


それだけで終わらせようとする感じ。


距離を取っているのが、分かる。


その感じが——


目を逸らす癖まで


昔の自分に、似ていた。


黒板に向かう。


チョークを持つ。


『誰かを、見捨てるな』


振り返る。


奏は、その文字を見ていた。


じっと。


少しだけ、眉を寄せて。


「それ、どういう意味」


質問は、短い。


でも、逃げていない。


「……そのうち分かる」


それだけ答える。


説明はしない。


まだ、届かない気がした。


放課後。


教室に残るようになる。


何をするでもなく。


ただ、そこにいる。


沈黙が、続く。


でも、不思議と居心地は悪くない。


誰かが、ちゃんと見ている気がした。


「帰らねえのか」


「……別に」


「家、遠いのか」


「普通」


会話になっているようで、なっていない。


それでも。


少しずつ、距離が変わる。


ある日。


ノートを開いている奏の手が止まる。


「……先生」


「なんだ」


「本当に、最後までいるの」


同じ質問。


でも、前より少しだけ近い。


「いる」


迷わず答える。


今度は、嘘じゃない。


奏は、少しだけ視線を落とす。


それから。


小さく頷いた。


帰り際。


振り返る。


「……ちゃんと、いてよ」


その言葉に、一瞬詰まる。


それでも。


「ああ」


はっきり答える。


約束する。


今度こそ。


——あの言葉を、忘れない。

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